作法では、アルファ側が先に会食の場で待つのだという。

 オメガ側は約束の時間より遅めに着くのがしきたり。

 その他にも色々あるみたいで……。

 車の中で、わたしと両親は打ち合わせに余念がなかった。

 お父さんが運転しながら言った。



「あやめ、覚えてるか? 父さんが言うまであやめは話さないこと。聞かれたことだけに答えること。それと……」

「もう、わかってるってば。お相手の顔をジロジロ見ちゃダメなんでしょ? お父さんこそしっかりしてよね」

「うう……上手く話せるかな……」



 お父さんがあたふたしているので、わたしはかえって落ち着いてきてしまった。

 顔合わせが終わって、交際を進めるかどうか決めるのはアルファ側だ。

 どんな結果になったとしても、がっかりしないよう、わたしは心の準備をしていた。

 レストランの受付でお父さんが名前を言うと、個室に通された。

 大きなテーブルに、年配の男女に挟まれて座る一人の男性。

 彼が……里春さん。

 どうしても、好奇心が勝ってしまって、里春さんの顔を見た。

 柔らかそうな目元。すっと通った鼻筋。スーツの上からでもわかる鍛えられた体格。

 目が合ってしまって、わたしは慌ててうつむいた。



「森野さん、こちらにどうぞ」



 園田さんだった。わたしは里春さんの正面に腰掛けた。

 すると、あの香りだ。

 香布と同じ、優しいけれどそわそわする香り。

 自分の顔がほてっていくのがわかった。

 わたしはテーブルに並べられていたカトラリーを見つめていることにした。

 グラスに注がれたのは、多分グレープジュース。

 他の人たちにはワインのようだ。

 園田さんが乾杯の音頭を取った。



「それでは、一条家、森野家、顔合わせを執り行います。乾杯!」



 ここも打ち合わせ通りに。わたしは軽くグラスを上げて、ちびりとジュースを口に含んだ。

 それからは、両家の父親同士が話をした。

 難しい用語が出てきてしっかりとはわからなかったけど、一条家は代々警察官の家系らしい。

 里春さんは現場に出たいと願い出て、今は交番のおまわりさんをしているのだとか。

 父にはわたしのことは変な風には言わないで、と言っていたから、ピアサポーターを目指していることだけ話してくれた。

 食事も進んだところで、里春のお父さんがこう言った。



「里春、あやめさんとお話しなさい」

「はい」



 いよいよ、里春さんとのお話だ。