わたしと両親は、園田さんに呼び出された。

 園田さんに差し出された一枚の香布。

 手に取る前から、ふんわりと甘い香りがしていて。鼻に近づけると、くらりとめまいのようなものがして。



「これは……」



 一ヶ月前に嗅いだ、どの香布とも違う。

 お酒を飲んだことはないけれど、酔う、ってこんな感じかな?

 ずっと、ずっと、包まれていたい。そんな香り。



「あやめさん?」

「この香り、好きです……!」



 園田さんはポンと手を叩いた。



「ふふっ、この香布ね、あやめさんの香布を気に入った方のものなの! 成立ね。そうと決まればお父様、お母様、顔合わせに進みますよ」



 お父さんが焦ったような声で言った。



「えっと、その、顔合わせは具体的にはどうすれば……」

「アルファ側が時間と場所を指定します。私も同席しますからね。お父様は、アルファのお父様とのやり取りをお任せしますから、忙しいですよ」

「はいっ!」



 そして、一旦園田さんが席を外し、封筒を持って戻ってきた。



「こちらが釣書です。先にお渡ししておきますね」



 釣書とは、履歴書のようなものらしい。お相手の名前や生年月日が書かれていた。ただ、写真はない。

 一条里春。

 二十五歳のアルファ男性で……警察官だった。



「里春さん……」



 この素敵な香りの人は、どんな人なのだろう。

 警察官、ということは、堅い感じの人なのかな。

 わたしの想像はどんどん膨らんだ。

 それから、顔合わせの日が一ヶ月後に決まって。場所はフレンチレストランになって。

 お母さんと一緒に薄紫色のワンピースを買いに行った。



「うんうん、あやめはこの色が似合うね。名付けた通りに育った」

「少しは大人っぽくなれてるよね? 七歳も上の人だから、心配……」

「大丈夫。あやめは世界で一番可愛い女の子だよ」

「もう、お母さんったら親バカだなぁ」



 寮ではみんな、わたしの護見合いの話ばかり。



「ねえねえ、上手くいったら、もしかしてすぐ結婚?」

「気が早いよ。せめて高校を卒業してからだよ。それに、実際会ってみたら全然気が合わないかもしれないし……」



 わたしはずっとオメガ校で過ごしてきた。

 アルファの人と話すのなんて、お医者さん以外だとこれが初めてだ……!

 期待と不安が入り交じる中、ついに迎えた顔合わせの日は、清々しい青空が広がっていた。