寮に戻り、何日かして、両親から送られてきたのは、何枚かの真っ白な布だった。大きさはハンカチくらい。



「ふぅん、これが香布(こうふ)か……」



 護見合いの作法、香布交換。

 自分の香りをつけた布を交換して、その香りがお互いに気に入れば、顔合わせに進む。

 それまでは、相手が男性なのか女性なのか、年齢や名前さえも知らされない。

 わたしは枕の上に香布を敷いて眠り、香りをつけた。

 そして、さらに一週間後。

 わたしは両親と一緒に、世話役と呼ばれる護見合いを進める人の家に来ていた。

 古い瓦屋根の一軒家で、表札には「園田(そのだ)」とあった。



森野(もりの)あやめさんですね。世話役の園田です。楽になさってね」



 園田さんは、ふっくらとした頬の上品な年配の女性だった。

 わたしは両親に挟まれて座り、園田さんが用意してくれたお茶を頂いた。



「あやめさん、香布は用意されたかしら?」

「はい、これです」



 わたしは封筒に入れておいた香布を差し出した。



「ありがとう。早速だけど、何枚かアルファの方の香布がここにあるの。嗅いでみる?」

「えっと……じゃあ」



 園田さんに香布を渡され、おそるおそる鼻を近づけてみる。



「うーん……?」



 一枚目は、何の香りもしなかった。



「よくわからないんですけど、特に何も感じなくて」

「じゃあ、ご縁がないのね」

「そういうものなんですか」

「ええ。次の香布にしましょうか」



 二枚目、三枚目、四枚目……。

 全然ピンとこない。

 最後だと言われた五枚目も、香りがわからなかった。



「すみません、どれもわたしには……」



 園田さんは目を細めて微笑んだ。



「謝ることじゃないのよ。香布交換は慎重にするべきことなの。もし、あやめさんの香布を気に入った方がいらっしゃったら、ご連絡しますからね」

「はい……」



 寮に帰ってからは、同級生たちの質問攻めに遭った。



「ええっ? あやめ、何も進まなかったの?」

「そうだよ。あんなので本当に番なんか見つかるのかな?」



 部屋に一人になってからは、両親に貰った冊子をペラペラとめくった。



「護見合いで結婚した場合の離婚率は非常に低いという統計が出ています」



 その箇所を指でなぞった。



「もしそうだったらいいけど……」



 香りだけで会うかどうか決める、だなんて、変な制度。

 それから一ヶ月間、何の音沙汰もなく。

 どうせ上手くいかなくて、両親には諦めてもらうことになりそうだな、と思っていた頃だった。