出生時にわかる男性、女性という性とは別に、思春期頃に判明する第二性――アルファ、ベータ、オメガ。

 日本では十歳児検診が行われ、中学生以降の進路を決められる。

 両親がベータだと、子供はほぼベータになる。

 だから、わたしがオメガだなんて、両親にとっても驚きだったわけで。

 オメガ専門校を決めるのは、かなりバタバタしたみたい。

 わたしは寮生活をすることになって、ヒートと呼ばれる体調不良期は寮の医務室で過ごした。

 オメガはいつか、アルファと結ばれ、番になる。

 いつかわたしも、運命の人と一緒に暮らすんだ。

 そう夢見ながら、わたしは十八歳になった。

 誕生日、わたしは自宅に戻り、両親にお祝いしてもらった。



「あやめ、おめでとう!」



 生チョコレートたっぷりのケーキ。寮だと食べられないごちそうだ。

 わたしはそれを頂きながら、高校生活について両親に話した。



「ヒートの周期も安定したから、教室に行ける日の方が多いんだ。勉強なら大丈夫だよ」



 両親はニコニコしながら話を聞いてくれていたけれど、ケーキを食べ終わる頃に、二人とも真面目な顔つきになって、わたしに冊子を差し出した。



「これ、何?」



 お母さんが言った。



「護見合いの本。あやめ、早く結婚したがってたでしょう? 護見合いが一番安全だと思ってね」

「護見合い、って確か……」



 わたしは冊子をめくった。アルファとオメガが番を探すための伝統的なお見合い、それが護見合い。

 色んな作法があって、堅苦しいけど、護見合いで結ばれた二人は安定した結婚生活を送れるという。



「ええ……古いよ、今どきこんなの」



 わたしはそう返したけれど、お父さんがこう言った。



「うちはベータの家系だし、こういう紹介でないとアルファの人と知り合えないだろう? 社会に出てから自然な出会いを探す方が大変だと思うんだよ」



 お母さんも口を添えた。



「あやめはピアサポーターになりたいんでしょう? だったらなおさら、アルファの人との出会いがないじゃない」

「うーん、それはそうだけど」



 わたしは高校卒業後、通信制の大学で資格を取って、同じオメガの子供を支えるピアサポーターになることを目指していた。

 オメガはヒート症状のせいで働くことが難しい。

 そんなわたしでも誰かの役に立てることを考えたとき、ピアサポーターの人にお世話になったことを思い出して、自分もそうなりたいと思うようになった。

 仮にそれが実現すると、確かにアルファの人とは関わらなくなる。



「試しにやってみるけど……本当にお試しなんだからね?」



 あまり気乗りしないまま、わたしは護見合いをすることになった。