トーキー


会社での仕事を終え、気の早い夜の蒸し暑さに汗だくで自宅マンションにたどり着いたら、
きみが居間のテレビで映画を観ていた。

裸で。

無理やり折りたたまれたように膝を抱えていた。木の床の上で。暗闇で。
白黒の無声映画だ。僕は観たことがない。きみの横でスマートフォンがほんのりひかっているから、ストリーミングサービスの動画をテレビに映し出しているのだろう。
(観ているとはとても思えないけれど)

何十インチの超薄型テレビの灯りで、つややかな黒髪に銀色の輪がかかり、紫色がかった黒い目がうっすら金色に見えた。

会社では早々にAIソフトが導入され、新しいことになかなか馴染めないきみは、毎日上司にいじめに近い指導を受けていた。
- ここ、AIを使えばかんたんなんだけど。
- まだ使い方覚えてないの? 目を開けて寝てるのか?

ハラスメントやコンプライアンス違反、などと言う言葉が馴染み深くなった昨今でも、それはインターネット上に限ったことであって、この世界に根を張った病巣はそうかんたんに取りのぞけるものではない。悪性化する一方だ。しかも、
ハラスメントをする側はそうしている自覚がない。「コミュニケーション」や「教えている」と言う耳障りの良い言葉に変換されてしまう。その上司は、自分が面倒見がよく素晴らしい上司だと思いこんでいる。

僕はきみの仕事が好きだ。綺麗に作られた円グラフや棒グラフ。詳細なデータを見やすくわかりやすくする能力を僕はとても高く評価していた。が、
時代は効率を重視する。タイムパフォーマンス - タイパを重視する。きみが一生懸命パソコンと向き合って、汗水垂らして作りあげたデータは、あっさりとシュレッダー行きだ。

画面では、
金髪の女性と黒髪の男性が、親しげに顔を寄せて何かを話していた。