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今日も今日とて部活の違う友達を待ってから帰る。未だにソ連が好きだ、などと打ち明けられていないが、それ以外に関しては実に楽しい友である。嗚呼
「陸海空はどうしたい?」
……自分の名前が出る度につくづく思う。嗚呼、なぜこのような当て字を当ててしまったのだろうか、と。私の名前は日乃本 陸海空。陸海空と書いてイロハ、と読む。由来は地球を作る陸海空のように、世界の手本となるようなしっかりしておおらかな心を持ってほしいからだという。まるで日本軍のような名前だ。このようなことを思ったよりも倍早く思い巡らせて、私は答えた。
「えー?いいんじゃない?」
私は、友達の碧に言った。碧と書いてアオと読む。すごく自由な性格をしている。碧から、だよねー、と適当な返事が返ってくる。碧が聞いたことはそこまで重要なことではなかったようだ。

「ただいまぁ。」
生気を失ったような声で家に入る。両親はどちらも仕事で不在だった。帰ったから自主学習ノートとワークをしなきゃいけないなぁと考えながら、宿題ってなんのためにあるんだろう?もしかしたら自分のためだと思い込ませて国の偏差値のレベルを高めるだけの手段であるのではないか、などと哲学的なことにのめり込みながら二階にある自分の部屋に上がった。
 ノートを開く。今までとても小さな字で書いてきた細かい自主学習ノート。今日はワーク30ページしなきゃならないから大きな字で埋めた。ワーク30ページってただコツコツやってない自分が悪いのだけれど、今、後悔したって因果応報という話だ。

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「ん…疲れたぁ…」
誰もいないのに自分の声を出す。外の空気を吸いたい。なんだかこの部屋は勉強という嫌な空気が漂っている気がする。
 もう夕方で夕日の差す頃になっている。公園までの道のりをゆっくり歩きながら、あ、こんなところに紫陽花、あ、ここの用水路魚居る、とか小さな発見をいくつかして公園の入口の黄色い柵をまたいで公園に入った。遊んでくれる子がいなくて寂れた遊具。風で微動するブランコ。なんだか公園という場所が、神秘的な場所に思えてきた。
「林檎の花ほころび」
もう日が沈み、星が点々と瞬きだした頃、ソビエト軍歌のカチューシャを小さな声で歌う。
「川面に霞立ち」
流れ星流れないかな…。
「君なき里にも春は忍び寄りぬ」
綺麗な星…。
「君なき里にも春は忍び寄りぬ」
あっ、流れ星!
 その時、魔法にかかったような不思議な感覚に包まれていた気がした。