奥さまが恋に落ちるまで

「えっ!?別にそんなこと⋯⋯うーん、やっぱりそうなのかしら⋯⋯」
「冗談だって。僕は、そんなきみが好きなんだ。それに、こんな風に、いつも子供のことばかり考えていられる時期なんてそう長くないし、あの子が巣立つ日まで、二人で気にかけていようよ」
 そう言われ、ふと気づく。
 約5年後には、翼は大学進学で遠くに行ってしまうかもしれないし、そのまま帰ってこないのかもしれないと思うと、急に切なくなって涙が出てくる。
「あーもう、泣くなよ」
 大きな手で涙を拭ってくれて、次の瞬間には軽くキスされた。
「ちょっと!他にも人がいるのに⋯⋯!」
「どうせ誰も見てないし、知り合いもいないから大丈夫だよ。旅の恥は掻き捨てってことで」
 夫はいたずらっ子のように笑った。

 私⋯⋯恋に落ちたかもしれない。