奥さまが恋に落ちるまで

「そういうものかしら⋯⋯」
「まあ、桜子さんは昔から素直な子だっただろうからね。翼の学校は校則が厳しいし、休みの間ぐらいは好きにさせてやろうよ。桜子さんがどこか行きたいなら、二人だけでどう?」
 まるでデートに誘われたような感じがして、思わずときめいてしまう。
「そ、そうね」
「天気のいい日がいいよね。週間予報は⋯⋯お、次の週末は降水確率0パーセントだって。じゃあ、決まり!」

 週末、私はおめかしして夫と二人で出かけることに。
「翼、火の元は気をつけてね」
「わかった」
「変な電話がかかってきたり、誰か来ても応じちゃダメよ」
「わかってる」
「それから⋯⋯」
「桜子さんってば、もういいから。じゃあ翼、頼んだよ!」
「ハイハイ」
 今朝、夫は車を磨いたようで、やけにピカピカになっている。
 車に乗り込むと、
「二人きりで遠出するのなんて、翼が生まれてからは初めてかもね」