奥さまが恋に落ちるまで

　大学四年の頃、敦司さんと見合いをした際、彼のご両親が言っていたことを思い出す。
「私たちは、敦司の二人の兄のことをかなり厳しく育て、その結果、長男は医者になり、クリニックの後継者にもなりました。しかし、次男は受験失敗がきっかけで引きこもりになってしまい、お恥ずかしながら、今に至ります。それもあって、歳の離れた末っ子の敦司のことは自由にさせたら、この通り、かなり呑気でマイペースに育ちました」
　私も、両親も、彼にとても好感を持ち、彼もまた私を気に入ってくれた。
　その後、初めてのデートで、彼は、
「親の手前、国立医学部を受験したものの、勉強不足で落ちてしまいました。薬学部には合格しましたが。本音を言うと、医者になりたいという強い志があったわけでもないので、置かれた場所で咲こうと思い、薬剤師を目指すことにしたんです。野心のない、つまらない男だと思われるかもしれません」