奥さまが恋に落ちるまで

　夫は、どこか奥歯に物が挟まったような言い方をする。
「どうしたの？もっとハッキリ言っていいのよ」
「うーん⋯⋯たぶん、きみには刺激が強すぎるから」
「あなたのお友達に同性愛者がいるのは初耳だわ。結婚式に来てくれてた人？」
「いや。彼は『結婚なんて大嫌い。男女にしか許されないものを好きになれるわけがない』って昔から言ってたし、こっちに引っ越してからは疎遠になってるからね」
　確かに、同性愛者を結婚式に呼べば、余計に疎外感を与えてしまうかもしれない。
　あとで知ったことだが、友人の結婚式を合コン同然に思っている人も割といるらしいから。
「翼の様子を見ている限り、以前と何かガラリと変わったようには見えないけど、好きな子でもできたのかな」
「私にも全然わからないわ。男子校ってそういうことは多いの？」
　夫も、中高一貫の男子校出身である。