奥さまが恋に落ちるまで

「ふーん⋯⋯こういう世界なのねぇ」
 夫と息子が留守の間、私はいわゆる“ピュア系BL小説”なるものを読んでいた。独身の友人で、昔からBLが大好きだった子がいたので、久々に連絡しておすすめを教えてほしいと頼むと、
「いろいろあるけど、初心者にはこれがいいよ!」
 そう言って、おすすめリストを書いてくれた。
「てっきり、もっとハードな感じかと思ったけど、少女小説を男同士に置き換えたような感じなのね」
 独り言を言いながら、なかなか面白いと思い、2冊目に手を伸ばす。
 その小説を寝室に置いたままにしてあったので、夜になると夫もそれを少し読み、
「うーん⋯⋯たぶん、現実はこんな感じではないと思うよ」
 苦笑いでそう言う。
「そうなの?」
「昔の友人で同性愛者が居たけど、話を聞いた限り⋯⋯ええと⋯⋯そうだね、少なくとも、こんなピュアな感じではなかった」