放課後の校庭は、夕焼けに染まっていた。
赤く燃える空の下、私は鈴馬を呼び出した。
理由は言わず、ただ「話したいことがある」とだけ伝えて。

ベンチに並んで座ると、鈴馬はいつものように笑って言った。
「どうしたの?珍しいね、かぶりんから呼び出すなんて。なんかあった?」
その笑顔が、胸に刺さる。私はその笑顔を、守りたかった。だからこそ、壊さなきゃいけない。

「鈴馬、私たち…別れよう」
言葉が空気を裂いた。
鈴馬の笑顔が一瞬で消え、目が大きく見開かれる。

「え?…なんで?俺、何かした?嫌われた?」
「違う。鈴馬は何も悪くない。私が…勝手に決めたの」
「勝手にって…そんなの、俺、納得できないよ。理由を教えて。お願いだから」
鈴馬の声が震えていた。私はその震えに耐えられず、目をそらした。

「ごめん。ほんとに…好きだった。でも、もう一緒にはいられない」
「それって…誰か他に好きな人ができたとか?俺のこと、もうどうでもいいってこと?」
「違う!…違うの。鈴馬のこと、今でも大好き。でも…だからこそ、離れたいの」
「意味わかんないよ…好きなら、なんで離れるの?俺たち、ずっと一緒にいるって言ったじゃん」
「その“ずっと”が、私にはもう…できないの」
私は立ち上がった。鈴馬の目が、私を追いかけてくる。

「凛…待ってよ。話してよ。俺、何でも受け止めるから。どんなことでも、俺は逃げない」
その言葉に、心が揺れた。でも、言えなかった。 “のうしゅく”なんて言葉を、鈴馬に背負わせたくなかった。

「さよなら、鈴馬。元気でいてね」
私は振り返らずに歩き出した。 夕焼けが、私の影を長く伸ばしていた。
その影の先に、鈴馬の声が追いかけてくる。
「凛!俺は…まだ、君が好きだよ!ずっと好きだよ!」

その言葉が、背中に突き刺さった。
でも私は、涙をこらえて歩き続けた。
この痛みは、私だけが抱えていればいい。
鈴馬には、笑っていてほしいから。