あの夏、金木犀が揺れた

家に帰り、机で押し花を取り出した。

薄れた金木犀の花びらが、懐かしい香りを放つ。

琥太朗は変わった。

傷跡も、冷たい目も、あの夏の彼にはなかった。

でも、今日の傘と、「コハク」の声に、昔の彼がまだいる気がした。

私は押し花を握りしめ、呟いた。

「君は変わってないよ、琥太朗」

この夏、君に伝えたい。

あの時言えなかった言葉を。

窓の外、金木犀の香りが、そっと夜を包んだ。