あの夏、金木犀が揺れた

昼休み、校舎の屋上に続く階段で、教師の怒鳴り声が響いた。

「柊!またサボりか!」

生徒会役員の私が呼ばれ、屋上に向かうと、琥太朗が手すりに寄りかかっていた。

タバコは持っていないけど、制服は乱れ、目つきは鋭い。

「雨宮、生徒会のお嬢さんが何の用だよ」

彼の声に棘がある。

「…校則、守ってよ。みんなに迷惑かかるから」

私の声は小さかった。

琥太朗が一歩近づき、顔を覗き込む。

「昔のお前は、こんな堅苦しい奴じゃなかっただろ」

その言葉に、胸がズキンと痛んだ。

「君だって…昔はそんな目で私を見なかった」

言葉が勝手に溢れる。

琥太朗の目が一瞬揺れ、すぐに逸らされた。

「…余計なお世話だ」

彼は階段を降りていく。

その背中に、袖の傷跡がまた覗いた。

何があったの、琥太朗。