あの夏、金木犀が揺れた

金木犀の香りが、校庭を甘く満たす。

夏の終わり、花びらが夕陽に舞うたび、心が温かくなる。

あの夜、琥太朗の涙を見た。

廃倉庫の暗闇で、彼は私の名前を呼び、笑顔の片鱗を見せた。

「コハク…ありがとう」

その声が、胸の奥で鼓動のように響く。

昨日、木の下で彼が私の頬に触れた。

「コハク、昔みたいに笑えよ」

その言葉に、初恋が熱く燃えた。

小四の出会い、小六の押し花、そして今。

君の笑顔が、私の全てだよ、琥太朗。

教室の隣の席に、琥太朗がいる。

金髪は少し短くなり、ピアスも一つ減った。

不良の仮面が、薄れていく。

警察に不良仲間を告発し、母さんの治療費も支援で解決の兆し。

でも、君の心には、まだ過去の影があるよね。

私はスケッチを握る。

金木犀の木と、笑う二人の絵。

君が「ずっと描けよ」と言ってくれた夢。

この夏、君に私の愛を、ちゃんと伝えたい。

金木犀の香りが、そっと心を揺らす。