あの夏、金木犀が揺れた

祭りの後、校庭の金木犀の木の下に戻った。

香りが、二人を包む。

私は勇気を絞り、お守りを差し出した。

「琥太朗、これ…君の笑顔、守ってほしい」

金木犀の花びらが入った布袋。

彼の目が、驚く。

「コハク…なんで、こんなこと」

彼の声が、掠れる。

「君が…大事だから」

私の声が、震える。

君の笑顔が、初恋の全てだ。

好き、と言いそうになった。

でも、怖くて、言葉が止まる。

琥太朗が、お守りを握りしめる。

「コハク…俺も…」

彼の言葉が、途切れる。

目が、私を捉える。

その瞳に、昔の笑顔と、何か新しい光があった。

「…ありがとう」

彼の声が、温かい。

金木犀の花びらが、風に舞う。

この想い、いつか、ちゃんと伝えたい。