あの夏、金木犀が揺れた

倉庫の暗闇に、殴る音と男たちの笑い声。

「柊、裏切る気か?」

琥太朗が膝をつき、血を吐く。

「母さんを…巻き込むな」

その声に、胸が裂けそうだった。

「やめて!」

私は叫び、倉庫に飛び込んだ。

足が震え、声が掠れる。

男たちが振り返り、琥太朗の目が私を捉える。

「コハク…来るな!」

彼の声は震え、血だらけの顔が歪む。

「琥太朗は一人じゃない!私がいる!」

私は彼の前に立ち、叫んだ。

恐怖で心臓が潰れそうだった。

男たちが笑う。

「彼女か?可愛いな」

その言葉に、琥太朗が立ち上がる。

「コハクに…触るな!」

彼が男に飛びかかるが、殴られ倒れる。

私はカバンからスケッチを取り出し、涙で叫んだ。

「琥太朗!この絵、覚えてて!君が『ずっと描け』って言った!君の笑顔が、私の全てだった!」

金木犀の木と、笑う二人の絵。

私の夢。

君がくれた光。

男たちが一瞬、動揺する。

遠くで、警察のサイレンが響く。

昼間、教師に「琥太朗が危険」と相談したのが、届いたのだ。

男たちは舌打ちし、逃げ出す。