あの夏、金木犀が揺れた

(視点変更:琥太朗)

夜、廃倉庫の冷たい床に膝をつく。

男たちの拳が、腹に、背中に、響く。

血の味が口に広がる。

「柊、荷物運べよ!母親の薬、欲しくねえのか?」

リーダーの声が、耳を刺す。

母さんの咳が、頭に響く。

小四の夜、親父の拳が飛んできた。

「テメエのせいで借金が!」

母さんが震える中、俺は彼女を庇った。

背中の傷は、あの夜の証。

小六、夜逃げでコハクに「さよなら」も言えなかった。

押し花を渡した時、泣きそうだった。

「コハク、ごめん」

心で呟いた言葉は、届かなかった。

中学で親父が消え、母さんの病院代を稼ぐため、こいつらに絡まれた。

「金貸してやるよ、代わりに仕事しろ」

そうやって、俺は汚れた。

笑う資格なんて、ねえ。

コハクの純粋な目が、俺の汚さを映す。

彼女を巻き込みたくねえ。

なのに、なんで彼女の笑顔が、俺の心を締め付けるんだ?

「コハク…こんな俺、見ねえでくれ」