あの夏、金木犀が揺れた

放課後、校門で黒い服の男たちの会話が聞こえた。

「柊、今夜、倉庫な。裏切ったら、母親がどうなるかわかってんだろうな」

その言葉に、足が凍りついた。

家に帰り、押し花とスケッチを机に並べた。

金木犀の花びらが、薄い光を放つ。

琥太朗の記憶が、胸を刺す。

小四の夏、木の下で彼が笑った。

「コハク、いい名前じゃん!」

でも、腕の痣に気づいた時、彼は目を逸らした。

「親父がうるせえんだ」と呟く声が、幼かった。

小六の夏、押し花をくれた夜。

「コハク、ずっと友達な。約束」

彼の声は優しかったけど、どこか悲しげだった。

翌朝、彼の家は空っぽ。

「父親が借金で…夜逃げだって」

近所のおばさんの言葉が、耳に残った。

琥太朗の傷跡は、父親の拳から。

不良仲間は、借金の鎖。

彼が笑わなくなった理由が、胸を締め付ける。

私はスケッチを握り、目を閉じた。

彼の心の奥で、どんな闇が叫んでいるの?

小四の君は、私を助けて笑った。

小六の君は、押し花を渡して約束した。

なのに、なぜ君は、自分を傷つけるの?

私は呟いた。

「琥太朗、一人にしないよ」