あの夏、金木犀が揺れた

金木犀の香りが、校庭から教室に漂う。

夏の終わり、花びらが風に舞うたび、心がざわめく。

昨日、琥太朗がゴミ袋を拾ってくれた。

「コハク、ドジだな」と呟いた彼の声に、小四の夏の笑顔が重なった。

あの木の下で、君は私をいじめから救ってくれた。

小六の夏、押し花を渡して「宝物な」と笑った。

でも、校門で黒い服の男たちと話す君の背中が、胸を締め付ける。

傷跡。

痣。

不良の噂。

琥太朗、君は何を抱えているの?

今日、琥太朗は学校に来なかった。

隣の席は空っぽで、教科書がぽつんと残されている。

クラスメイトの囁きが、耳に刺さる。

「柊、また問題起こしたらしい」

「不良仲間とケンカだって」

生徒会の書類を握り、胸が冷たくなる。

君の傷跡が、頭をよぎる。

小四の痣、小六の別れ、そして今。

私は机の引き出しからスケッチを取り出した。

金木犀の木と、笑う二人の絵。

君が「ずっと描けよ」と言ってくれたから、こっそり続けてきた夢。

君が闇に沈むなら、私が光を灯したい。