あの夏、金木犀が揺れた

教室は昼休みの喧騒に包まれていた。

琥太朗は席を立ち、屋上へ向かう。

生徒会の巡回中、屋上で彼を見つけた。

「琥太朗、またサボってるの?」

私の声に、彼が振り返る。

「雨宮、ほっとけよ。生徒会のお嬢さんにゃ関係ねえ」

その言葉に、胸が痛んだ。

「君がそんなこと言う人じゃなかったって、知ってるよ」

琥太朗の目が鋭くなる。

「…昔の俺は死んだんだよ」

その声に、震えがあった。

「死んでない!君はまだ…コハクって呼んでくれる」

言葉が溢れる。

彼の手が一瞬、拳を握り、すぐに緩んだ。

「…バカか、お前」

呟いて、彼は屋上を去った。

その背中に、袖の傷跡がまた覗く。