「いらっしゃいませ、ご来店ありがとうございます」

お店のドアが開いて、私は振り向いて声をかけた。
ケーキ屋でのアルバイトは想像していたより大変で重労働だったりする。

でも、お客さんが楽しそうにケーキを眺める顔はとても素敵だなと思う。

高校一年生になり、中学の時とは一変して垢抜けて可愛くなるぞという意気込みを胸にケーキ屋でのアルバイトを始めた私。道宮結。私の通う高校は女子校で男の人が苦手な私はとても居心地のいい学校生活を送れている。

ケーキケースの中のケーキを見つめていると
カランカランと、ベルがなって男の人が入ってきた。そして声をかけようとした時、喉が静止して、同時に私は息を呑んだ。

「あれ?、道宮さんだ。」そう言ってくしゃっと笑うその人は、密かに私が憧れていた人だった。

中学の時、塾でアルバイトで講師をしていた北村慧人先生。ふわふわした髪とモテそうなイケメン顔。優しくて、みんなの人気者でスマートな人だった。女子生徒には本気で恋に落ちている子までいた。

「先生、、お久しぶりです」ぺこりと頭を下げもう一度先生を見るとニコニコと私を見つめている。

「あ、ケーキお決まりになりましたらお声掛けください。」そう言って、後ろを向いて作業台の木目を見つめる。

先生の笑顔に懐かしさを覚えると共に、じっと私を捉えて離さないかのような瞳に顔に熱が集中してしまっている気がする。特に用もないのに引き出しを開けたり、蝋燭を触ったりしてしまい、焦りが身体中にまとわりついているみたいだ。

「道宮さん、注文お願いしまーす。」
「はい!」と振り向くとクスっと楽しそうに笑う先生がいた。
「道宮さん、雰囲気大人っぽくなったけどやっぱり中身は可愛いままだなぁ」

あぁ、まただ。先生はこういう人だ。
無意識のうちに思わせぶりのような行動をとる人だった。
耳が熱い。手で隠してしまいたいがトングとトレーで生憎、手は埋まってしまっている。

「ケーキはどれにしますか?」早く熱よおさまれそう思いながら私は先生にたずねた。

「うーん、じゃあこのガトーショコラとさつまいもタルトにしようかな」

「分かりました。こちらですね。」そう言って先生に確認のためケーキを見せる。
「道宮さんこれ食べたことある?」
「へっ?」
「これ、美味しいかなぁって思って」
「あ、えっとガトーショコラはしっとりしてて美味しいですよ。さつまいもタルトは最近でたのでまだ、、」
「そーなんだ、OK!ありがとう、会計お願いしてもいい?」
「かしこまりました、先生、、、今はもう働かれてるんですか?」ふと疑問に思って口に出す。
「うん、今は小学二年生の担任!もう、みんな元気で大変だよー」
「でも、先生なんだか楽しそうですね。」
「おっ、わかっちゃったか!」
「これ、お釣りです。またの、ご」
「道宮さん、これ差し入れ」
「えっ?、」
「これ、道宮さんまだ食べた事ないんだよね、また次来るからさ美味しかったか教えて?じゃあまたね」

私の思考が追いつかないうちにドアのベルがまたカランカランとなり先生は行ってしまった。

私の手元には小さなケーキ箱が残っていた。

「「じゃあ、またね」か、、、」

先生の一言が、私を浮き足立たせているようで落ち着けと思い胸を撫で下ろす。

「私だけじゃなくて、かわいいとか。いろんな人が勘違いしちゃいますよ。」

先生、次はいつケーキを買いに来てくれますか?そんな言葉が心に浮かんでしまった。