Someday 〜未来で逢いましょう〜

美紗子が契約社員として仕事にも慣れ、高校短大と進学した莉子は、部活や友達、バイトと常に忙しそうだったが、充実した学生生活を送り、精神的にも大人になってくれたおかげで、美紗子の負担も少しずつ楽になり始めた。
一緒にいる時間は減ったが、母との時間も大切にしてくれているようで、外であった話を母にあれこれと話してくれる。
莉子が社会人になった今も変わらない。
楽しそうに話す莉子を見つめながら、よくここまで横道に反れることなく成長してくれたとありがたく思う。
片親であることを引け目に感じたり、そのことで嫌な思いをしなければいいと常に心配であった。
莉子の本心に引け目や劣勢感があったとしても、それを文句も言わず、笑いに変えてくれる明るさを持ち合わせてくれたことに感謝し、嬉しく思う。
「あ、お母さん。今度の土曜日お父さんと会うから」
「そうなのね。了解。お父さんによろしく伝えて」
「はーい」

和也と別れる時、莉子との面会は、仕事に長く勤められるようになった後にしてほしいと頼んだ。
新しい仕事が決まっても、すぐ辞めてしまってはあの時と何も変わっていないということになる。
就いた仕事を頑張って続け、やっていけそうだと自信が持てた時、連絡してほしいとお願いしたのだ。
離婚後初めて連絡が来たのは、莉子が小学4年生の時だった。
全く連絡のなかった4年間、もしかしたら完全に縁を切るつもりでいるのか、又は全く定職に就けず、始めては辞めを今も繰り返しているのか、はたまた全てを諦め、自堕落な生活をしているのか…そんなことをあれこれ考え、莉子が不憫に思えて悲しくなった時があった。
4年ぶりの再会となる待ち合わせ場所に莉子を連れ、久しぶりに目にした和也の姿は、体型こそ変わっていなかったが、頭髪は白いものがかなりの割合を占めており、見た目にはロマンスグレーのような色をしていた。その色だけで老け感が増して見える。
違和感で初めて会う人のような緊張感を覚えながら、「久しぶり」と恐る恐る声をかけた時の記憶が蘇る。
弱々しく美紗子に微笑みながら、ふと下に目線を移し、大きくなった莉子を見て和也は前触れもなく、突然泣き出した。
涙を拭き、鼻をすすりながら
「ごめんな…元気だったか?学校でいじめられたりしてないか?」
涙声を抑え込むように声を発し、莉子と同じ目線にしゃがみこんで頭を優しく撫でながら話しかけていた。
美紗子が仕事のことを尋ねると、「冷凍食品の製造工場でひたすら単調な仕事だ」と照れくさそうに苦笑いをして答えた。
和也にとってはあの忌まわしい食品系の仕事に就くのは心苦しかったはずだ。
転職を繰り返していた時、食品関係を避けた未経験の業種を選んでいたことは明らかだった。
離婚後、無職を避けるために繋ぎとして短期バイトとして紹介された食品工場で嫌々ながら淡々と無心で単調作業を続けていたそうだ。そのうちに、自ら携わるものに異物混入など絶対させないという思いが湧き上がり、短期バイトから社員に希望を出してみたそうだ。
あの苦い経験が説得力となって上に伝わったようで、社員としてすでに3年近く続いているという。
皮肉にも避けていた業種で続けていけそうな仕事を見つけ、自信がつくまで3年もかかったことに、美紗子の胸の奥が少し痛んだ。
それから不定期ではあるが、和也から連絡があると莉子を連れて和也に1日託し、父と娘2人で出かけたり、和也の実家でお泊りなど、和也と莉子の父娘の時間は再び動き出した。