春の花が次々と咲き乱れる季節に変わり、翔太のツアーは始まった。
美紗子が行くライブまでにはまだ一ヶ月以上ある。
美紗子は仕事で溜まりそうなストレスや疲れを、懸命と無心でこなす術でやり過ごす今日この頃だ。
今年に入ってから、莉子は作ってみたい料理があると、キッチンに立って黙々と作ることが増えた。
好きな人でもできたのか?勘ぐりながらありがたく娘の料理にあやかる。
和也とは、時間旅行から戻ってお土産を渡したいと何度か打診をしていたが、和也が忙しいらしくなかなか会えずに時間が経ってしまっていた。
やっと先月、莉子と3人で食事ができた。
和也のおかげで時間旅行に行けたのに、全てを言えずに渡すお土産をどこか後ろめたく思い、八重子や由希達にもそうしたように、当たり障りない内容で乗り切ろうと計画して出向いたが、和也との食事会は思わぬ展開となった。
和也から付き合っている人がいるとカミングアウトされたのだ。
美紗子と莉子は驚愕し、特に莉子は大興奮して根掘り葉掘り、父親を質問攻めにしていた。
美紗子は莉子と和也の質疑応答を聞きながら、旅行の話が完全に消えたことにホッとしていた。
和也の付き合っている人は、職場近くにある小料理屋のおかみさんなのだそうだ。
平日の夕飯をそこで済ますことが増えていくうちにそういうことになったと、きっかけを言い渋っていた和也から莉子が無理やり聞き出して、莉子は父親の恋バナをさらに深堀ろうと必死になっていた。
以前、和也が家に寄った時、莉子が「彼女でもいるんじゃない?」と言っていた言葉は、娘の勘だったのだろうか。
莉子からの色んな質問を言いにくそうに照れながらも、話している和也はとても幸せそうだった。
秋に東北・北海道、冬には四国九州を回るツアーに、美紗子は初めての遠征を本腰入れて考え始め、国内旅行のパンフレットをめくっていた。
先日、時間旅行でお世話になった店長さんを訪ね、店に行った。
時間旅行から戻った後、3ヶ月間はICチップはそのままに、3ヶ月を経過した後に取り出しを完了し、「その後も他言をしない」という誓約書にサインをして時間旅行は完結する。
よく考えれば、ほんの数日間のために多くの準備と片付けを要する「時間旅行」を決行する者は、根気を持った相当な物好きなのかもしれない。
しかし、その大変さを超えて幸せな時間を過ごした美紗子の時間旅行は、この現世で忘れかけていた感情や自由を感じることができた、忘れられない旅になったと言える。
店長にお世話になったことや、無事時間旅行が完結したことを報告して礼を告げた。
そして国内旅行のパンフレットを数種類選んでもらってきたのだった。
八重子は一緒に行ってくれるだろうか?
今日電話して話してみよう…。
お昼のお弁当を食べながら、会議室の窓に映る、花びら舞う街の景色を遠く眺め、楽しい計画に心は躍っていた。
美紗子が行くライブの一週間ほど前、少し厚みのある封書が書留で届いた。
差出人は翔太の事務所からだ。
中から出てきたのはハードケースに入ったスタッフパスと、白無地のメモ紙だった。
楽屋を訪ねてください
待っています
待ちくたびれました(笑)
あのペンダントと、あのドレスワンピを身に着け、
今、楽屋のドアの前に立つ。
このドアをノックをしたら
どんな未来が始まるのだろう。
─ End ─
美紗子が行くライブまでにはまだ一ヶ月以上ある。
美紗子は仕事で溜まりそうなストレスや疲れを、懸命と無心でこなす術でやり過ごす今日この頃だ。
今年に入ってから、莉子は作ってみたい料理があると、キッチンに立って黙々と作ることが増えた。
好きな人でもできたのか?勘ぐりながらありがたく娘の料理にあやかる。
和也とは、時間旅行から戻ってお土産を渡したいと何度か打診をしていたが、和也が忙しいらしくなかなか会えずに時間が経ってしまっていた。
やっと先月、莉子と3人で食事ができた。
和也のおかげで時間旅行に行けたのに、全てを言えずに渡すお土産をどこか後ろめたく思い、八重子や由希達にもそうしたように、当たり障りない内容で乗り切ろうと計画して出向いたが、和也との食事会は思わぬ展開となった。
和也から付き合っている人がいるとカミングアウトされたのだ。
美紗子と莉子は驚愕し、特に莉子は大興奮して根掘り葉掘り、父親を質問攻めにしていた。
美紗子は莉子と和也の質疑応答を聞きながら、旅行の話が完全に消えたことにホッとしていた。
和也の付き合っている人は、職場近くにある小料理屋のおかみさんなのだそうだ。
平日の夕飯をそこで済ますことが増えていくうちにそういうことになったと、きっかけを言い渋っていた和也から莉子が無理やり聞き出して、莉子は父親の恋バナをさらに深堀ろうと必死になっていた。
以前、和也が家に寄った時、莉子が「彼女でもいるんじゃない?」と言っていた言葉は、娘の勘だったのだろうか。
莉子からの色んな質問を言いにくそうに照れながらも、話している和也はとても幸せそうだった。
秋に東北・北海道、冬には四国九州を回るツアーに、美紗子は初めての遠征を本腰入れて考え始め、国内旅行のパンフレットをめくっていた。
先日、時間旅行でお世話になった店長さんを訪ね、店に行った。
時間旅行から戻った後、3ヶ月間はICチップはそのままに、3ヶ月を経過した後に取り出しを完了し、「その後も他言をしない」という誓約書にサインをして時間旅行は完結する。
よく考えれば、ほんの数日間のために多くの準備と片付けを要する「時間旅行」を決行する者は、根気を持った相当な物好きなのかもしれない。
しかし、その大変さを超えて幸せな時間を過ごした美紗子の時間旅行は、この現世で忘れかけていた感情や自由を感じることができた、忘れられない旅になったと言える。
店長にお世話になったことや、無事時間旅行が完結したことを報告して礼を告げた。
そして国内旅行のパンフレットを数種類選んでもらってきたのだった。
八重子は一緒に行ってくれるだろうか?
今日電話して話してみよう…。
お昼のお弁当を食べながら、会議室の窓に映る、花びら舞う街の景色を遠く眺め、楽しい計画に心は躍っていた。
美紗子が行くライブの一週間ほど前、少し厚みのある封書が書留で届いた。
差出人は翔太の事務所からだ。
中から出てきたのはハードケースに入ったスタッフパスと、白無地のメモ紙だった。
楽屋を訪ねてください
待っています
待ちくたびれました(笑)
あのペンダントと、あのドレスワンピを身に着け、
今、楽屋のドアの前に立つ。
このドアをノックをしたら
どんな未来が始まるのだろう。
─ End ─

