Someday 〜未来で逢いましょう〜

時間旅行の申込み後に行われた最終説明会では、規則の詳細説明やシュミレーションのガイダンス、脳波検査にICチップの体内埋込等を半日以上かけて行った。
国内と海外では時間旅行のルールも異なるらしい。
国内では自分自身と接触が厳禁となるため、規則管理がより厳しいようだ。

シュミレーション研修では、なるべくその時代の人たちと、必要以上に親しくならない距離感を保つよう、推奨された。
トラブル、事件、事故、性犯罪等を起こしたり、過去を変えて未来も変えようとする行為は最も重大な犯罪となり、これらの規則を破れば、現代の世界で終身刑となることが決まっている。
多くの犠牲者が出たような大災害や、肉親知人の事故死した日時は選択出来ない。戻って助けようとする行為も断腸の思いだが、絶対にしてはいけないルールだ。

未来から来たと答えることは特に違反ではない。
むしろ、そう答えても〈おかしい人〉と思われ、相手側から会話や関わりを断ち切ろうとするので、その手を使うのは有効だと時間旅行運営機関の案内人は真顔で話した。
興味を持たれ、色々問われても、未来で起きる出来事には一切口を閉ざせばよい。
未来で起こる出来事や災害、新商品。その内容を決して話さないことが時間旅行の最大のルールである。
腕に埋め込まれたICチップは、話した内容を常にワード検索して自動チェックする役割を果たす。要は間接的に監視される。
危険と判断されるとチップから警告音と振動が発信される。
すぐに修正されない、または警告を無視してそのまま続行されると微弱電流がチップから上半身に流れ、発声が困難になる。のちに拘束され、現代に連れ戻される。
ルールに背くと、そのような流れになることを説明された。想像すると恐ろしい。
質問の時、美紗子はいろんな質問をした。
未来のことを口に出して言わなくても、紙に書いて残そうとする者がいたら…?
未来人が残すものは、帰ったあと基本的に、残らず消える。
そこに存在しないもの、時空を超えたものは残らないのだ。
写真には写らないし、文字は書いても数分で消える。
現世から持ち込んだ荷物を忘れたり置いていっても消える。
過去に遡って、犯罪を犯そうとしたり人を殺めようとする者がいたら…?
そのため事前に脳波検査でデータを取り、チップから送られる脈拍数や視覚からの受ける脳波形の影響や信号を読み取り、異常を感知すると微弱電流でやはり動きを停止、拘束される。
検査の時点で危険を予知または可能性が高いと判断した場合は旅行申請を強制取消される。
賭け事や宝くじも禁止。当選番号を調べてこっそり儲けたとしても、ICチップがGPSや脳波形を感知して警告を発し、それを無視すればやはり即拘束、逮捕される。
だが今のところはそういった犯罪やルール違反の案件は発生していないらしい。
全てのルールをきちんと守っていれば、なんら普通の旅行と変わりなく快適に過ごせる。と案内人は言った。
半日を費やした説明会を受け終わった後、時間旅行がひっそり影を潜める訳が美紗子にはわかった気がした。

「君は日本のどこから?」
未来からだと言えば大抵変な人だと思われる。
あの案内人の言葉通り実行して翔太に避けられたら、やはり傷つく。
だけど、翔太に会えて数時間。
時間旅行が始まってすぐに、現代ではあり得ない時間を過ごせている。
このまま帰らされても後悔はない。
「未来から来ました」
美紗子は思い切って推奨された通り言ってみた。
ガーリックシュリンプを頬張った翔太がきょとんと美紗子をしばらく見つめ、吹き出し、笑い転げた。
「えぇ?!いやぁ…面白い人だなぁ。…で?どの年代から?」
ノリのよい翔太の想定外の返しに、美紗子はポケを食べながら「あはは…」と笑ってごまかした。
楽しそうに笑って食べ続ける翔太は、信じてはいないようだ。
目の前に広がる海と、白く眩しい砂の景色を見ながら、憧れの人の横でランチをしている。
この光景を由希に話したら信じるだろうか。
もっと一緒に笑えたり盛り上がる話ができたらいいが、何を話していいか浮かばない。
聞きたいことはたくさんあるけど、質問を一方通行にあれやこれや聞くのも下衆い。
離れがたくなる前に自分から断ち切らなければならない。自分が生み出した必然のような偶然を、もう少しだけ、あと少しだけ本物の40歳の翔太を感じていたい。
美味しいランチを食べ終え、お腹も心も満たされた。
「あの…岩崎さんはこのカイルアのサンセットはよく見られるんですか?」
「見るよ。ここで曲作ったりしてるとあっという間に夕暮れになっちゃうし、サンセットはいつどこでみても見飽きないね。…ところで君は俺のことを知ってるということでいいんだよね?」
ハッとして美紗子は姿勢を正す。
「はい。すみません。確認するタイミングを逃したままお話させてもらってるうちに今さら聞けなくなってしまいまして…」
「ハハハ…いやいや、こちらこそ初めましてなのにお名前も聞かず申し訳ない」
「美紗子と言います」
「よろしく」
翔太が手を差し出した。
自分の手に震えるなと願いながら、美紗子は控えめに手を差し出した。
美紗子の手が、翔太の大きな手に包まれる。
美紗子の目標は早くも全達成された。
「サンセットが見たいならここもいいんだけど、俺のオススメはね…とその前に。美紗子さんはもしかして一人旅でハワイに?」
「はい。色々なリベンジと自分の殻を破る旅に」
「君は何だか面白いね」
翔太が笑う。翔太が笑ってくれるなら自分はお笑い芸人にでもなる。
どこかにあった歌詞みたいだが、そんな心境に近い、その言葉が嬉しかった。
「美紗子さんの予定は色々決まってるんだろうけど、美紗子さんが明日の夕方に時間を空けられそうなら、ぜひ見せたいところがあるんだけど…どうかな?」
こんなことがあっていいのだろうか。
現世ならこんな展開はあり得ない。
誘われた嬉しさとまた逢える嬉しさの真逆に、一時の関わりを越え、未来のことを話してしまう危険があることを忘れてはいけない緊張がある。
未来に起こる出来事さえ話さなければいいのだ。
性格的に調子に乗って未来のことをベラベラしゃべることはないと自負しているが、「おかしな人」になりきるしかない。
演じなければならない乙女心は複雑だが、逢いたいが勝つ。
「じゃあ…お願いしてもいいでしょうか」