いつしか美紗子は、岩崎翔太のCDをコンプリートした。
予算的に中古品も利用して、とりあえず知らない曲はないはずだ。
CDをコンプリートした後、入会を足踏み切れないでいたファンクラブにとうとう入った。
莉子が、誕生日プレゼントに美紗子を入会させてくれたのだ。
「お母さん、いつも贅沢とかもったいないとか、諦めがちだから。やっと見つけた楽しみなんだからしっかり楽しんでよ。但し、来年からは自分で会費払ってね」
いつも自分から飛び込めない母のことを、娘はよくわかっている。
ファンクラブなら常にアンテナを張らなくとも向こうから情報を知らせてくれ、何より前列の席が期待できる。
岩崎翔太ファンクラブ特典の内容を記すメールには、ライブ先行受付の他、ファンミーティング、握手会、プレミアグッズの抽選会、ファンクラブツアーなど、夢のような企画が多数書かれていた。美紗子の胸は高鳴る。
しかし、高い参加費用を要するイベントがほとんどであることがわかると、がっくり肩を落とした。ハードルは高い。
ファンクラブツアー…翔太と一緒に旅行ができるなんて、想像だけで夢が広がる。
一生に一度行けたら…と思う美紗子とは別に、財力ある毎年参加のファンもいるはずで、ふと、いつぞやTVで観た宇宙旅行へ行った方のインタビューが頭をよぎり、格差を感じて劣等感さえ湧いてきてしまいそうだ。
邪念を振り払うように首を振り、まずは莉子を一人前に世に送り出すまでは頑張らなきゃと、腕まくりをして節約と仕事に励む美紗子だった。
高校を卒業した莉子は、幼稚園の先生になりたいと学費を抑えるために猛勉強して公立の短大へ進学、2年後の幼稚園教諭試験も無事合格して、とんとん拍子に就職先の幼稚園も決まり、「りこせんせい」が誕生した。
「おかーさんおかーさん」と、まとわりついていた小さかった莉子。
寂しい思いも辛い思いもたくさんしてきたであろうが、周りの良き人々に恵まれ、今、小さな子供達に教える立場となったことが感慨深い。
頼もしくなった娘に、うっすらとした淋しさが美紗子に寄り添う。
美紗子の肩の荷が少し降りてきたこの頃、仕事にも自分にも気持ちの余裕を持って過ごせていると実感できる時がある一方、40代も後半に入り、自分のあり方や老後のことも目を背けてはいられない。真剣に向き合わなければならない。
年老いた両親のことも、近い将来背負うことになるだろう。
猶予がある今、仕事や生活も引き続き大事にしながら、やりたいと思うことは、できる範囲で後悔のないようにやっていきたいと思うようになった。
推し活という楽しみを見つけた美紗子の話を聞いて、自分も翔太のライブに行きたいと言い出した八重子と、美紗子にとって2回目の、隣町にやって来た翔太のライブに出かけた。
それきっかけで「生で観る」ということにハマった八重子は、翔太と同世代くらいの懐かしいアーティスト達を始め、ミュージカル、舞台など、生き急ぐようにライブ演劇鑑賞に励みだした。
八重子を見ていると、自分の行動力の乏しさや、金銭的に縛られてきた貧乏性が身についてしまった自分が、自分自身を束縛しているように思えてしまう。
人から「お金に苦労している」と思われないよう、人前では節約倹約を前面に出さないよう気をつけ、苦に思わないようにしてきた。
欲をやんわりと包み込む手段は「もったいない」。
消耗品以外は一度立ち止まって考え直すクセが身についてしまっていた。
もし、和也がチケットをプレゼントしてくれなかったら、きっとあの時の美紗子は、莉子が教えてくれた翔太のライブには行かなかった。
こんな風に楽しい日々を迎えられなかったはずだ。
あのハワイの家族旅行以来、莉子を遠くへ遊びに連れて行った記憶はとても少ない。
文句も言わずついてきてくれた莉子や、再会できた古い友人達、仕事と人生のよき先輩でもある八重子と、これからは楽しい思い出を増やせたらと思う。
予算的に中古品も利用して、とりあえず知らない曲はないはずだ。
CDをコンプリートした後、入会を足踏み切れないでいたファンクラブにとうとう入った。
莉子が、誕生日プレゼントに美紗子を入会させてくれたのだ。
「お母さん、いつも贅沢とかもったいないとか、諦めがちだから。やっと見つけた楽しみなんだからしっかり楽しんでよ。但し、来年からは自分で会費払ってね」
いつも自分から飛び込めない母のことを、娘はよくわかっている。
ファンクラブなら常にアンテナを張らなくとも向こうから情報を知らせてくれ、何より前列の席が期待できる。
岩崎翔太ファンクラブ特典の内容を記すメールには、ライブ先行受付の他、ファンミーティング、握手会、プレミアグッズの抽選会、ファンクラブツアーなど、夢のような企画が多数書かれていた。美紗子の胸は高鳴る。
しかし、高い参加費用を要するイベントがほとんどであることがわかると、がっくり肩を落とした。ハードルは高い。
ファンクラブツアー…翔太と一緒に旅行ができるなんて、想像だけで夢が広がる。
一生に一度行けたら…と思う美紗子とは別に、財力ある毎年参加のファンもいるはずで、ふと、いつぞやTVで観た宇宙旅行へ行った方のインタビューが頭をよぎり、格差を感じて劣等感さえ湧いてきてしまいそうだ。
邪念を振り払うように首を振り、まずは莉子を一人前に世に送り出すまでは頑張らなきゃと、腕まくりをして節約と仕事に励む美紗子だった。
高校を卒業した莉子は、幼稚園の先生になりたいと学費を抑えるために猛勉強して公立の短大へ進学、2年後の幼稚園教諭試験も無事合格して、とんとん拍子に就職先の幼稚園も決まり、「りこせんせい」が誕生した。
「おかーさんおかーさん」と、まとわりついていた小さかった莉子。
寂しい思いも辛い思いもたくさんしてきたであろうが、周りの良き人々に恵まれ、今、小さな子供達に教える立場となったことが感慨深い。
頼もしくなった娘に、うっすらとした淋しさが美紗子に寄り添う。
美紗子の肩の荷が少し降りてきたこの頃、仕事にも自分にも気持ちの余裕を持って過ごせていると実感できる時がある一方、40代も後半に入り、自分のあり方や老後のことも目を背けてはいられない。真剣に向き合わなければならない。
年老いた両親のことも、近い将来背負うことになるだろう。
猶予がある今、仕事や生活も引き続き大事にしながら、やりたいと思うことは、できる範囲で後悔のないようにやっていきたいと思うようになった。
推し活という楽しみを見つけた美紗子の話を聞いて、自分も翔太のライブに行きたいと言い出した八重子と、美紗子にとって2回目の、隣町にやって来た翔太のライブに出かけた。
それきっかけで「生で観る」ということにハマった八重子は、翔太と同世代くらいの懐かしいアーティスト達を始め、ミュージカル、舞台など、生き急ぐようにライブ演劇鑑賞に励みだした。
八重子を見ていると、自分の行動力の乏しさや、金銭的に縛られてきた貧乏性が身についてしまった自分が、自分自身を束縛しているように思えてしまう。
人から「お金に苦労している」と思われないよう、人前では節約倹約を前面に出さないよう気をつけ、苦に思わないようにしてきた。
欲をやんわりと包み込む手段は「もったいない」。
消耗品以外は一度立ち止まって考え直すクセが身についてしまっていた。
もし、和也がチケットをプレゼントしてくれなかったら、きっとあの時の美紗子は、莉子が教えてくれた翔太のライブには行かなかった。
こんな風に楽しい日々を迎えられなかったはずだ。
あのハワイの家族旅行以来、莉子を遠くへ遊びに連れて行った記憶はとても少ない。
文句も言わずついてきてくれた莉子や、再会できた古い友人達、仕事と人生のよき先輩でもある八重子と、これからは楽しい思い出を増やせたらと思う。

