Someday 〜未来で逢いましょう〜

「いやぁ…いいライブだった。やっぱり生声聴くっていい刺激だわ」
ライブ会場がある最寄駅の、会場とは反対側出口から徒歩2分くらいにあるカフェで、美紗子と由希は夕食を食べながら、久しぶりの再会を喜んだ。
自分達の高校時代に追いかけた青春の象徴である人物のライブに興奮冷めやらぬ思い出話と互いの現状の話にも話が尽きない。
「子供、大きくなったんじゃない?」
美紗子より少し早く、仲間の中で一番最初に結婚した由希に問いかけた。
「もう二人とも20歳超えたわ。上の子は来年社会人だし、下の子はもう働いてる。私達も歳をとるわけよね。美紗子のとこはまだ学生?」
由希は、20歳を超えた子供が二人もいるとは思えない若々しさだ。
「うん、高校生。まだもう少し自立までにかかるわ」
「私はほぼ子育ても終わったようなもんだから、やっと自由に、やりたかったことに時間やお金をかけられるようになったわ。こうしてライブ観に行ったり演劇鑑賞したり…」
「そうか…うらやましい。子育てを含めた家事に何十年も身を捧げたんだから、その分取り返さないとね。私も今日が何十年ぶり…?もしかしたら学生以来のライブかもしれない」
考えてみると、高校生までの18年間と同じくらいの時間を、家庭や子育てに費やしてきたことに改めて驚く。
「でもさ、まだこれからも生きていかなきゃならないから、仕事も始めようと思ってて。遊ぶお金も旦那の給料や、やりくりだけじゃ大して遊べないからね。美紗子は働いてるんだよね?」
「私は…離婚したからね。生活そのものが自分にかかってる」
美紗子が離婚したことは、周りの話から聞いていたと由希は言った。
「離婚したって聞いた時、私一度美紗子に連絡したのよ。だけど番号変わっちゃったみたいで、聞いてた電話もメールも繋がらなくて心配したんだよ」
離婚した後、経費節減のため、使っていた携帯は格安機種や格安プランに変えざるを得なくなった。
今では携帯会社が変わっても番号を引き継ぐことはさほど難しいことではなくなったようだが、当時は違約金がどうとか、МNPがどうとか、勉強する余裕が全くなかった。
離婚後の心境的に、ヤケになってる部分と何か一新したい気持ちも混ざり、一気に解約して完全な新規に切り替えてしまったのだ。
「そうだったの…ごめんね。色々ありすぎて、変更の連絡は家族と仕事と学校関係しかしてなかった。余裕なさすぎだよね」
「仕方ないよ。美紗子が、どんな苦労したとかはわからないけど…大変だったんでしょう?」
「うん…まぁちょっと大変だったのかな」
美紗子は笑った。由希は、不安気な表情を浮かべて美紗子を見つめる。
「今は大丈夫…なんだよね?」
「うん。今は元夫とも関係は良好だし。娘1人だけど、横道反れることもなく、とりあえずここまで普通に育ってくれたし。余裕はなかったけど、飢えることなく生きてこられたし、何より今こうして、由希と奇跡的に再会できてすっごく嬉しい」
美紗子は思いがけず旧友と再会出来た嬉しさで涙が込み上げてくるのを堪えた。
由希の目も心なしか潤んでいた。
多くを語らずとも、美紗子のこれまでを受け止めるように微笑んで言った。
「私も。今日ライブ来て本当によかった。岩崎さんに感謝だね。また時々会って話したり、ご飯食べたりしてくれる?」
「もちろん!こちらこそよろしくね」
「そうだ!今度、奈津子と美加にも連絡しとくから皆で会おうよ!」
「ホントに?!嬉しい!ぜひぜひ!あ、そうそう、連絡先連絡先…」
思いもしなかった、懐かしい友達との時間もまた、動き出した。