先輩と僕。


流石にそれだけ酒を開ければどんなに強い人でも酔うだろう。


「もう遅いので帰りましょう」と僕が切り出したのは深夜も0時は回っていた。


「明日も仕事があるし」と僕が言うと


「明日も?」倉本先輩は若干とろんとした目でまばたき僕を見上げてくる。


ぅわ!その視線ヤバイんだって!


と、僕だけが理性と戦ってる。






「明日も遠藤くんは私の傍で働いてくれるの?」




そう聞かれて、僕は大きく頷いた。


「ありがと」ふっと倉本先輩は涼しく笑った。


あ………やっぱ



好きだ。


どんなことを言われようと、どんなことで怒られようと


この気持ちに変わりはない。


危うい手つきで会計を済ませ、倉本先輩をタクシーに乗せたはいいけれど先輩はシートに腰を下ろした瞬間、首を揺らして船を漕いでいる。


心配になって僕が送っていくことにした。


決して下心があったわけじゃない。だって家に帰れば倉本先輩には旦那さんが―――


倉本先輩の呂律の回らない危ういナビで何とか彼女のマンションに到達して、何故か僕が彼女を抱える形になって部屋まで案内してもらう。これまた危うい感じで鍵を取り出し、扉を開けると、そこは



真っ暗ながらんどうだった。




いや、完全ながらんどうではない。ダンボールがいくつも積みあがっていて、家具などは何もない。生活感はまるで感じられなかった。


え―――……?


思わずマンションの部屋の廊下でへたり込んでいる倉本先輩を窺うと、彼女はほんのわずか乱れた前髪を掻き揚げ


「先月、離婚したの。旦那は……訂正、正しくは元旦那は出てった。私もここを引き払うつもり」


その事実に耳を疑った。


「でも……指輪」


そこ(・・)を気にしていた僕は変態かと思われそうで慌てて口を噤んだが


「あー…何となく?別に未練とかはないんだけどね。突然指輪が無くなったら、とうとう三行半(みくだりはん)つきつけられたか?とか噂されるじゃない」


倉本先輩はまるで少女のようにふわふわ笑った。


「いや、それ笑えないし」


「だよねー……あーあ、私何もかも中途半端。仕事もダメ、家庭もダメ。こんな女誰も好きになっちゃくれない」


倉本先輩はズルズルと壁を滑り、とうとう廊下に寝転んだ。