余命1年のわたしが余命1ヶ月の君に出会った話。

図書室で会うのが日課になってから、咲希の時間に少しずつ色が戻ってきた。

彼と交わす言葉、読む本の感想、時折交わす冗談。何気ないやりとりが、心の深い場所に優しく触れてくる。まるで、季節外れの陽だまりにいるようだった。

ある日、あきらが小さなノートを差し出してきた。

「これ、“やりたいことリスト”。死ぬまでにやりたいことを書いてるんだ」

「バケットリスト、みたいなやつ?」

「そんなかっこいいもんじゃないけどね。たとえば……これとか」

咲希はページを覗き込んだ。

* 図書室で誰かと同じ本を読む
* 好きな人と手をつなぐ
* 桜の下でピクニック
* 病院の屋上で星を見る
* 夕暮れの街を歩く

「……一つ目、もう達成してるじゃん」

「でしょ? 次は二つ目、いけるかもな〜なんて」

「え? 何その含みのある言い方」

「いや、なんでもないっす」

あきらは照れたように笑って視線をそらした。咲希は頬が熱くなるのを感じながら、話題を変えた。

「桜の下、いいね。今ならまだ間に合うかも」

「じゃあ、脱走しようか。夜に」

「えっ、本気?」

「本気。だって、時間がないからさ」

その夜、ふたりはこっそり病院を抜け出した。冷たい春風が頬をかすめ、足元を花びらが舞った。公園にたどり着くと、夜桜が満開で、街灯に照らされた花びらが空中に浮かぶようだった。

「すごい……こんな夜桜、初めて見た」

「咲希ちゃん、さ……」

「うん?」

「もし、俺が死んだら……泣いてくれる?」

その問いに、咲希は少し黙ったあと、うつむいて言った。

「泣くよ。たぶん、泣きすぎて困るくらい」

「そっか……それなら、ちょっとだけ安心」

その手が、そっと咲希の手を包んだ。やわらかくて、細くて、でも温かかった。

ふたりの時間は、確かにそこにあった。