北澤咲希(きたざわ さき)は、病院内にある小さな図書室の、いちばん奥の窓際の席をいつも選んでいた。
高校二年の春、突然「余命一年」と宣告されてからというもの、日々が無色透明になったように感じた。好きだった音楽も、読書も、部活も、どこか遠い場所の話のようだった。心の奥にぽっかりと空いた穴を埋めるために、彼女は毎日、病院の図書室に通っていた。
ある午後、その日もいつものように窓際に座り、本を開いたときだった。
「その本、面白い?」
不意に声がした。見上げると、見慣れない少年がいた。短く刈り上げた黒髪に、色の薄い唇。年齢は同じくらいだろうか。目がやけに透き通っていて、まっすぐに咲希を見ていた。
「……まだ読み始めたばかり。面白いかどうかは、これからかな」
「ふーん、そっか」
少年は勝手に隣の席に腰を下ろした。図書室には、他にも空席はあったのに。
「俺、神崎あきら。今日からこの病院に入院してる」
「北澤咲希。ここの患者」
「あ、じゃあ先輩だね。よろしく」
軽く会釈をしてから、あきらは言った。
「俺さ、余命一ヶ月なんだって」
あまりにあっけらかんとした口調に、咲希は一瞬、言葉を失った。
「……そうなんだ。私、余命一年」
「え、それって……俺より長いじゃん」
「うん、ちょっとだけね」
二人の間に静かな沈黙が流れた。だけど、それは重苦しいものではなく、奇妙な安心感を伴っていた。
「……じゃあさ、お互い、生きてる間に仲良くしよ?」
「いいよ。……よろしくね、あきら」
その日から、ふたりは毎日図書室で会うようになった。


