記憶の中で恋をしていた



バイトが終わり、紫桜に会いたいなぁとウキウキしながら帰路に着く。


「ただいまー!」


返事がない。まだ帰宅してないだけか…。

19時が過ぎる。連絡もない。LINEも未読のまま。
電話をかけても、電源が切れているらしい。

さすがの俺も慌て始める。

何かあったのか…?

あらゆる友人に連絡を入れ、俺は外に飛び出した。

ポケットのスマホが震える度、立ち止まって確認するが、誰も紫桜の行方を知っている人はいない。


夜通し捜すが、公園にもどこにも見当たらなかった。

日が昇り、仕方なく家に帰る。


その日の昼頃。

紫桜の中学からの友人で、大学も一緒である星出雄輝から電話が入る。


「はい、何?」

「今から丸美町総合病院来れるか」

「何で」

「紫桜がいる」


紫桜の名前を聞いて、胸がどきりとする。

いやでもなんで…


「星出、今どこいんの」

「病院の電話スペースだけど、何」

「なんでお前なんだよ」

「何が?」

「普通呼ばれる優先順位高いの彼氏だろ」


自分でも抑えられないくらい気が立っていた。


「…それは紫桜が」

「まあいい、今から向かう」


一睡もしていなかったが、俺は丸美町総合病院へと向かう。

入院病棟の受付で声をかけると、あっさり通されて、ベンチに腰掛けて俯く紫桜を見つけた。

星出の姿はない。帰ったのか。


「紫桜、心配したよ。帰ろ」

「…成宮くん?誰?」


顔を上げた紫桜の瞳は、深い海の底みたいに暗く、まるで俺のことは映っていなかった。