溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。

 9


 ハレット様は、大きく息を吐き、首を横に小さく振った。

 「……魔術の心得が少しくらいと言うならば、それは意味をなさないです。あなた自身の愛蜜をレイカルド様に捧げる他はないと、私自身考えております」

 「あ、愛蜜って?」

  愛蜜?

  ハレット様が何を示唆するのかわからない。

  答えが出ず、思わず背後のハレットを仰ぎ、小首を傾げてしまう。

 「やはり処女でしたか。我が君、これはまたとない機会です。成人前の十八、十九歳に起きる発作がきついこと、これで充分にわかったことでしょう? このままでは御身が持ちません。我が君、私の切なる願いを叶えてください!」

  ハレット様は、声を荒げ、訴えている。
 
  だが、低く呻いて首を擡げているレイカルド様は、必死に自分を抑制するだけで応じる気配はない。

  一体、この先どうなってしまう?

  助けるにも双方の意見が食い違うのでは、難解すぎる。

  それに処女や愛蜜って、どういう関係が?

  助けたい気持ちはあるけど、何だかとても嫌な予感はしてきた。

 「ハ、ハレット、それより、本当に、危ないから、その娘と僕から、早く離れろ!」

  レイカルド様は、苦悶しているのに、 途切れ途切れに二人を心配してくる。

 「……どうして、どうして、そう頑固なのですか? 私もあなたの兄上様も、こんなにも心配しているのですよ?」

 「わ、わかって……、わかっている」

 「わかっていません! 私は、あなたを失いたくないって、心から願っているのに! それなのに、なぜ、わかってくださらないのですか!」

  ハレット様は、声を震わせて必死の形相で叫んだ。