溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。

 7


 少年は、うつむいて何かに逆らうように、首をしきりに振っていた。

  顔は、よく見えないけど、気になる。

 「我が君、レイカルド様、巫女です。どうか、お使いください!」
 
  レイカルド様。

  貴族の雰囲気そのままの横柄そうな青年の至極丁寧な物言いから、目の前の少年はもっと位が高そう。

  二人揃って、今後のため呼び捨てにしてはまずそう?

  それに少年の名前は、どこかで聞いたことある気がする。

  どこで?

  思い出せない。

  それに顔が物凄く気になる。

  青年の呼び声に気がついたのか。

  レイカルド様という名の少年は、少しして肩を小さく震わせると、途切れ途切れに言葉を発してきた。

 「……巫女、だと? ハレットは、何を、言って、いるから……。すぐに、僕から……離れて!」

  一喝すると、瞬時に苦しげに咳き込んでしまう。

  その腰を浮かして両膝を立て、自らの頬を絨毯に強く擦り付けている。

  何だかとても苦しそう。

 「我が君こそ、レイカルド様こそ、何を仰っているのですか? 巫女ですって! それも通りすがりのもので、偶発的です。我が君が杞憂してる意図することなど何もありませんよ!」

 「だがっ!」

 「とても幼げですから、きっと処女なのでしょう。今の最悪な状況を回避するには、充分事足りることです。我が君、そうでしょう?」

  レイカルド様を宥めるような口調で言ったハレット様という名前の青年は、私を羽交い締めにしてきた。

  青年の名前は、ハレット様というらしいが。

  今は、それどころじゃない?

  現状、妙に危険な匂いがする。

 「は、離してください!」

  危地を感じた私は、慌てて身を激しく捩る。

  だが、細い身体を押さえ込んだハレットは、苦悶するレイカルド様のもとへ行く。

  そのすぐ目の前へ、私を強引に座らせてしまった。

  一体何が起きようとしている!?