溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。

 5


 飛び出てきた青年は、そのまま砂浜へ叩きつけられる。

  彼の着ている服は、かなりの上物だった。

  デスリスク帝国特有の機能性優れた浅黒の軍服。

  腰には、二振りの腰鞘にささっていた。

  呆気としていたけど、彼の呻き声で我に返った。

  万が一、大怪我していては大変!?

  慌てて駆け寄ってみた。

 「大丈夫ですか?」

  そばまでより両膝を突く。

  青年の顔を覗き込むと、細腕を鷲掴みされてしまう。

 「この白装束、白紫の腰帯。あなたはまぎれもなく巫女ですね?」

  至極丁寧な言葉使いながら、自分を舐めるような敏捷な蒼黒の瞳。

  あんまりの視線に、息を詰めて身を硬くしてしまう。

  蒼黒の髪の青年は、端艶な顔立ちをしている。

  細腕を捉えた剣を操る大きな手のひらといい、軍服から感じる身体。

  デスリスク帝国の特有の蒼黒の肌で、細身ながらも鍛え込まれたもの。

 「確か、この近くは……。そうか、そうですよね」

  困惑して押し黙って見ている私を、またもや品定めするかのような目つきで、青年は頭のてっぺんからつま先まで確認すると、うんうんと頷く。

  この方、一体何が言いたいのだろう?

  不安が、頭をよぎる。

  こういう妙な予感、嫌に当たるけど、当たらないで欲しい。
 
 「あ、あの、一体どういう……!?」

  ドンッ!

  ともかく事情は知りたく、言いかけたのに。

  小屋から、何か倒れたような物凄い衝撃音が響いてきた。

  またもや何事!?