溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。

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 とてもとても気になる場所。

  そこは現在所属している巫女養成施設から、少し離れている。

  今いるのは浜辺。

  故郷の中でも、森深い場所に住んでいたので、海は初めて。

  デスリスク帝国は海に面した国。

  多少遠くても関係なく、海岸は一目でお気に入りの場所に認定。

  時間あれば、通っている。
 
  せっかく海のそばの国にいるのに。

  こんなに颯爽とした景色だし。

  癒されるならば、行かないと損でしょう。

  ここには、他にも気になる場所はある。

  好奇心が疼きっぱなし。

  いつもの浜辺を散策の途中、ぽつりと佇む小屋を遠目で見ていた。

  王宮敷地内しては珍しく、簡素なもの。

  祖国であるクレマチス小王国で見かけたことがある、森の中の漁師小屋を思わせる。

  多少煤けていても、しっかりとした白木造りで上質に見えた。

  見た瞬間から、好奇心はそれに気づいた時からずっと疼いたまま。

  これは確かめないと、気がすまない。


  海面は、徐々に沈みかけた太陽が映っている。

  秋が近くなり、ひんやりと冷たい風が肌をさしていた。

  せっかくの休憩時間だから、今が絶好の機会。

  そう感じて、歩を進めていく。

  森深い故郷と違い、生まれて初めて見る海原。

  優しい海風は、慰めるように頬を撫でる。

  甘く囁きかけるような潮騒が、耳を擽る。

  素足の部分に触れる砂の感触。

  何ともいえない心地よさに、うっとりしてしまう。

  私は、壮大な自然に、疲れた心癒されるのを覚えていた。
 
  ぼんやり歩いていたら、ようやく見えてきた小屋を確認。

  俯き加減の顔を上げた刹那。

  小屋の扉は、大きく放たれた。

  「!?」

  一体、何事!?