溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。

 10


 色違いの双眸。


  レイカルド様は、嘆息をつくと、髪を大きく掻き毟った。

  「……っ……。まったく、ハレットは!」

  そう声を荒げ、顔を上げた容貌は華美。

  流雅な瞳の色は、左右違っていた。

  右は煙水晶、左は暗紫色とそれを含め、とても魅惑的な美貌を誇っている。

  これほどまで、美々しいとは。

  私は、大きく鼓動を波立たせてしまう。

  思わずゴクリと、生唾を呑み込んだ。
 
  何気に、二人が目を合わせたその時。

 「我が君、早く!」

  ハレット様が叫ぶ。

 「……くっ……」

  瞬時、レイカルド様は視線を外し、顔を歪めて低く呻いた。

  ハレット様のお邪魔虫!

  生まれて初めての、妙な違和感。

  もう少し放って貰えば、きっと何か掴めそうだったのに。

  胸の内がモヤモヤしていた私の視線には、レイカルド様が唇を強く引き締めたのがわかった。

  レイカルド様は、小さく息を吐くと、暗黒色の靄が絡んでいる華美な手を私へまっすぐに伸ばしてきた。

  暗黒色の靄を絡ませた手。

  何とも言い難い邪気の気配が感じられる。

  ゾクゾクと背筋に悪寒がしてきた。

  先程とは違い、反射的に逃げようとした。

  ハレット様に拘束されているので、身動きがうまく取れない。

  必死にもがいている間に、レイカルド様は私の顎へ手を伸ばしてきた。

  すぐ目の前まで顔が近づいてきて、予想しなかった行動に私は真っ青になる。

 「!?」

  仰天として慌てて抗おうとしたけど、私はハレット様に押さえられていて、身動き一つ取れなかった。