溺愛する身代わり姫を帝国王子は、逃さない。

 プロローグ



 波打ち際に立つ人影。

 靡く髪、女性なのだろう。

  目を背けていた儀式を思い起こさせる。

 誰の手のもの?

 想い出の場所に、忍び寄るとは。

 とうとう手放す時がきたのか。

 これが、確かな大人になる階段なのか。

 幼い憧憬が、温かな日々が。

 脳裏をよぎる。

 強く生きるために。

 誰かに、幼き思い出に、縋ってばかりではいけない。

  己の内にあるものは、たやすく心に蔓延る。

 強く逞しく、生きていく以外ない。

  だからこそ、ここは手放さなければ。

 弱音が溢れるから。

 あの日あの時、駆け出した人影を見て、思っていた。

 それなのに。

 思い出の地は、確かな熱情とともに。

 再度、動き出す。

 一生涯消えることがない、焦がれる恋慕となってー。




 ※お読み頂き、ありがとうございます。
 二人のじれじれファンタジー恋愛を楽しんで頂けたら幸いです。
  気長によろしくお願いします。