放課後、先生との秘密

それはある男の一言から始まった。



こーすけ
「明日父さん出張から帰ってくるけどキヨは家こないの?」


「……は?」

先生
「……は?」



帰り道。
先生とあたしとこーすけで話していたら突然そんなことを言い出した。


先生は「…どうしよう」みたいな顔してあたしに助けを求めてきてる。
そんな顔されたらあたしどうしたらいいのよ…




「な、なんで急にそんな話になる?」

こーすけ
「だって付き合ってんだろ?ちゃんと挨拶しとかないとやばくね?」

先生
「いやまぁ……その……」



目線が色んなところに飛んでて本当に悩んでるんだ。
しかも珍しく歯切れも悪い。

さっきまで調子乗って一人で喋ってたくせに。
今は借りてきた猫のように大人しい。

あたしはそんな状況に思わずため息をついた。




「……先生困ってんじゃんまだやめとこうよ」

こーすけ
「まだってこともないでしょ」




なんでそんなに先生を家に呼びたいのよ…
可哀想じゃん…急に親に会うなんて…




「先生だって心の準備ってもんがあんじゃん」

先生
「でもいつかは行かないと…だしな」


こーすけ
「ほらキヨもそう言ってるし決まりだな!」


「ちょ、ちょっと待ってそれ本気?先生、顔引きつってるし! そもそもお父さんに何て説明すんのよ」


こーすけ
「『葵の彼氏で、実は学校の先生』って正直に言えばいいじゃん。あーいや『生徒手を出した』ってなると話は別か」


先生
「……その言い方は語弊があるだろ」
「まだ手だしてねぇし」


「……まだって//」



キスしたんだからもう手を出されたのと一緒だよばかっ!!!
もぉー!!
思い出しちゃったじゃんか…!!



こーすけ
「葵なんでそんな顔真っ赤になってんの?」


「う、うるさい!!こっち見んな!」




先生はこめかみを押さえながら、重い口を開いた。




先生
「……でもこーすけの言う通りだよなぁ。葵の親御さんに隠し事をしたまま付き合い続けるのものモヤモヤするし」

先生
「明日…行くか」

こーすけ
「んじゃ父さんに連絡しとくわ」


「マジか…」




ついにパパに会っちゃうのか…
しかもまたあたしん家に来てくれるのか。

嬉しいのか嫌なのかもう感情がぐちゃぐちゃだよ…

先生の手をそっと握ると手が汗ばんでいた。
やっぱり無理してんじゃん……


でもあたしを見みてそんな素振りは一切感じさせない笑顔で微笑んできた。




「ほんとにいいの…?」

先生
「行かなかったら一生言われそうだし」
「ちなみお父さんどんな人なん?怖い?」



「……別に怖くはないけど」

こーすけ
「家帰ってきたらずっとバイオやってんな」

先生
「ゲーム好きなの?」


「ゲームというかホラーゲームが好きなの」

先生
「……へ〜ホラゲーねぇ」
「もしかしてお酒好きだったりする?」

こーすけ
「生ビール飲みながらゲームしてたりするよな」


「ベロベロに酔ったらめんどくさいのよ」




何回介護したことか。
いやぁ挨拶の日に酔わせるのはまずい。
先生絶対パパのこと嫌んなるよ。



こーすけ
「しかもなんか全然驚かないの𝑆𝐴𝑆𝑈𝐺𝐴𝑁𝐼やばくね?」


キヨ
「……確かにやばい」




先生が固まった。
その目は一点を見つめて考え事をしてるみたいだった。








次の日


家の前で待ち合わせしているの目の前からスーツを身にまとった先生が歩いてきた。

いや…めっちゃかっこいい……
そんな正装の先生見たことないよ。


胸の高鳴りが一気にきて心臓が早く動いてる。
まともに見てられないってこいうこと?




指輪もネックレスも全部外して
髪も黒に染めちゃってさ。






「先生、気合い入れすぎでしょ」


先生
「……うるせぇ失礼があったらマズいだろ……なぁ葵、もし俺が白目剥いて倒れたら、速やかに人工呼吸頼むいいか?」


「……は?まじで何言ってんのきもい」




澄ました顔してそんなこと言ってくるからねこの人。


…でもそんなところが好き。



先生
「んな事言うなよぉー!葵こっちおいで?」


「…んふふだいすき」

先生
「俺も〜だいすきだよ」



先生に手を引かれ抱きしめられた。
相変わらずいい匂いだなぁ
服装も相まって新鮮すぎる。

なんかダメなことしてる気分…





「ねぇ大丈夫?本当に今日で良かったの?」


先生
「いつかはやらないとじゃん?まぁなんとかなるって」



そう自分に言い聞かせるように言って、あたしの頭を撫でて先生は離れた。


先生が震える指でインターホンを押す。
ピンポーン、という音が頭の中に重く響いた。




ドカドカと階段を下りてくる足音。
ガチャとドアが開くと、そこには眼鏡をかけ、穏やかな笑みを浮かべたパパが立っていた。


先生はパパの顔を見る前に、すぐ深々と頭を下げて徐々に頭を上げていく。





キヨ
「は、初めまして!葵さんとお付き合させてもらってる清川で……っえ!?待ってガッっ」


パパ
「はぁっ!!その先は言うな!」


パパが突然大声を出して先生の発言を遮った。
こーすけと目が合ってお互い唖然としてしまう。


数秒だけ家の中の時間が止まった気がした。





何この状況。




「……え、何今の」

こーすけ
「もしかして知り合い?」



パパは気まずそうに頭をかいた。


パパ
「こーすけと葵はリビングに行ってなさい」
「男同士の話があるから」


先生
「……そういうことだから」


「……え?あ、ちょっとっ!!」



パパは先生の腕をぐいっと引き寄せると、そのまま外へ連れていった。


玄関で突っ立てるわけもなく、リビングでテレビを見ながら心を落ち着かせた。


いや全く落ち着かねぇよ!!




こーすけ
「え、あれ友達?」


「ワンチャン?」

こーすけ
「…何話してんのかすげぇ気になるわ」



「…パパに先生取られるのかな……」

こーすけ
「そんなわけないでしょ何言ってんの」



正直、年の差もあるし友達とも思えない。
友達じゃなかったらなんの仲?
元恋人?!
そんなわけないか…いやわかんないよ?
てか、あの言いかけた「ガッ」は何?



いや、ほんとに何!?
どういう状況なの??





先生side_____



可愛い彼女の家に挨拶に来たら知り合いがいた。





まさかの葵のお父さんとして。



でも昨日から違和感はあったんだよ。
お父さんがどんな人か聞いた時、「バイオばっかりやってる」その時点でガッチさんか狩野英孝しかいねぇじゃねぇか。


「全く驚かない」でガッチさんに確信がついた。


ここまで分かりやすいことある?
いやよりによって葵のお父さんかよ。



最高じゃねぇか。




確かに良く考えれば葵にガッチさんの面影は少しあるし名字だって一緒。



やっぱりガッチさんに出会った時から葵と付き合う運命だったのかなぁ…!!!



なんて今は安易なことをが考えてる場合では無さそう…


ガシッと掴まれた腕が未だに痛い。



ガッチさん
「まさかのお前かよ…」

キヨ
「久しぶりガッチさん」



ほんとガッチさんとは4年ぶりくらい…いや多分もっと長い間会ってなかった。





ガッチさん
「その、ガッチマンって名前はここでは絶対に出すな」

先生
「…言ってねぇんだな」



こんなに有名なのに気づかないもんかのかな。
登録者200万人もいんのに。


そんな人が自分のお父さんだったらびっくりするだろうな。




ガッチさん
「あおとこーすけには5個の会社掛け持ちしてる出張が多い社長ってことになってるから…マジで頼んだぞ」


先生
「いや働きすぎだろ」

ガッチさん
「そうでも言わないと動画撮れないじゃん?」
「あの子たちもうすぐ大学生になるし稼がないと」



ガッチさんとは俺が学生の頃実況者を少しやってた時に出会った人。
よくガッチさんのチャンネルに出させて貰ってたっけ。


ほんとガッチさんが大好きで毎日動画を見ては連絡を取って仲良くさせてもらってた。


まさかその再会がこんなことになるなんてな。




ガッチさん
「てかお前なんで俺の娘と付き合ってんだよ…」
「普通教師が生徒に手出すか…?」



ガッチさんが遠くを見ながらそういった。



そりゃそうだよな…



大切な娘を男に任せること自体辛いのに、通ってる学校の先生と付き合うなんて思ってもないよな…
しかも昔からの友人なんて……



キヨ
「卒業するまで手は出すつもりないよガッチさんの娘なら尚更できない」


ガッチさん
「当たり前だろ」





正直守れる自信は無い。
だって葵が可愛いし愛おしいし触れたくもなる。
生理的な現象なんだよこれはさ。



ガッチさん
「少なくとも変な男じゃないのはわかってるけど…」



その言葉にほんの少し肩の力が抜けた。
信頼はされてるんだと。



ガッチさん
「もし葵を泣かせたら」


ガッチさん
「お前とは絶縁だから」

先生
「そんなこと…絶対させない」




もうどれだけ葵を傷つけて苦しめさせてしまったか。

二度と同じ過ちは繰り返さないって決めたんだよ。
絶対に嫌な思いはさせないから。



ガッチさん
「葵は…嫌なことがあっても一人で抱え込んで、一人で泣いて…人に助けてって言えない可愛い子だからちゃんと見てあげるんだぞ」



ガッチさんの声が今まで聞いたことがないくらい優しくて、温かくて。

俺の知らない父親としてのガッチさんだった。



先生
「わかってるよガッチさん」
「葵のこと何でもわかってる」


ガッチさん
「……そうかお前がそう言うなら、少しは安心だな」
「母親を早くに亡くして…俺も仕事で家にいないし…」




ガッチさんは眼鏡を外し、目元を軽く押さえた。



ガッチさん
「葵のこと頼んだぞ」



ガッチさんは俺の肩に手を置いて微笑んだ。
少しだけ肩の荷が下りたような、そんな姿。


俺はガッチさん…いや葵のお父さんに認められた気がして思わず背筋を伸ばした。








先生
「葵のこと…命に代えても幸せにします」




それは俺なりの覚悟で、この先もずっと葵の傍にいる口実でもあった。



これからもずっと一緒にいたい。
葵といつか結婚したい。
葵との子どもを作って仲良く暮らしたい。
葵を…幸せにしたい。


そんな思いが込められた覚悟。
決して甘い考えで付き合ってるわけではない。





俺の言葉に、ガッチさんは「重いよ〜」といつものトーンで返してくれて、その目はいつもより優しかった。



ガッチさん
「よし、戻るか…あいつら、絶対聞き耳立ててるからな……あ、言うまでもないと思うけどバラしたらどうなるかわかってんだろうな?」



先生
「分かってますって〜『5つの会社を掛け持ちする社長さん』でしょ?」


ガッチさん
「あぁ口が裂けても実況者のガッチマンだけは言わないでくれ」

先生
「はいはいパパ〜」


ガッチさん
「パパはまだ早い!お父さんと呼びなさいっ!」

先生
「どっちも変わんねぇよ」


俺たちは小さく笑い合い、リビングに向かった。

その前にガッチさんの大好きなお酒を渡すと、喜んで受け取って貰えた。

ガッチさんに、葵にほんと出会えて良かったよ。



先生side___END



ガチャっと玄関から音がして思わず駆け寄った。



一体何を話していたんだろう。
結局二人の仲は何なんだ。


聞いてもどうせいつもパパは本当のことを言ってくれないんだよ。




いつもそうだ。




どんな仕事の社長をして、どんな人と関わって、家にいない時どんな生活をしているのか。

ママとどういう出会い方をして結婚して、あたしが生まれたのか。




あたしは何も知らない。





どうせ聞いてもはぐらかされて言ってくれないし…って思ってたけど今回だけは気になって仕方なかった。


いや考えるより口が先走ってたんだ。
それに近いと思う。





「外で何話してた?先生とどういう関係?ねぇ先生が言いかけた「ガッ」って何??」




駆け寄ったあたしの勢いに、パパと先生は一瞬だけ顔を見合わせて、それから同時に視線を逸らした。



その絶妙に揃ったタイミングが、余計にあたしの疑惑を深くさせる。



パパ
「そんなに一気に聞かれても困るなぁ…あはは」


乾いた愛想笑いはもう見飽きたよパパ。
いつも何か隠す時の笑い方しないで。




「なんであたしには何も教えてくんないの?」
「ねぇなんで?!」

こーすけ
「ちょっと落ち着けって」





駄々をこねる子どもみたいで自分でも嫌んなる。
先生にこんな姿見られたくなかったな…なんて頭の隅で考えても、もう遅いけど。






パパ
「そんな怒んないのぉ」
「キヨとはね、昔本屋さんの仕事してた時に出会ったんだよ」
「よく一緒にゲームしたりしてたなぁ」
「なぁ?キヨ」


キヨ
「えぇ!あ、いやあぁ…そうだなあの頃はずーっと本屋さんでゲームしてて店長に怒られたっけ?」

パパ
「それはお前がうるさくするからだろ」




先生が焦った顔で話してるのに違和感を感じた。
いつもそんな顔して喋んないもん。
絶対口裏合わせられてるやつじゃん。






「ふーん本屋で仕事してたとか聞いたことないし、本屋でゲームとか訳わかんない…本読めよ」


こーすけ
「そこじゃねぇだろ」



「じゃあ…「ガッ」って先生が言ってたのは何?」


先生
「え?あぁそれは〜「ガッチガチに本屋でゲームしてる人」ってよく言われてたんだよ」


パパが「おぉ〜」みたいな顔した。
嘘がバレバレなんだよ。


先生
「だからガッチさ⤴︎ ん」



「………先生声裏返ってるよ」


先生
「…いや間違えただけじゃん」





あたしは先生を見つめた。

いつもはどんなに無茶な言い訳でも、あたしを丸め込むのが上手いくせに。
立場が逆転しちゃったね。

まぁいいや嘘つくの下手ってちゃんと分かったから。





こーすけ
「……葵、顔怖いぞ?仲良さそうなんだからさもうよくない?」



「いいけどさ……パパに先生を取られたみたいで、なんかムカつく」


パパ
「む、ムカつくか……」

先生
「んふふふ可愛いなぁ〜俺はずっと葵のだよ?」



先生があたしの手を取って握った。
パパが目の前にいるのにそんな堂々と…

けど、さっきのことなんてもうどうでも良くなってしまった。

あぁ好きだ。
ほんと先生が好き。



パパ
「俺の目の前でイチャイチャしないの!」



「別にいいじゃん」

パパ
「よくない!」

こーすけ
「いやもういいからとりあえず座れって玄関じゃ寒いでしょ」




半ば強引にソファに押し込まれる形で、あたしと先生は並んで座らされた。


なんか…変な感じ。


さっきまであんなにピリついてたのに、急にいつも通りの日常に戻されたみたいで安心するわ。



パパはキッチンの方に向かいながら、ちらっと先生の方を見る。

何よ。





「何先生のこと見てんの?」

パパ
「いやお前らお似合いだなぁと思ってさ…怖いよあおちゃん」

先生
「ん〜嫉妬してんのかぁ?可愛いなぁ〜」

こーすけ
「はぁ…また始まった」



先生に頬をむにむにと摘まれた。
2人の前でいつものイチャイチャ見せつけちゃって…!



「やめて二人見てるから…」



恥ずかしくて先生の手を振り払おうとしたけど、先生はニヤニヤしながら手を離してくれない。


先生
「いいじゃんこうやってゆっくり会えるのあんまりないんだしさぁ」



先生がそう言って頭を撫で回してくる。
懲りない人だなぁ。



パパ
「…俺らがいない時にやってくれないかな清川くん」



パパは先生が持ってきたお酒を一気飲みした。
やけ酒みたいに。




空になったジョッキをテーブルに置くと、深く、長いため息をつく。

その顔は、娘の彼氏に嫉妬する父親そのものだったけれど、どこか満足そうでもあった。


パパ
「今日泊まってく?」


「……えっ!?!!!」




い、今なんて?!
とととととと、泊まる???!

先生があたしん家に?!!

ひとつ屋根の下ってこと?
…まさか今日で……いやいやいやパパいるんだしっ!!!




こーすけ
「んははは父さん葵が顔真っ赤にして変な想像してるぞ」

パパ
「葵……お父さん悲しいよ…」



あたしは咄嗟に顔を隠して、さっきまでの妄想をかき消した。


何考えてんだあたし。
暇さえあればそんなことばっかり…
もうやだ……


先生はあたしを見て爆笑してるし。
やめてよもう!!




先生
「…いいの?俺ほんとに泊まっちゃうよ?」

パパ
「どうせ明日は仕事ないだろ?
俺も明日まで休みだから、久しぶりに一緒にゲームしようよ」


パパ
「あ、でも言っておくけど夜中に葵の部屋に忍び込もうなんて考えてんならわかってんだろうな?」


先生
「いやいやいやわかってますって! 俺の信用ねぇなぁ!」


こーすけ
「よっしゃ決まりだな!準備しよーぜ!!」



「……」



あたしは、まだ熱い頬を手で押さえながら、バタバタと準備を始める男たちを眺めていた。
嘘だらけのパパと先生。


でも、パパが「泊まってけ」って言ったのは、先生のことをもう「友達」じゃなく、「家族」として近くに置いておきたいって思ったからなんだよね……?



先生がこっそりあたしに近づいて、耳元でささやいた。



先生
「……みんなが寝たら…会える?」


「…………うんっ//」




あたしの心臓は、今日一番の音を立てて跳ねた。



パパ達には内緒の秘密の夜。




あたしの大好きな人が同じ屋根の下で眠る。
最高に混乱してて、最高に幸せな、そんな長い夜が始まろうとしていた。




深夜1時____




コンコンとドアのノック音が聞こえた。


…きっと先生だっ!!!


さっきからドキドキしてリビングに行けなかった。


体にオイル塗ったり香水振りまいたり。
唇をぷっくりさせるリップを塗って。

あぁほんとあたし何考えてんだろう。



気を紛らわそうと勉強しても何も進まなかった。





「…っはい!」



そっと音を立てないようにゆっくり扉を開けた。




先生
「んふふ面接じゃねぇんだから〜」




満面の笑みを浮かべた先生があたしの目の前にいる。


ふわっと香るボディソープの匂いが鼻をくすぐった。
あたしと同じ匂いなのに、先生からはもっと甘く感じる。


同じお風呂を使ったって考えれば考えるほど顔が熱くなっていく。


あたし…気持ち悪いなこんな感情が芽生えてくるなんて。





先生
「ちと散歩するか」


「…それ…………嫌だ」

先生
「…どした?」




あぁぁぁ何言ってんだ!!!
ちょっと触れたいからってそんなん言ってさ!れ!
…ちょっとは気づけよ
勝手に期待してバカみたいじゃんっ……




「……嫌っていうか…その……」

先生
「ん?」




先生が意地悪そうに顔を覗き込んできた。





確信犯だこの人。
あたしが何を考えてるか、全部分ってて言わせようとしてるんじゃないのこれ。


本当は今すぐ抱きつきたい。
堂々とそんなことできたらいいのに。



せっかく準備したこと、全部先生に気づいてほしくて、でもいざ目の前に来るとどうしていいか分からない。


でも後悔したくなくて、あたしは咄嗟に先生の裾をギュッと掴んだ。


思ってることちゃんと言わないと…






「…外寒しい…その…部屋入る?」




先生
「……それ誘ってるって分かってんの?」
「こんな甘い匂い漂わせて」



「…いやっ」




先生がゆっくりとあたしとの距離を詰めてきた。
心臓の音がうるさすぎて、先生にも聞こえちゃうんじゃないかって思う。




先生
「俺さ、ガッチさんに『手出さない』って約束したばっかなんだけど。……そんな顔して誘われたら、俺、嘘つきになっちゃうじゃん」





先生の大きな手が、あたしの腰に回される。
と、同時に部屋の鍵を器用に閉められた。


ふわっと混ざり合う、二人で使ったボディソープの匂い。

あたしの塗ったリップのツヤを、先生の視線がじっと追いかけているのが分かる。



気付いた時にはもうベッドに押し倒されていた。


天井の下に、先生。


まだ乾いてない先生の髪が、この場をもっと色っぽくさせる。



先生
「…ゴムなんか…持ってきてねぇしこれで我慢して?いい?」




そう言った瞬間、溶けてしまうんじゃないかと思ってしまうくらい深いくて甘いキスを何度も何度も交わした。


離れたと思ったら、ヂュッっと鈍い音が首筋落ちていく。


先生の女だって証
また付けてくれたんだ…!!





「んっ…//せんせっ」


先生
「ずっとこうして欲しかったんでしょ?バレてんぞ」


「先生だって…」

先生
「当たり前じゃん可愛いすぎなんだよ」
「……って痛ぁぁぁぁ!!!」
「なになに!!?なにこれっ!まじで痛ぇぇ」





先生が飛び起きて唇を押さえつけた。

あ、マキシマイザーのリップ……


さっきまでの甘い雰囲気は無かったみたいに、先生は涙目になりながらベッドの上でのたうち回っている。





「んははははごめんカプサイシン入りのリップつけてたわ!」

先生
「えぇ最近そんなもんあんのかよ」




先生は悶絶しながらも、どこか呆れたように笑って、赤くなった自分の唇を指でなぞった。



先生
「……でも悪くねぇな」
「俺のために塗ってくれたんだよな?んじゃもうちょっと楽しみたい…これハマりそう」


「えっ?!あ、ちょっとっ…!」



そうしてまたゆっくりとあたしに覆いかぶさってきた。




先生
「後でコンビニ行こっか…欲しいもんなんでも買ってやるから」


「…いく」

先生
「愛してるよ」


「あたしも…愛してるっ」



ヒリヒリする唇のまま、先生はあえて深く、逃がさないように唇を重ねてきた。


唇の熱さと、先生の体温。
二つの熱が混ざり合って、あたしの思考は今度こそ真っ白に溶けていく。



気づいた頃にはもう2時になっていた。

2人だけの秘密がまた増えてどんどん心が先生で満たされていく。
ずっと先生と一緒にいたい。
そんな思いもどんどん強くなって行った。






先生
「あのなぁ欲しいもん買うとは言ったけど、ゴムはまだ買わねぇよ!!ばかっ!変態!戻してきなさい」


「…ふんっ!知らないもん」

先生
「…はぁ……お前がその気なら…卒業したら抱き潰してやるから覚悟しろ」


「……戻してきます//」




また1つ先生と幸せな秘密の約束が増えた。