放課後

図書委員が始まるまであと20分
ふと運動場を眺めると清川先生がいた

へーサッカー部の顧問なんだ。玲斗と走ってる
あ、だから玲斗を授業で当てたんだ。
先生がシュートを決めた。生徒達と仲良さそうにハイタッチしてる。楽しそうだなぁ

「あおちん珍しく黄昏て、なーに見てんの?」

「なに?運動場だけど」

「ヨーキーじゃん」
「あ、あんたまさか!!!?」

「ん?なに?」

「はぁ恋ってのはすごいねぇそんなニコニコしちゃって〜」

「は?ちげーし!!楽しそうだったから見てただけだし!!」

「ムキになんなって〜笑笑」

ほんとになんなんだあたしの友達は
好きになるわけないだろが

「清川のこと好きになるとかぜってぇ有り得ねーよ」

「どうだかねぇ〜未来のことなんかわかんないよ〜」

「もう帰れって」

「あお怒ってる〜笑笑」

「殴るぞ」

ナナ「ナーチ!」

ナチ「おっす〜ナナ!ナナとマック行ってくるわじゃあな」

「え〜ずるい!あたしも行きたい!!」

ナナ「図書委員おつかれぇ!!」

ナチ 「あおの好きなポテトの写真送るわ」

そう言って帰ってしまった
ポテトの写真なんか送られてきたらもう腹立ち過ぎて暴れるわぼけ。

「はぁ行きたかったなぁ」

あと15分もあるよ、、、、
帰っちゃおかな。でもSwitchが!!くそあいつが持ってんだよな。くそお!!

「よっ!」

聞き覚えのある声。しかも息切れしてる。
今は鬱陶しいかも

「先生なんでいんだよ」

今の今までサッカーしてたのに。ほんとに人間なのかこの人

「お前ぜってぇ帰ると思って迎えに来てやったんだよ。ほら行くぞ」

なんだよそれ
Switchパクリやがって帰るわけねーだろ!!!


先生の少し後ろを歩く
にしても背でけぇ脚長っ
そんなことより帰りてぇ

「あーしんど〜部活見たあとにわざわざ走って迎えに来てやった俺に、感謝のひとつもないんすかねー?」

「勝手に迎えに来たくせによう言うわ。頼んでねーよ」

「恩着せがましくしないとやってらんねぇのよ先生は」

「今日ナシにしない?マック行きてぇんだが」

「俺もしたくねーよ校長がうるせぇからさ」
「正直放課後に図書室来るやつなんか高橋くらいしかいねぇしな」

「だりぃぃ」

玲斗「あ、先生!!!」

玲斗がありえないくらい顔面蒼白で先生を呼び止めた

清川「レト?どした?何があったんだよ!!」

玲斗 「平川が、跳ね返ったボールにあたって怪我してっ血がっ!」

清川「教えてくれてありがと行くわ!!」

「あ、坂木帰んなよ!!俺後でちゃんと行くから!!」

「はーい」

と一言言って先生は平川の救護へ颯爽に走り出した
大変な職だな。ずっと走ってばっかじゃん

ポケットに手を突っ込んで、ちょっとため息。


なにあの切り替えの速さ。教師ってすごいなぁ

「行かなきゃ、、、」

ポケットに突っ込んだ手の中で、スマホがごそごそと動く。
画面を見たら、ナチから写真付きのLINE。

《ポテトバカうま。出来たてだったわ。うちら今日めっちゃ勝ち組。あおなんで来なかったんだよ〜》

はぁ〜〜こいつらうぜぇ。


「はぁみんなに会いたい」

そうつぶやいて、スマホをポケットにしまう。
正直マックに行けなかったことよりも、
あの先生にSwitch預けたまんまだって事実が、今は何より腹立つ。そうじゃなきゃ絶対帰ってた

不思議と足取りは軽い。
だって、あたしが来ないと、あいつ絶対調子乗るし。
「やっぱり逃げたな〜」とかニヤニヤ笑って言いそうだし。
てか、言われなくてもちゃんと来てる自分がちょっと偉いかも。

「って、なに真面目に向かってんの。バカじゃね」

そう言いつつも、階段をとん、とん、と上る音がやけに心地いい。

着いちゃったよ、、、
はぁあたし優等生になっちゃった
1年の今なんて目が合えば殴り合いの喧嘩なんか日常茶飯事だったしな。



昔ヤンチャしてたって言うか普通にグレてた。
なぜそうなったかって聞かれてもよく分からない。でもそんな時に支えてくれたのが、ナチ、アリサ、ナナだった。1年の後期は登校したこと無かった。先生もあたしの対処をするのに手を焼いていた。親もそう。親が再婚して、私を要らないもの扱いをしてきた。だけど3人はあたしを必要としてくれた。夜中に夜景見に行ったり、旅行に連れてってもらったり。息抜きさせてくれた。一生物の宝物だな。

あの頃のあたしにとって、それだけが全てだった。

徐々に学校に行くようになって、先生の言うことも聞けるようになって、、、友達ってすげーよな

「入るかぁぁ」

図書室の重たい扉を開ける
旧館より綺麗でなんか落ち着かねぇ

ぜってぇ誰もこねーだろ。みんな部活してるし。
くっそおマジで帰りてぇ

「あ、あたしのSwitch」

棚に置かれたSwitchを触る


「充電減りすぎだろ!何時間やってたんだよ」

フル充電してきてんのに残り50%を切っていた

「マリカ中毒か」

それにしても――
あの先生、遅くない?
いくらケガの処置とはいえ、時間経ちすぎじゃね?もう20分くらいは経ってるし

椅子の背にだらっともたれかかって、ため息ついたとき。

「帰ってるかと思ったわ、優等生」

「ッッ……びっくりしたぁぁ!!!」

清川先生が汗びっしょりになりながら図書室に入ってきた。

「おつかれ、走ってきた?」

「あったり前だろ、お前絶対帰んじゃん」

「ラーヒー大丈夫だったん?」

「うーん思った以上に血だらけだったわマジで焦ったぁ」

「お疲れさん、てことで先生も疲れてるし今日は…」

「マリカすっぞ!」

「くそっ」

この先生元気すぎだろ。

「はい、タオル」

服に張り付くくらい汗かいてて、思わずタオルを差し出した

「珍しく気が利くなぁ」

「あたしのこと何も知らねーだろ」

「出会ってまだ2日目だったわ笑笑」

そう言って先生は笑い転げた

なにがそんなにおもろいんだよ

先生はSwitchをテレビに繋いで
マリカを起動させる

「お前さ、テス勉とかしてんの?」

「するわけねーだろまだ4月だぞ」

「進学すんのか?」

「だるその話」

「すんの?」

「ナチ達に任せるかな」

「置いてかれっぞ〜」

「それはどうだか」

ナチはやる時はやる女だ
毎日寝てるのにテストで赤点は取ったことがない。
その勉強会を一緒にしてるから私も赤点取ったことない。

「まぁお前の成績なら普通のとこ目指せるか」

「あたしに任せとけよ」


先生はコントローラーを2つ手に取ると、当然のにひとつをあたしに投げてよこした。

「落としたら罰ゲームな」

「なにそれ小学生か」

「先生って案外子どもっぽいよな、って思ってるだろ?」

「思ってるし、事実でしょ」

「事実をそのまま口にするのって、人としてどうなんすかねー」

「教師が言うセリフかぁ!」

そうこう言いながらも、ゲームは始まる。

「レインボーロードだって、うわ、最悪」

「勝負に文句言うな優等生。こういうのは運も実力のうち」

「そういうこと言うやつが一番運頼みなんだよなぁぁぁ!!」

レースが始まると、思わず前のめりになる。
口は悪いし態度も雑だけど、先生は普通に強い。

「おい!赤甲羅あたしに当てんな!!!」

「いやいや、これは自然の摂理ってやつ」

「摂理の意味わかってんのか!!?」

「ちょいま話しかけんな!!」

「なんだこいつ」

2レース目も、また負けた。強すぎるだろ。

「よし、最終戦だな。ま、俺が勝つけどな」

「ここで勝ったら実質勝ちだから」

「ルール変えんなって」

「だってなんか強すぎるもんおかしいって!!」

ふと隣を見たら、先生が私のをじっと見てきていた


「な、なに?」

「楽しいか?」

「え、楽しいけど」

「なら良かったよ」

「なに急に怖、きも!」

「ぎゃはははははだってお前たまに、死んだ魚の目すんじゃん」

「それはあんたがおもんないからだよ!!」

「人のせいにすんじゃねーよ!」

「はぁぁぁだるこいつ」

「よそ見してたら負けんぞ〜」

そう言って先生は勝手にレースを開始した

「ちょ!おい!待ってよ!!」

「俺一人勝ち〜」

「いやあたしが逆転勝利だろ!」

「うわぁぁぁ金キノとキラーだぁぁ!俺がもう勝つだろ!圧勝だわこれ!!圧勝だわ」

「うるせぇよ!!!!」
「やべぇ落ちた」

「お前マリカ下手だなぎゃははは」

「うぜぇぇ」

はぁ負けたわ

「お前弱ぇ!!!」
「俺のルイージ最強だわ」

「くそもう帰る」

「お〜いお〜い、なに拗ねてんのぉ〜??お嬢ちゃ〜ん?」

「拗ねてねぇし!!!」

「いや、完全に拗ねてたな。Switch置いて帰る勇気もないくせに〜、くくくっ」

「うるせぇ!Switchなかったら今ごろマックでポテト爆食してんだわ!!」

「てか、俺のルイージにボッコボコにされたのが悔しすぎただけだろ?」

「は!?たかがゲームで調子乗んなよ!?マジで教師の器か疑うわ!!」

「器?そんなもん最初から持ち合わせてませ〜ん!」


ぎゃははははと先生が笑う
その笑い方何とかしてくれよ

「でもそうやって怒れるのっていいことだと思うよ」

先生が真剣な面持ちで言った

「それ、褒めてんの?」

「んな訳あるか」

なんなんこいつ!まじでむかつくわ!!!!
さっきまで真剣に話してたのに

「てめぇ殺すぞ!!ごらぁぁ」

「出た、脅迫!!教育委員会に言ってやる!」


先生はゲラゲラ笑って、あたしの方見てニヤついた顔のまま言った。

「でも楽しかったろ?」

「まぁな」

「す、素直!?今なんて?!録音しとけば良かったくそ!!」

「だめだ、まじでうぜぇ」

「俺もお前マリカ弱すぎてうぜーわ」

「はー?じゃあもうやらねーから」

「Switchぶっ壊すぞ」

「絶対教師がそんなことしたらダメだろ」

「お前さ、本気でちゃんとすりゃ、どこでもやってけるぞ」

「……なんで急に真面目モード?」

「いや、たまには“ザ・教師”っぽいセリフ言っとかないとさ、立場なくね?」

「言っときゃセーフだと思ってんのか」
「そゆとこやぞ?」

「教師が生徒とサボってマリカしてるのバレたら俺飛ばされるわ」

「校長にやらされましたって言ってこよーと」

私はわざと立ち上がり行くふりをする

「おいおいマジでいく気?冗談通じない系?」

「へ?そうだけど?」

「あおちんそれはないって〜戻ってきてマリカしよーぜ」

「だって負けんもん」

「はいはいはいはい」

そう言って先生は私に近づき手を引っ張って椅子に座らせる

「てかもう、5時だよ」

「2時間もマリカしてんのか、やべーやること何もやってねぇ」
「にしても誰も来ねーじゃねーか」

「放課後に図書室来るやつなんか変人しかいねーだろ」

「高橋とかな」

「先生がそれ言っちゃうんだ」

「ぜってぇ内緒だかんな本人に言うなよ」

「あたしもあいつと喋りたくねーよ」
「てかもう帰りたいです」

「あと1戦だけしようぜ!お願い!甘めにしてやっからさ」

「じゃあ私の後ろから前に出んなよ」

「それはねーだろ!」


「うぜぇ!もう始めんなよ勝手に!」

「はいスタートォォォォッ!!……っておいおい、ダッシュミスってんじゃねぇぞ初心者か!!」

「うるせー黙れ!!今集中してんだよ!!」

「はいはいはい、じゃあ先生も真剣モード入っちゃおっかな〜〜っと」

「やべ、赤甲羅全部飛んでった」

「ナイスゥ〜〜〜〜〜〜!!!今の俺の後方確認完璧だったな!?お前今、先生のこと見直したろ!?」

「いや普通にムカついたわ、絶対次ぶっ飛ばす」

「わぁ出た〜殺意MAX坂木〜」

わちゃわちゃ言いながらも、2人のコントローラー捌きは真剣そのもの。
ゲームの中では、年齢も立場も関係ない。
負ければムキになるし、勝てばドヤる。ただそれだけ。

「おらっ!!!ラスト1周、勝ったなコレ!!!」

「いやいやいやいや、まだ諦めてねーから!!!あたしは勝つんだよ!!!」

「うるせぇ!言うだけならタダだ!!」

「よしっ!!いったぁぁあああああ!!!スターきたァァァァ!!!!!」

「おいおいマジかよ、そこでそれはズルすぎ!!!!」

「うっしゃあああ!!抜いたぁあああああ!!!!」

「ぎゃぁぁぁうわぁぁぁぁ!!」

最後の直線、ギリギリで追い抜いたのは——

「あたしの勝ち〜土下座しろ」

「マジかぁぁああああ!!!!うあぁぁぁあああ!!!」

「うるせぇぇよだまれよ!!」

「うっざ……」

「うっざい言うな、勝者に敬意払え!!崇めろ!!土下座しろ!!!」

「はいはい、坂木さんはお強いお方で〜〜す」
「もう一戦しようぜ?」

「しねぇよ、今ので終わりつっただろ。そもそも何時間やってんだよ」

「ちぇ〜〜」

先生はコントローラーをポイッと机に投げて、天井を見上げた。


「なぁ坂木」

「なに?」

「明日当番ないけど来るか?」

「嫌なんだけど」

「マリカしようぜ明日も」

「当番ないのにわざわざ残って先生とマリカとか最悪」

「ちぇ、楽しそうにしてたくせに〜」


と、その時突然扉が開いた

??「あ、すいません清川先生いますか?」

清川「あ、麻央じゃん久々だな!どしたん?」

すっごく可愛い子。そんな子が先生を呼び出し、、こ、告白!?やべーよ!!

麻央 「あ、あの今時間行けますか?ちょっと話したいことあって」

清川「あぁわかった外で話すか」

葵 「行ってら〜」

清川「俺告られんのかな!!なぁ!」

葵 「きっしょ、んな訳ねーだろ笑」

考えてること一緒かよ
あたしと遊んでる時よりウキウキしながら出ていくなよ!くそ教師が

「はぁ暇だなぁ」

にしてもあの子可愛かったな。顔真っ赤にして先生のこと呼び出して、告白以外ありえねーっての


「彼氏、ほしい、、」


そのとき、ガラッと扉が開いた。
先生が戻ってきた。

「うわぁぁどうしようあおちん!」

「なに?うるせぇな告られたんか?」

先生が満面の笑みで私にこう言った

「わかる!?俺告られた!やべぇほんとにあるだなこんなこと!付き合うわけねーけどさ」

「うそ!!ガチの話?禁断じゃん!!」

なんかほんとに顔に出やすいんだなこの人。
顔を手でおって耳も真っ赤じゃん。女子か

「やべぇだめだ俺教師してこんなの初めてだわ」

「話聞かせろよ気になるだろ!」

「それはまぁ内緒〜」

「はぁ?ここまで言って?」

「はいはい冗談だよ」
「麻央が1年の時俺担任だったんだよ。それで勉強とか教えてて、サッカー部のマネしてくれてたりとかあって、あの頃はなんかずっと一緒にいてたから好きになったらしい!!!やばいよね!」

「青春すぎて怖いよ、、先生はなんて答えたの?」

「気持ちは嬉しいしけど俺先生だし、付き合えないって言った。うわぁなんで俺先生なんだよ」

「先生じゃなかったら好きだったの!?ってメンヘラだったら、そう思いそう。まっておもろすぎる」

「うーん生徒としてよく言うこと聞くし、いい子だなとしか思ってない。麻央申し訳ない」

「可哀想まじで可哀想」

「生徒と付き合ったら職失うわ、しかたねーだろ」

「まぁそうだけどさぁ」

「まぁ坂木より良い奴だな麻央は」

「あぁ?殺すぞ」

「冗談通じねーのかお前は」

「あたし弄ばれてる?なに?」

「いやーお前と2日間でこんなに仲良くなれると思わなかったわ」

そうだった、出会って2日しか経ってない
なんかもう3年くらいの付き合いのように感じてた

「あたしら親友だね」

「親友は早いだろ」

「確かに、だけどすごく先生って親しみやすいね」

「よく言われます」

「なんだこいつムカつくわ〜」

キーンコーンカーンコーン
チャイムがなる

「あ、もう6時か」

「はぁ3時間も経ってんじゃん早すぎだろ」

「俺この後会議だから帰れ早く」

「可哀想残業か」

「まぁな頑張りますわ、マリカいっぱい勝ったん
で」

「うわぁ、超ムカつくんだけど!!!」

私が動こうとしないから
先生が立ち上がって帰ろうとする。

「ちょ待って!!」

「図書室住めば?もう馴染んでんぞ」

「絶対やだ」

即答してやると、先生はふっと笑った。

「はいはい、おつかれ坂木さん。ちゃんと帰れよ、寄り道すんな」

「お前に言われたかないわ」

「そういう口の悪さが、お前の魅力だよな〜」

「きもっ」

そう言いながら、Switchをバッグにしまいながら駆け足で先生に駆け寄る。

「じゃーな、また明日」

「明日は来ないよ当番じゃねーし」

「マリカ、続きやってあげてもいーよ?」

「それ先生がやりたいだけでしょ?」

先生が「そうかもな」と言い笑い合って、図書室を出る。
夕焼けに染まる廊下、窓に映る自分の影がいつもよりちょっとまっすぐに見えた。

「気おつけて帰れよ〜お疲れさん」

「お疲れ〜」

先生が職員室に入るのを見て
私はそそくさと帰る


先生と出会ってたった2日しか経ってないのに、こんなに楽しく笑うことができた。
ナチ達とも毎日バカみたいに笑ってるけど、これはちょっと違う感じ。
うまく言えないけど。

——また明日。

別に期待なんてしてないけど、
そう言いながらも、少しだけわくわくしてる自分がいた。