放課後、先生との秘密

文化祭が終わってから、1ヶ月くらいが過ぎた。



レトくんと平穏な日々が過ぎていって
今日は付き合って1ヶ月記念らしい。


ちなみに、あの日以降、先生とは一言も話してない。
レトくんに止められてるのもあるけど、一切目が合わないし、話しかけにすら来ない。

なんか避けられてる気がする。


まるであの日が夢だっかのような気分だ。



あたし、なんかしたかな……
嫌われちゃったのかな…

そんなことばかり考えて苦しくなる日が続いた。



そんな中、今年も秋祭りの季節がきた。



毎年ナチ、ヒラ、こーすけで行ってたから今年も4人で行くつもりだった。

けど、レトくんが「なんで彼氏の俺を優先してくれやんの!!しかも記念日やのに!!」って拗ね始めたから断るしかなかった。


幼馴染と行けばいいのにね。
あの子絶対レトくんのこと好きじゃん。
あたしといたら割り込んでくるし、家も隣だし。よくあるテンプレすぎるわ。


高校最後の祭りなのに…
みんなと行きたかったな…
なんなら先生と…花火見たかった。


もう決まってしまったことを悔やんでも仕方がない。
今のあたしには、レトくんと祭りを楽しむしかないんだ。



今日はレトくんと浴衣を着るのを約束した。




レトくんの好きな柄の浴衣。
私は好みじゃない。
正直着たくないけど、レトくんが喜ぶから。




浴衣に似合うメイクをして、大好きなピアスを外して…




あたしの個性なんて無くなってしまったみたいな喪失感に陥る。




一応みんなにはどうせバレるから、レトくんと祭りに行くことは言った。
予防策として。

みんないい反応ではなかった。
あ、そうなんだーみたいな。

そりゃそうなるよね。



すると携帯の通知がなった。
レトくんから。



レト
「ごめん今起きた用意できたら俺ん家きてなあ!!」

「寝すぎだろもう17時だよ?笑」
「わかったもうすぐ出るね!」




そう返信して画面を閉じる。






鏡の前で自分の姿をしっかり見た。



「……はは」

意味もなく笑って、視線を逸らした。
あたしじゃないみたい。
自分を押し殺してまでやることなのかな······



レトくんは悪くない。
優しいし、大事にしてくれてる。
記念日もちゃんと覚えてるし、
「好き」も、ちゃんと言葉にしてくれるのに。

それなのに……あたしは…
先生を越えれない。
多分死んでもレトくんを心から好きになることはないんだろうな…



「いや今日は楽しまないと」


そう言い聞かせて、レトくんの家に向かった。


だめだ……家から2、3分で着くのに足取りが重くて進まない。


祭りなのに。
記念日なのに。


まるで他人事のように感じる。
逃げ道を探してるみたいで、ほんと最低だなあたしって。



「うざ」


誰に言うでもなく、吐き捨てるみたいに呟いた。

気づけばレトくんの家の前に立っていた。
インターホンを押す指が一瞬だけ止まる。

……帰りたい。


そんな気持ちを押し殺して、ピンポン、と鳴らした。


大丈夫。
レトくんと会ってしまえば楽しめる。



レト
「はーい!!」



やけに元気な声。
ドアが開いた瞬間、レトくんはあたしを見るなり目を輝かせた。




「レトくんっ!お待たせ!!」

レト
「ええーー!!めっちゃかわいい!!!似合ってる!!!!」



そう言って、照れながらあたしを抱き寄せてきた。
くそっ……レトくんのそういう所が嫌いになれないんだ。


あたしのこと大好きなんだなって伝わってくるし、ほんとお姫様になった気分。


レトくんは離れてからも、愛おしそうにあたしを見つめた。



レト
「浴衣、着てくれてありがとう…」


その言い方が、少しだけ引っかかった。



あたし、浴衣買った時嫌な顔しちゃったもんな。



だから今の「ありがとう」は、
“本当は嫌だったの俺のために”って意味に聞こえた。




「レトくんも、浴衣似合ってんじゃんかっこいい」



嘘じゃない。
落ち着いた色で、髪の毛もちゃんとセットして
正直お世辞抜きで本当にかっこいい。



そう言うと、レトくんは一瞬きょとんとして、
すぐに照れたみたいに目を逸らした。



レト
「やば……そんなん言われたら嬉しすぎるんやけど!!!」



単純だなぁと思いながらも、そんなところが憎めない。



レト
「なぁちょっと家入ってくれへん?」


「もう17時半だよ?ゲームすんの?花火は?」


レト
「大丈夫。間に合うから入って」


そう言って手を引かれた。

鍵を閉めるなりキスをしてくる。
ずっとしたかったみたいに、余裕のない顔。
あたしもそれに答えるように軽く背伸びして唇を重ねた。


息苦しくなってレトくんの胸を少し叩くと、我に返ったのか徐々に離れていく。


レト
「あっ、いや、、ごめん!!」


顔が赤くなってるのが分かって、こっちまで恥ずかしくなった。


レト
「浴衣…可愛すぎて……が、我慢できひんくてっ!んもう行こ!!!」


「レトくんのバカっ!」


レトくんを肩をバシッと叩くと「痛ぇぇ!」と叫びながら肩をさすった。
その様子が可愛くて。

多分あたしも今顔が赤い気がする。

照れ隠しのようにレトくんは家を飛び出して行ってしまったから、レトくんの背中を追いかけた。


飛びかかるように腕を組んで顔を覗き込むと、まだ赤かった。


可愛い…


何気ない会話を交わし、時には近所の猫を撫でたりして歩いていると、案外すぐ神社に着いた。




提灯の光がずらっと並んで、カステラの甘い匂いと人のざわめきが一気に押し寄せてくる。



「人多いね〜知り合い居そう」


レト
「あ、あのさ」



レトくんは少しだけ振り返って、あたしの手を取った。



レト
「迷子なったら探されへんしさ…手離したらあかんで?」


いつも繋いでくるくせに、こういう時は緊張してさ。
そんなレトくんの可愛いところを見るのがあたしでいいのかな…



「レトくんが迷子になりそうだけどね〜?」


でも今日はもうそんなこと考えないでおこう。
レトくんに失礼だ。


あたしはいつもみたいに笑顔を作った。
自分に嘘をつくのはもう慣れた。
だからきっとこの先もバレないよ。


レト
「葵より大きいでーす!」


そう言ってレトくんはあたしの頭を撫でてきた。
そんな幸せそうな顔しないでよ…




「ね、射的しようよ!」


レト
「いいやん俺上手いで?」


「レトくん上手いとか言って口だけの時あるもんな〜」

レト
「うるさいなぁ」


「でも、そういうとこがっ……」


そういうところが可愛い。
そういうことろが好き。



レトくんを喜ばせる為の言葉なのに。
喉につっかえて口から出てこない。



レト
「んふふ射的行こっか」


何かを察したみたいな顔でそう言った。
その顔が少し怖い。
全て見透かされてるみたいで。



人の波に押されるたび、レトくんは無意識にあたしを自分の方へ引き寄せる。

そんなことが簡単に出来てしまうレトくんを嘘でも「好き」だなんて思う資格は持っていない。

きっとちゃんとした気持ちが、レトくんに対してあったらここで「好きだよ」って伝えれたはずなのに。




レト
「待って!!遊戯王のカードあるやん!!!」


レトくんが珍しく目を輝かせてそういった。




「いやもう沢山持ってんじゃん」

レト
「あれ新しいやつ!!!!」


「はぁ……じゃあ絶対取れよ?」

レト
「口悪くなってる…」


銃を構える。
その横顔に少し見惚れて、写真を撮った。
見返したことはほぼないけど、思い出として。



1回目。

レト
「んまぁこんなもんしょ!」

2回目。

レト
「いやぁぁでもちょっと動いた次!
次で取れるから!」


3回目。

レト
「これ重り付いてんちゃうん?!おかしくない?」


4回目

レト
「くそっ…もう買った方が早いわ!」


結局取れなくて、本気で悔しそうに口を尖らせてるレトくんを見て、思わず笑ってしまった。



「はいはい、お疲れ様でした〜」

レト
「笑うなやぁ!!まじでいけると思ったのにー!もうー!!!」


射的屋のおじさんに「また来てな〜」なんて言われながら、その場を離れた。

人混みに流されるように歩いていると、レトくんが「金魚すくいしよっか!!」と言われ手を引かれた。


レト
「遊びで!2回目します!」

おじさん
「はいどうぞ〜頑張ってね!」


お金を出そうとしたら、レトがまさかあたしの分まで買ってくれた。
次はクレープ奢るからと言ったら子どものように目を輝かせた。



レト
「俺な、金魚すくい得意やねんで!」


「はいはいまたそれじゃん」

レト
「いやほんまに!見とけって!」


水面をじっと睨んで、ポイを沈める。
……沈めた瞬間。

びりっ。

破れた。





「は?」

レト
「……え?」



お互い顔を見あって思わず笑い転げた。

まだ金魚に触れてすらいないのに、
ポイの真ん中に亀裂が入って破れた。


レト
「今のはノーカン!!!」

おじさん
「あ〜、破れちゃったね」


「下手くんよりあたしの方が上手いかもしんない」


レト
「……いやいや、やってみっ……ちょっと待って?今なんて?」


ゆっくりこっちを見る。


レト
「下手くん!?
今、俺のこと下手くんって言った!?」


「ん〜?聞き間違えじゃね?」



あたしがそうやってニヤニヤしながら言うと、レトくんは大げさにため息をついた。


レト
「じゃあ葵がやってみいや!!」


「下手くんよりかは取れるもーん」

レト
「下手くんやめて!!」


水面をそっと覗き込む。
泳ぎの遅い金魚を見つけて、ポイを滑らせた。



ポイの上で、赤い金魚がぴちぴち跳ねる。



「ほらねぇー!」


レト
「は?????」


固まったまま、レトくんはあたしと金魚を交互に見る。



レト
「今のはたまたまやろ」


「じゃあ見といて?」

レト
「破れろ!!」


ポイをまた水面につけて、金魚をゆっくり持ち上げる。

取れた!!


レト
「はぁぁ」



二匹目。

三匹目。

四匹目。



レト
「キモっ!!!」
「なんでそんな冷静やねん」


5匹目を釣ろうとした時に破れてしまった。




「だから下手くんより取れるって言ったじゃん」

レト
「マジでムカつくわぁぁ!!」





そう叫びながら、レトくんはしゃがみこんで頭を抱えた。
悔しさが体全面に出てて、ほんと分かりやすい。




レト
「このポイ絶対女の子はいっぱい取れるようになってるやん!!」


「店の前でそんなこと言わないの!」

レト
「だって絶対おかしいもん!!」

おじさん
「あはは…まぁ……次も頑張って!」



この動揺。こいつ細工してんなぁ



完全に拗ねモードに入ったレトくんは、腕を組んで口を尖らせたまま動かない。
さっきまであんなに楽しそうだったのに、切り替えが極端すぎる。




「はいはい、もうじゃあさ」

レト
「……なに」


「クレープ行こ?奢るって言ったでしょ?」


その一言に、レトくんの肩がぴくっと動いた。


レト
「行く!!」


さっきまでの不機嫌が嘘みたいに、少しだけ目が揺れる。
ほんと分かりやすい。


レトくんが立ち上がってあたしの手を取って歩きだす。



クレープに向かって歩いていたはずなのに、気づいたらスーパーボールすくいにいた。



「いや、なんで?」

レト
「納得いかんまま帰りたくないもん」



そう言ってレトくんはまたポイを握りしめる。
こうなったらもう止められないわ。

流れ続けるボールを見ていたら、一際輝いて見えるものがあった。


赤色で中にキラキラが入ってて琥珀みたいに綺麗だなぁ…



あのボールだけやけに儚く見える。



水の中で光を反射して、流されては戻って、また流されて。
掴めそうで、掴めない距離にずっといる。


まるで誰かみたい。


思わずぼーっと見てしまうくらい引き込まれてた。

ふと我に返るともうレトくんは、ボウルとポイを返してて、満足そうにあたしの顔を覗き込んでくる。




レト
「葵手出してみ」



言われるままに手のひらを差し出すと、ひんやりした感触がそっと落ちてきた。



「……え嘘っ…」



さっきまで必死に追いかけてた、あのボールだ。

なんだろう…なんか……泣きそう。



レト
「欲しそうに見とったやん?」




それだけ言って、照れ隠しみたいに視線を逸らした。

胸の奥が、じんわり熱くなる。
さっきまで下手くんだの何だの言って笑ってたのに、こんなこと、ずるい。



でもその優しさが胸を締め付けた。




「レトくんありがとうっ!嬉しい!!」

レト
「あ、下手くんじゃなくなった!」


「ちゃんと取れちゃったもん」

レト
「まぁこれしか取れへんかったんやけどな」


「じゃあ下手やん」



「まぁまぁ葵が喜んでるからなんでもええわ!クレープ奢ってもーらお!」と言ってあたしの手をはぐれないようにしっかり繋がれる。


片方の手にはレトくんがくれたスーパーボールを大切に握りしめて。




絶対に無くさないって決めた。
あたしのために頑張って取ってくれたから。


この思い出もこのボールも。
全部大切な宝物。
きっと忘れない。