文化祭が終わってから、1ヶ月くらいが過ぎた。
レトくんと平穏な日々が過ぎていって
今日は付き合って1ヶ月記念らしい。
ちなみに、あの日以降、先生とは一言も話してない。
レトくんに止められてるのもあるけど、一切目が合わないし、話しかけにすら来ない。
なんか避けられてる気がする。
まるであの日が夢だっかのような気分だ。
あたし、なんかしたかな……
嫌われちゃったのかな…
そんなことばかり考えて苦しくなる日が続いた。
そんな中、今年も秋祭りの季節がきた。
毎年ナチ、ヒラ、こーすけで行ってたから今年も4人で行くつもりだった。
けど、レトくんが「なんで彼氏の俺を優先してくれやんの!!しかも記念日やのに!!」って拗ね始めたから断るしかなかった。
幼馴染と行けばいいのにね。
あの子絶対レトくんのこと好きじゃん。
あたしといたら割り込んでくるし、家も隣だし。よくあるテンプレすぎるわ。
高校最後の祭りなのに…
みんなと行きたかったな…
なんなら先生と…花火見たかった。
もう決まってしまったことを悔やんでも仕方がない。
今のあたしには、レトくんと祭りを楽しむしかないんだ。
今日はレトくんと浴衣を着るのを約束した。
レトくんの好きな柄の浴衣。
私は好みじゃない。
正直着たくないけど、レトくんが喜ぶから。
浴衣に似合うメイクをして、大好きなピアスを外して…
あたしの個性なんて無くなってしまったみたいな喪失感に陥る。
一応みんなにはどうせバレるから、レトくんと祭りに行くことは言った。
予防策として。
みんないい反応ではなかった。
あ、そうなんだーみたいな。
そりゃそうなるよね。
すると携帯の通知がなった。
レトくんから。
レト
「ごめん今起きた用意できたら俺ん家きてなあ!!」
「寝すぎだろもう17時だよ?笑」
「わかったもうすぐ出るね!」
そう返信して画面を閉じる。
鏡の前で自分の姿をしっかり見た。
「……はは」
意味もなく笑って、視線を逸らした。
あたしじゃないみたい。
自分を押し殺してまでやることなのかな······
レトくんは悪くない。
優しいし、大事にしてくれてる。
記念日もちゃんと覚えてるし、
「好き」も、ちゃんと言葉にしてくれるのに。
それなのに……あたしは…
先生を越えれない。
多分死んでもレトくんを心から好きになることはないんだろうな…
葵
「いや今日は楽しまないと」
そう言い聞かせて、レトくんの家に向かった。
だめだ……家から2、3分で着くのに足取りが重くて進まない。
祭りなのに。
記念日なのに。
まるで他人事のように感じる。
逃げ道を探してるみたいで、ほんと最低だなあたしって。
葵
「うざ」
誰に言うでもなく、吐き捨てるみたいに呟いた。
気づけばレトくんの家の前に立っていた。
インターホンを押す指が一瞬だけ止まる。
……帰りたい。
そんな気持ちを押し殺して、ピンポン、と鳴らした。
大丈夫。
レトくんと会ってしまえば楽しめる。
レト
「はーい!!」
やけに元気な声。
ドアが開いた瞬間、レトくんはあたしを見るなり目を輝かせた。
葵
「レトくんっ!お待たせ!!」
レト
「ええーー!!めっちゃかわいい!!!似合ってる!!!!」
そう言って、照れながらあたしを抱き寄せてきた。
くそっ……レトくんのそういう所が嫌いになれないんだ。
あたしのこと大好きなんだなって伝わってくるし、ほんとお姫様になった気分。
レトくんは離れてからも、愛おしそうにあたしを見つめた。
レト
「浴衣、着てくれてありがとう…」
その言い方が、少しだけ引っかかった。
あたし、浴衣買った時嫌な顔しちゃったもんな。
だから今の「ありがとう」は、
“本当は嫌だったの俺のために”って意味に聞こえた。
葵
「レトくんも、浴衣似合ってんじゃんかっこいい」
嘘じゃない。
落ち着いた色で、髪の毛もちゃんとセットして
正直お世辞抜きで本当にかっこいい。
そう言うと、レトくんは一瞬きょとんとして、
すぐに照れたみたいに目を逸らした。
レト
「やば……そんなん言われたら嬉しすぎるんやけど!!!」
単純だなぁと思いながらも、そんなところが憎めない。
レト
「なぁちょっと家入ってくれへん?」
葵
「もう17時半だよ?ゲームすんの?花火は?」
レト
「大丈夫。間に合うから入って」
そう言って手を引かれた。
鍵を閉めるなりキスをしてくる。
ずっとしたかったみたいに、余裕のない顔。
あたしもそれに答えるように軽く背伸びして唇を重ねた。
息苦しくなってレトくんの胸を少し叩くと、我に返ったのか徐々に離れていく。
レト
「あっ、いや、、ごめん!!」
顔が赤くなってるのが分かって、こっちまで恥ずかしくなった。
レト
「浴衣…可愛すぎて……が、我慢できひんくてっ!んもう行こ!!!」
葵
「レトくんのバカっ!」
レトくんを肩をバシッと叩くと「痛ぇぇ!」と叫びながら肩をさすった。
その様子が可愛くて。
多分あたしも今顔が赤い気がする。
照れ隠しのようにレトくんは家を飛び出して行ってしまったから、レトくんの背中を追いかけた。
飛びかかるように腕を組んで顔を覗き込むと、まだ赤かった。
可愛い…
何気ない会話を交わし、時には近所の猫を撫でたりして歩いていると、案外すぐ神社に着いた。
提灯の光がずらっと並んで、カステラの甘い匂いと人のざわめきが一気に押し寄せてくる。
葵
「人多いね〜知り合い居そう」
レト
「あ、あのさ」
レトくんは少しだけ振り返って、あたしの手を取った。
レト
「迷子なったら探されへんしさ…手離したらあかんで?」
いつも繋いでくるくせに、こういう時は緊張してさ。
そんなレトくんの可愛いところを見るのがあたしでいいのかな…
葵
「レトくんが迷子になりそうだけどね〜?」
でも今日はもうそんなこと考えないでおこう。
レトくんに失礼だ。
あたしはいつもみたいに笑顔を作った。
自分に嘘をつくのはもう慣れた。
だからきっとこの先もバレないよ。
レト
「葵より大きいでーす!」
そう言ってレトくんはあたしの頭を撫でてきた。
そんな幸せそうな顔しないでよ…
葵
「ね、射的しようよ!」
レト
「いいやん俺上手いで?」
葵
「レトくん上手いとか言って口だけの時あるもんな〜」
レト
「うるさいなぁ」
葵
「でも、そういうとこがっ……」
そういうところが可愛い。
そういうことろが好き。
レトくんを喜ばせる為の言葉なのに。
喉につっかえて口から出てこない。
レト
「んふふ射的行こっか」
何かを察したみたいな顔でそう言った。
その顔が少し怖い。
全て見透かされてるみたいで。
人の波に押されるたび、レトくんは無意識にあたしを自分の方へ引き寄せる。
そんなことが簡単に出来てしまうレトくんを嘘でも「好き」だなんて思う資格は持っていない。
きっとちゃんとした気持ちが、レトくんに対してあったらここで「好きだよ」って伝えれたはずなのに。
レト
「待って!!遊戯王のカードあるやん!!!」
レトくんが珍しく目を輝かせてそういった。
葵
「いやもう沢山持ってんじゃん」
レト
「あれ新しいやつ!!!!」
葵
「はぁ……じゃあ絶対取れよ?」
レト
「口悪くなってる…」
銃を構える。
その横顔に少し見惚れて、写真を撮った。
見返したことはほぼないけど、思い出として。
1回目。
レト
「んまぁこんなもんしょ!」
2回目。
レト
「いやぁぁでもちょっと動いた次!
次で取れるから!」
3回目。
レト
「これ重り付いてんちゃうん?!おかしくない?」
4回目
レト
「くそっ…もう買った方が早いわ!」
結局取れなくて、本気で悔しそうに口を尖らせてるレトくんを見て、思わず笑ってしまった。
葵
「はいはい、お疲れ様でした〜」
レト
「笑うなやぁ!!まじでいけると思ったのにー!もうー!!!」
射的屋のおじさんに「また来てな〜」なんて言われながら、その場を離れた。
人混みに流されるように歩いていると、レトくんが「金魚すくいしよっか!!」と言われ手を引かれた。
レト
「遊びで!2回目します!」
おじさん
「はいどうぞ〜頑張ってね!」
お金を出そうとしたら、レトがまさかあたしの分まで買ってくれた。
次はクレープ奢るからと言ったら子どものように目を輝かせた。
レト
「俺な、金魚すくい得意やねんで!」
葵
「はいはいまたそれじゃん」
レト
「いやほんまに!見とけって!」
水面をじっと睨んで、ポイを沈める。
……沈めた瞬間。
びりっ。
破れた。
葵
「は?」
レト
「……え?」
お互い顔を見あって思わず笑い転げた。
まだ金魚に触れてすらいないのに、
ポイの真ん中に亀裂が入って破れた。
レト
「今のはノーカン!!!」
おじさん
「あ〜、破れちゃったね」
葵
「下手くんよりあたしの方が上手いかもしんない」
レト
「……いやいや、やってみっ……ちょっと待って?今なんて?」
ゆっくりこっちを見る。
レト
「下手くん!?
今、俺のこと下手くんって言った!?」
葵
「ん〜?聞き間違えじゃね?」
あたしがそうやってニヤニヤしながら言うと、レトくんは大げさにため息をついた。
レト
「じゃあ葵がやってみいや!!」
葵
「下手くんよりかは取れるもーん」
レト
「下手くんやめて!!」
水面をそっと覗き込む。
泳ぎの遅い金魚を見つけて、ポイを滑らせた。
ポイの上で、赤い金魚がぴちぴち跳ねる。
葵
「ほらねぇー!」
レト
「は?????」
固まったまま、レトくんはあたしと金魚を交互に見る。
レト
「今のはたまたまやろ」
葵
「じゃあ見といて?」
レト
「破れろ!!」
ポイをまた水面につけて、金魚をゆっくり持ち上げる。
取れた!!
レト
「はぁぁ」
二匹目。
三匹目。
四匹目。
レト
「キモっ!!!」
「なんでそんな冷静やねん」
5匹目を釣ろうとした時に破れてしまった。
葵
「だから下手くんより取れるって言ったじゃん」
レト
「マジでムカつくわぁぁ!!」
そう叫びながら、レトくんはしゃがみこんで頭を抱えた。
悔しさが体全面に出てて、ほんと分かりやすい。
レト
「このポイ絶対女の子はいっぱい取れるようになってるやん!!」
葵
「店の前でそんなこと言わないの!」
レト
「だって絶対おかしいもん!!」
おじさん
「あはは…まぁ……次も頑張って!」
この動揺。こいつ細工してんなぁ
完全に拗ねモードに入ったレトくんは、腕を組んで口を尖らせたまま動かない。
さっきまであんなに楽しそうだったのに、切り替えが極端すぎる。
葵
「はいはい、もうじゃあさ」
レト
「……なに」
葵
「クレープ行こ?奢るって言ったでしょ?」
その一言に、レトくんの肩がぴくっと動いた。
レト
「行く!!」
さっきまでの不機嫌が嘘みたいに、少しだけ目が揺れる。
ほんと分かりやすい。
レトくんが立ち上がってあたしの手を取って歩きだす。
クレープに向かって歩いていたはずなのに、気づいたらスーパーボールすくいにいた。
葵
「いや、なんで?」
レト
「納得いかんまま帰りたくないもん」
そう言ってレトくんはまたポイを握りしめる。
こうなったらもう止められないわ。
流れ続けるボールを見ていたら、一際輝いて見えるものがあった。
赤色で中にキラキラが入ってて琥珀みたいに綺麗だなぁ…
あのボールだけやけに儚く見える。
水の中で光を反射して、流されては戻って、また流されて。
掴めそうで、掴めない距離にずっといる。
まるで誰かみたい。
思わずぼーっと見てしまうくらい引き込まれてた。
ふと我に返るともうレトくんは、ボウルとポイを返してて、満足そうにあたしの顔を覗き込んでくる。
レト
「葵手出してみ」
言われるままに手のひらを差し出すと、ひんやりした感触がそっと落ちてきた。
葵
「……え嘘っ…」
さっきまで必死に追いかけてた、あのボールだ。
なんだろう…なんか……泣きそう。
レト
「欲しそうに見とったやん?」
それだけ言って、照れ隠しみたいに視線を逸らした。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
さっきまで下手くんだの何だの言って笑ってたのに、こんなこと、ずるい。
でもその優しさが胸を締め付けた。
葵
「レトくんありがとうっ!嬉しい!!」
レト
「あ、下手くんじゃなくなった!」
葵
「ちゃんと取れちゃったもん」
レト
「まぁこれしか取れへんかったんやけどな」
葵
「じゃあ下手やん」
「まぁまぁ葵が喜んでるからなんでもええわ!クレープ奢ってもーらお!」と言ってあたしの手をはぐれないようにしっかり繋がれる。
片方の手にはレトくんがくれたスーパーボールを大切に握りしめて。
絶対に無くさないって決めた。
あたしのために頑張って取ってくれたから。
この思い出もこのボールも。
全部大切な宝物。
きっと忘れない。
レトくんと平穏な日々が過ぎていって
今日は付き合って1ヶ月記念らしい。
ちなみに、あの日以降、先生とは一言も話してない。
レトくんに止められてるのもあるけど、一切目が合わないし、話しかけにすら来ない。
なんか避けられてる気がする。
まるであの日が夢だっかのような気分だ。
あたし、なんかしたかな……
嫌われちゃったのかな…
そんなことばかり考えて苦しくなる日が続いた。
そんな中、今年も秋祭りの季節がきた。
毎年ナチ、ヒラ、こーすけで行ってたから今年も4人で行くつもりだった。
けど、レトくんが「なんで彼氏の俺を優先してくれやんの!!しかも記念日やのに!!」って拗ね始めたから断るしかなかった。
幼馴染と行けばいいのにね。
あの子絶対レトくんのこと好きじゃん。
あたしといたら割り込んでくるし、家も隣だし。よくあるテンプレすぎるわ。
高校最後の祭りなのに…
みんなと行きたかったな…
なんなら先生と…花火見たかった。
もう決まってしまったことを悔やんでも仕方がない。
今のあたしには、レトくんと祭りを楽しむしかないんだ。
今日はレトくんと浴衣を着るのを約束した。
レトくんの好きな柄の浴衣。
私は好みじゃない。
正直着たくないけど、レトくんが喜ぶから。
浴衣に似合うメイクをして、大好きなピアスを外して…
あたしの個性なんて無くなってしまったみたいな喪失感に陥る。
一応みんなにはどうせバレるから、レトくんと祭りに行くことは言った。
予防策として。
みんないい反応ではなかった。
あ、そうなんだーみたいな。
そりゃそうなるよね。
すると携帯の通知がなった。
レトくんから。
レト
「ごめん今起きた用意できたら俺ん家きてなあ!!」
「寝すぎだろもう17時だよ?笑」
「わかったもうすぐ出るね!」
そう返信して画面を閉じる。
鏡の前で自分の姿をしっかり見た。
「……はは」
意味もなく笑って、視線を逸らした。
あたしじゃないみたい。
自分を押し殺してまでやることなのかな······
レトくんは悪くない。
優しいし、大事にしてくれてる。
記念日もちゃんと覚えてるし、
「好き」も、ちゃんと言葉にしてくれるのに。
それなのに……あたしは…
先生を越えれない。
多分死んでもレトくんを心から好きになることはないんだろうな…
葵
「いや今日は楽しまないと」
そう言い聞かせて、レトくんの家に向かった。
だめだ……家から2、3分で着くのに足取りが重くて進まない。
祭りなのに。
記念日なのに。
まるで他人事のように感じる。
逃げ道を探してるみたいで、ほんと最低だなあたしって。
葵
「うざ」
誰に言うでもなく、吐き捨てるみたいに呟いた。
気づけばレトくんの家の前に立っていた。
インターホンを押す指が一瞬だけ止まる。
……帰りたい。
そんな気持ちを押し殺して、ピンポン、と鳴らした。
大丈夫。
レトくんと会ってしまえば楽しめる。
レト
「はーい!!」
やけに元気な声。
ドアが開いた瞬間、レトくんはあたしを見るなり目を輝かせた。
葵
「レトくんっ!お待たせ!!」
レト
「ええーー!!めっちゃかわいい!!!似合ってる!!!!」
そう言って、照れながらあたしを抱き寄せてきた。
くそっ……レトくんのそういう所が嫌いになれないんだ。
あたしのこと大好きなんだなって伝わってくるし、ほんとお姫様になった気分。
レトくんは離れてからも、愛おしそうにあたしを見つめた。
レト
「浴衣、着てくれてありがとう…」
その言い方が、少しだけ引っかかった。
あたし、浴衣買った時嫌な顔しちゃったもんな。
だから今の「ありがとう」は、
“本当は嫌だったの俺のために”って意味に聞こえた。
葵
「レトくんも、浴衣似合ってんじゃんかっこいい」
嘘じゃない。
落ち着いた色で、髪の毛もちゃんとセットして
正直お世辞抜きで本当にかっこいい。
そう言うと、レトくんは一瞬きょとんとして、
すぐに照れたみたいに目を逸らした。
レト
「やば……そんなん言われたら嬉しすぎるんやけど!!!」
単純だなぁと思いながらも、そんなところが憎めない。
レト
「なぁちょっと家入ってくれへん?」
葵
「もう17時半だよ?ゲームすんの?花火は?」
レト
「大丈夫。間に合うから入って」
そう言って手を引かれた。
鍵を閉めるなりキスをしてくる。
ずっとしたかったみたいに、余裕のない顔。
あたしもそれに答えるように軽く背伸びして唇を重ねた。
息苦しくなってレトくんの胸を少し叩くと、我に返ったのか徐々に離れていく。
レト
「あっ、いや、、ごめん!!」
顔が赤くなってるのが分かって、こっちまで恥ずかしくなった。
レト
「浴衣…可愛すぎて……が、我慢できひんくてっ!んもう行こ!!!」
葵
「レトくんのバカっ!」
レトくんを肩をバシッと叩くと「痛ぇぇ!」と叫びながら肩をさすった。
その様子が可愛くて。
多分あたしも今顔が赤い気がする。
照れ隠しのようにレトくんは家を飛び出して行ってしまったから、レトくんの背中を追いかけた。
飛びかかるように腕を組んで顔を覗き込むと、まだ赤かった。
可愛い…
何気ない会話を交わし、時には近所の猫を撫でたりして歩いていると、案外すぐ神社に着いた。
提灯の光がずらっと並んで、カステラの甘い匂いと人のざわめきが一気に押し寄せてくる。
葵
「人多いね〜知り合い居そう」
レト
「あ、あのさ」
レトくんは少しだけ振り返って、あたしの手を取った。
レト
「迷子なったら探されへんしさ…手離したらあかんで?」
いつも繋いでくるくせに、こういう時は緊張してさ。
そんなレトくんの可愛いところを見るのがあたしでいいのかな…
葵
「レトくんが迷子になりそうだけどね〜?」
でも今日はもうそんなこと考えないでおこう。
レトくんに失礼だ。
あたしはいつもみたいに笑顔を作った。
自分に嘘をつくのはもう慣れた。
だからきっとこの先もバレないよ。
レト
「葵より大きいでーす!」
そう言ってレトくんはあたしの頭を撫でてきた。
そんな幸せそうな顔しないでよ…
葵
「ね、射的しようよ!」
レト
「いいやん俺上手いで?」
葵
「レトくん上手いとか言って口だけの時あるもんな〜」
レト
「うるさいなぁ」
葵
「でも、そういうとこがっ……」
そういうところが可愛い。
そういうことろが好き。
レトくんを喜ばせる為の言葉なのに。
喉につっかえて口から出てこない。
レト
「んふふ射的行こっか」
何かを察したみたいな顔でそう言った。
その顔が少し怖い。
全て見透かされてるみたいで。
人の波に押されるたび、レトくんは無意識にあたしを自分の方へ引き寄せる。
そんなことが簡単に出来てしまうレトくんを嘘でも「好き」だなんて思う資格は持っていない。
きっとちゃんとした気持ちが、レトくんに対してあったらここで「好きだよ」って伝えれたはずなのに。
レト
「待って!!遊戯王のカードあるやん!!!」
レトくんが珍しく目を輝かせてそういった。
葵
「いやもう沢山持ってんじゃん」
レト
「あれ新しいやつ!!!!」
葵
「はぁ……じゃあ絶対取れよ?」
レト
「口悪くなってる…」
銃を構える。
その横顔に少し見惚れて、写真を撮った。
見返したことはほぼないけど、思い出として。
1回目。
レト
「んまぁこんなもんしょ!」
2回目。
レト
「いやぁぁでもちょっと動いた次!
次で取れるから!」
3回目。
レト
「これ重り付いてんちゃうん?!おかしくない?」
4回目
レト
「くそっ…もう買った方が早いわ!」
結局取れなくて、本気で悔しそうに口を尖らせてるレトくんを見て、思わず笑ってしまった。
葵
「はいはい、お疲れ様でした〜」
レト
「笑うなやぁ!!まじでいけると思ったのにー!もうー!!!」
射的屋のおじさんに「また来てな〜」なんて言われながら、その場を離れた。
人混みに流されるように歩いていると、レトくんが「金魚すくいしよっか!!」と言われ手を引かれた。
レト
「遊びで!2回目します!」
おじさん
「はいどうぞ〜頑張ってね!」
お金を出そうとしたら、レトがまさかあたしの分まで買ってくれた。
次はクレープ奢るからと言ったら子どものように目を輝かせた。
レト
「俺な、金魚すくい得意やねんで!」
葵
「はいはいまたそれじゃん」
レト
「いやほんまに!見とけって!」
水面をじっと睨んで、ポイを沈める。
……沈めた瞬間。
びりっ。
破れた。
葵
「は?」
レト
「……え?」
お互い顔を見あって思わず笑い転げた。
まだ金魚に触れてすらいないのに、
ポイの真ん中に亀裂が入って破れた。
レト
「今のはノーカン!!!」
おじさん
「あ〜、破れちゃったね」
葵
「下手くんよりあたしの方が上手いかもしんない」
レト
「……いやいや、やってみっ……ちょっと待って?今なんて?」
ゆっくりこっちを見る。
レト
「下手くん!?
今、俺のこと下手くんって言った!?」
葵
「ん〜?聞き間違えじゃね?」
あたしがそうやってニヤニヤしながら言うと、レトくんは大げさにため息をついた。
レト
「じゃあ葵がやってみいや!!」
葵
「下手くんよりかは取れるもーん」
レト
「下手くんやめて!!」
水面をそっと覗き込む。
泳ぎの遅い金魚を見つけて、ポイを滑らせた。
ポイの上で、赤い金魚がぴちぴち跳ねる。
葵
「ほらねぇー!」
レト
「は?????」
固まったまま、レトくんはあたしと金魚を交互に見る。
レト
「今のはたまたまやろ」
葵
「じゃあ見といて?」
レト
「破れろ!!」
ポイをまた水面につけて、金魚をゆっくり持ち上げる。
取れた!!
レト
「はぁぁ」
二匹目。
三匹目。
四匹目。
レト
「キモっ!!!」
「なんでそんな冷静やねん」
5匹目を釣ろうとした時に破れてしまった。
葵
「だから下手くんより取れるって言ったじゃん」
レト
「マジでムカつくわぁぁ!!」
そう叫びながら、レトくんはしゃがみこんで頭を抱えた。
悔しさが体全面に出てて、ほんと分かりやすい。
レト
「このポイ絶対女の子はいっぱい取れるようになってるやん!!」
葵
「店の前でそんなこと言わないの!」
レト
「だって絶対おかしいもん!!」
おじさん
「あはは…まぁ……次も頑張って!」
この動揺。こいつ細工してんなぁ
完全に拗ねモードに入ったレトくんは、腕を組んで口を尖らせたまま動かない。
さっきまであんなに楽しそうだったのに、切り替えが極端すぎる。
葵
「はいはい、もうじゃあさ」
レト
「……なに」
葵
「クレープ行こ?奢るって言ったでしょ?」
その一言に、レトくんの肩がぴくっと動いた。
レト
「行く!!」
さっきまでの不機嫌が嘘みたいに、少しだけ目が揺れる。
ほんと分かりやすい。
レトくんが立ち上がってあたしの手を取って歩きだす。
クレープに向かって歩いていたはずなのに、気づいたらスーパーボールすくいにいた。
葵
「いや、なんで?」
レト
「納得いかんまま帰りたくないもん」
そう言ってレトくんはまたポイを握りしめる。
こうなったらもう止められないわ。
流れ続けるボールを見ていたら、一際輝いて見えるものがあった。
赤色で中にキラキラが入ってて琥珀みたいに綺麗だなぁ…
あのボールだけやけに儚く見える。
水の中で光を反射して、流されては戻って、また流されて。
掴めそうで、掴めない距離にずっといる。
まるで誰かみたい。
思わずぼーっと見てしまうくらい引き込まれてた。
ふと我に返るともうレトくんは、ボウルとポイを返してて、満足そうにあたしの顔を覗き込んでくる。
レト
「葵手出してみ」
言われるままに手のひらを差し出すと、ひんやりした感触がそっと落ちてきた。
葵
「……え嘘っ…」
さっきまで必死に追いかけてた、あのボールだ。
なんだろう…なんか……泣きそう。
レト
「欲しそうに見とったやん?」
それだけ言って、照れ隠しみたいに視線を逸らした。
胸の奥が、じんわり熱くなる。
さっきまで下手くんだの何だの言って笑ってたのに、こんなこと、ずるい。
でもその優しさが胸を締め付けた。
葵
「レトくんありがとうっ!嬉しい!!」
レト
「あ、下手くんじゃなくなった!」
葵
「ちゃんと取れちゃったもん」
レト
「まぁこれしか取れへんかったんやけどな」
葵
「じゃあ下手やん」
「まぁまぁ葵が喜んでるからなんでもええわ!クレープ奢ってもーらお!」と言ってあたしの手をはぐれないようにしっかり繋がれる。
片方の手にはレトくんがくれたスーパーボールを大切に握りしめて。
絶対に無くさないって決めた。
あたしのために頑張って取ってくれたから。
この思い出もこのボールも。
全部大切な宝物。
きっと忘れない。



