放課後、先生との秘密




葵と、ちゃんと話さなきゃいけない。

あの電話のせいで女がいると勘違いさせてしまってること。
俺から避けてしまったこと。
もしかしたら、夏に元カノと腕を組んでた所を見せてしまったこと。


今日やっと…久々に話せたから。
ちゃんと次の日も今日みたいに話せるように。

後夜祭は「残る」って言ってたから、探さねぇと。


まじで今日しかない。




今日を逃したら、また葵とはすれ違ったまま、思わせぶりなことして最低な男になる。
そんなの絶対嫌。



葵の姿を探して校内を歩き回る。


運動場とか人混みにいる気配はない。
教室にも、廊下にも図書室にもいない。

図書室にはいるわけないか…
あいつ夏休み終わってから、もう来なくなったもんな…
なんで気づかなかったんだよ。
いや、俺が気づかないフリしてたんだ。
葵がいるわけないって。


まじで俺って最低だ…




もう残ってるのは屋上しかない。
他の生徒が何人校舎に残ってるかの把握も含めて向かった。


屋上なんかに、葵が居る可能性は低い。


先生
「どこにいんだよ葵」


葵の名前を口にすればするほど愛おしさが込み上げてくる。
マジであの時キスしてたらどうなってたんだろ

卒業するまで絶対に手は出さねぇけど、まじで今回はやばかった。笑えねぇ



屋上に着いた。
重たい扉を開けた瞬間、風が冷たく頬を刺す。


暗がりの中、目を凝らすと遠くで
視界の奥に二つの影が寄り添っていた。







月明かりの下で





葵とレトが







手を繋いで、笑い合っていた。







星を見上げて、肩が触れ合っていて、
まるで世界に2人しかいないみたいに。




理解するまでに数秒かかった。
胸の奥何かが崩れ落ちる音がした気がした。

今日こそはちゃんと話ができるはずだったのに。



先生
「……は?……どういう…ことだよっこれっ」



声は出たのに、掠れて自分のじゃないみたいだった。



まるでナイフで刺されたように胸が苦しくなった。





勝手に涙が出て来て
拭いても拭いても全然止まんねぇ。


大人気ないくらい溢れ出てくる。
吐き気も。
息するのでやっとなくらいに。


喉の奥が締め付けられて苦しい。



その場に立ってられなくて、俺は逃げるように階段を降りた。


向かったのは、
あいつとの思い出が詰まった図書室。


ここじゃ誰も来ない。
誰にも見られないで済む。


いつもの定位置に深く腰掛ける。
電気もつけず真っ暗な中、一人でいると余計に喪失感がさっきよりも大きくのしかかってくる。



先生
「なんでだよっ!!」


もう全部めちゃくちゃだ。


なんだよあれ。
なんの冗談だよ。



もう目を取ってしまいたいくらい、無駄に流れる涙に苛立ちを感じてしまう。



先生
「なんでっ……こんなに……すきなのに…くそっ!!」



全部上手くいってると思ってたのに。
好きな人すら取られて。

俺に向けてくれた笑顔も、好きって言葉も、全部俺の勘違いだったのかよ…


先生
「まじで……俺だっせぇな……ああっっ」



大の大人がガチ泣きしてんじゃねぇよ…



やっぱ俺なんかじゃダメだったんだな…



ずっと想ってたのに。
誰より大事にしてきたのに。
ちゃんと向き合おうとしてたのに。


全部……遅かったってことか?


俺が避けた間に、俺が逃げていた間に、
俺とは違う誰かを好きになってしまったんだな



じゃあ俺が葵に触れる度、嬉しそうにすんなよ
付き合ってんだったら「やめて」くらい言えよ
もう何も信じらんねぇよ……




いや違うのかもしれない。



葵は今まで俺が喜ぶと思って、合わせてくれてたのかもしれない。
あいつ優しい子だから。


葵を責めることはしたくない。
全部俺が悪いんだよ。



初めから、生徒なんか好きになるんじゃなかったんだ。
手を出したら犯罪だし。


うっしーにも「本気になるな」って言われてたのに。
それでも俺は葵じゃないとだめなのに。



誰に何をされても恋しいと思ったのは葵にだけだった。



先生
「そりゃ…おっさんじゃなくて……同じ学生同士がいいわな…」


そうやって無理やり自分に言い聞かせることしかできない。


葵の笑顔が、こんな形で胸に焼きつくなんて
思ってもみなかった。

ほんと…俺、なにしてんだろ。


先生
「……はは…っ……これからどうしたらいいんだよ……」


笑えるほど惨めだ。


何度拭っても涙がにじむ。
情けなくて、悔しくて、
どうしようもないほど葵が恋しくて。

もう、届かないところにいっちまった。


たった数時間前まで、葵の笑顔は全部“俺に向いてる”って信じてたのに。


まさか本当にレトに取られるなんて。
1番嫌だな…せめてラーヒーが良かった。




あの二人の光景が脳裏に焼き付いて離れない。

それでも俺は葵を諦めれない。
それくらい葵が好きで好きでどうしようもないんだよ。


もう帰ろ……
こんな所にいたって葵との思い出で苦しくなるだけだわ。


図書室を出るともう生徒のはしゃぐ声は聞こえなかった。
何時間ここで泣いてたんだよ。




先生
「情けねぇ」



“教師”という肩書きさえなければ…


なんて考えてしまう自分がまた嫌いだ。



靴箱の前で立ち止まる。
葵の下駄箱を見つめた瞬間、心臓がズキッとした。
まだ温もりが残ってる気がして、つい手を伸ばしてしまいそうになる。


「……なんでだよ、葵。」


名前を小さく呟いただけで喉が熱くなる。
こんなに好きなのに。
もう伝えられない。
もう近づけない。
触れたら壊しそうで、でも放してると今みたいに離れていく。


あの時付き合えばよかった。
無駄に教師と生徒とか考えて、こうなるんだったら。
最初から俺のもんにすれば良かった。



先生
「早く帰ろ……」



帰ったところで、頭の中はどうせ葵でいっぱいいっぱい。
寝ても覚めても、あいつのことばっかり。


なんかの手違いで俺のとこに戻ってこいよ……




先生
「……葵が隣にいない世界なんて、俺には無理」



葵の気持ちを無視していいなら、今すぐにでもレトから奪ってやりたい。

でもその願いさえ、もう口にする資格もないんだ。
俺はあいつにとってきっと過去の人だから。