あれから1週間が過ぎてついに文化祭になった。


後日リアのことを担任に言うと停学になった。
リアの友達は「リアはやりかねない」という意見が集まったらしい。
その友達は教室で、リアの悪口をひたすら言っている。
友達ってそんな簡単に居なくなるものなんだな。
まぁやってることは人として終わってるから当然か。
本当に可哀想な子。




今、更衣室でナチとメイド服を着ている。
茶色くてスカートがふわふわの。



いやいやこれ……恥ずかしすぎる!!
スカートの丈短いし。
ちょっと胸強調されてるし。
よくあるコンカェのやつじゃん
誰だよこれ選んだの!!


「待ってあおちん似合いすぎ」

「……いやだ帰りたい」

「あおちん目当てで来る人絶対いるわ」



ナチはあたしの髪をセットしながらそう言った。


「……勘弁して」


鏡越しにナチがにやにや笑ってるのがまた腹立つ。

1時間のシフトにそんな気合い入れなきゃいけないもんなのか。

でも編み込みにリボンを付けてすっごく可愛い。
まるで自分じゃないみたい。


先生に見せたいな…


「よし!できた教室戻るよ」

「あざーす」


思わず自分でも見惚れてしまうくらい可愛い。



「モテちゃうねこれ」


ナチが色んな角度で写真を撮ってくる。



「もういいって恥ずかしい」

「ヒラに送るわ」

「まじでやめて?」


するとナチのスマホから電話がなった。

ナチは眉をひそめながらスマホを取り出した。
会話中どんどん顔が青ざめていく。
なんの会話したらそんな焦る表情になるんだよ。


「ごめ、パンケーキ作んのに具材家に置いてきたからちょっと帰るわ!店番には間に合わせるから!!」

「やからしすぎだろ」


ナチが急いで更衣室を出ていった。
朝からメイクに気合い入れすぎなんだよ。




顔を冷ますように頬を軽く叩いて、あたしも更衣室を出た。
廊下にはもう出し物の案内とか音楽が響いてて、
人の声と笑い声で溢れてた。

なんかさっきからすっごい視線を感じる。

さすがにこんな格好じゃそうなるか。

「恥ずかしい……」

ぼそっと呟いた瞬間、曲がり角で誰かとぶつかって思わず転けてしまった。


「わっ、すいません!」

「ごめん!大丈夫?」


その声に、思わずびっくりして、見上げるとそこには手を差し伸べる先生がいた。




「せ、せんせっ」

「葵……」


1週間ぶりにしっかり先生の顔を見た。
先生も気まずいのか手をポケットに戻そうとする。


「手、貸して欲しい……です」



「……ドジだなぁほんとに」


小さく呟いて、もう一度手を差し出してくれる。
その手を掴んだ瞬間、あの頃の記憶が一気に蘇った。

レトくんと付き合ってからあまり考えないようにしていたのに。
やっぱり好きだ。


「怪我してない?」

「……うん」


…気まずい。
こんなに会いたかったのに。
いざ会ってしまえば話すことなんて無いし、触れれるわけもない。


しかも私には彼氏がいる。


「久しぶり」

「うん…」

別れたカップルの再開みたいな雰囲気。
今にも逃げ出したい。
だけど、久々に話すからまだ一緒に居たい。


少し伸びた前髪の隙間から覗く横顔が、なんか前より少しやつれて見えた。




「顔色悪いよ?大丈夫?」

「色々あるんだよ文化祭準備とか文化祭準備文化祭準備とか」

「それしかしてねぇじゃん」

「あと最俺のやつ」


あはははと、いつもの穏やかな口調。
でも、目は笑ってなかった。

あたしのことで悩んでたらいいのに。


「……なんか、元気なさそう」

「お前が言うか、それ」


小さく笑って、先生があたしの額を軽く指で突く。
それだけの仕草なのに、胸が痛くなるほど懐かしかった。


「……葵、無理してない?」

「してないよ」

「ほんとに?」


目が合った瞬間、呼吸が止まる。
この人の目は、いつだってあたしの嘘を見抜く。


「……してるかも」


そう答えた途端、先生がふっと表情を緩めた。


「俺に嘘ついても意味ねぇーぞ〜また……マリカでもしような?」


その一言で、一気に泣きそうになった。
やめてよ、今そんな優しい声出さないで。


「メイド服似合ってんじゃん」

「ほんとに?」


先生の顔が少しづつ赤くなっていく。
そんな姿が可愛い。


「めっちゃ似合ってる。たぶん、クラスで一番可愛い」


「や、やめて」


耳の奥がじんわり熱くなる。
どうしてこんな時に、そんなこと言うの。


先生の目がまるで、誰よりもその恥ずかしがる顔が愛しいと言いたげで。


あの頃に戻りたくなった。


「店番の時行くわ」

「来ないでお願い」

「ちなみにいつ?」

「もうすぐだよ」

「葵指名するわ」


先生はあたしの頭を撫でた。
久しぶりに触れるその暖かみに思わず泣きそうになる。


あぁこの場所に戻りたい。



「……せんせ、ほんとにやめて」


顔が真っ赤になって俯くと、先生はくすっと笑った。


「だってお前可愛いんだもん。仕方ねぇだろ」


胸がぎゅっとなる。
どうしてこんなに、心臓まで持ってかれるんだろう。


「俺のも来いよ?」

「うん、行くよ?」

「最前でな?」

「わかったわかった」


「じゃあ後で行くわ」

「バイバイー!」

「そこは行ってらっしゃいませご主人様だろ!!」


「気色悪い!!」


思わず先生に膝蹴りをかました瞬間、先生がふふって声を出して堪えきれない笑顔を見せた。


「ツンデレなメイドも良い!」

「まじで捕まってくんねぇかな」


先生は満面の笑みで「じゃあな」と言って体育館に向かっていった。


先生の背中が人混みに紛れていくのを、見てから教室に向かった。

ただ楽しかった。
前みたいに何も考えずに先生と会話してた。


ちゃんと話せたし、しかも頭まで撫でられて
それだけでもう泣きそう。

あたしってチョロいな……


「……先生のばか」


小さく呟いて、顔を両手で覆った。
頬が熱い。心臓の音がうるさい。
――レトくんの顔が頭に浮かぶ。


罪悪感で、喉の奥がぎゅっと締めつけられる。


簡単に別れられたら楽なのに。
日に日に情が湧いてくる。
バイトがない日は毎日一緒に帰って、レトくんの家でゲームして。
なんなら親とも仲良くなっちゃって。


でも好きになることはなかった。
ヒラと同じくらいの感情かな。



そんな人に「別れたいです」なんてこと言えるわけないんだよ。

付き合う前はほぼ嫌いに近かったのに、あたしも変わったな……


そんなことを考えているうちに教室についた。
中に入るとナチはもう帰ってきてて、ヒラとレトくんはパンケーキを作っていた。


ナチ 「お!やっと帰ってきた!」

葵 「ごめん!!先生と喋ってた」

ナチ 「よかったじゃーん」


ナチが嬉しそうにあたしの頬をつまみながら言った。


「あと10分で開店するから、暇しとこ」

「給料出ろよな」

「間違いねぇ」


ふとレトくんの方を見ると、目をそらされた。
レトくん顔が赤くなってる。
先生のこと聞かれてなくてよかった。

ヒラとレトくんの会話を盗み聞きする。


レト 「待ってくれ葵可愛すぎひん?」

ヒラ 「あぁ?葵はいつでも可愛いでしょ」

レト 「いやあれ見て?やばいって」


話を聞いてるせいでヒラと目が合ってしまう。
ヒラは執事コスをしてて、お世辞を言えないくらいかっこいい。
もうちょっと身長高かったら絶対モテるよあんた。


ヒラ 「あれはやばい」

レト 「写真撮りてぇ」

ヒラ 「だめだよ!!俺の葵なんだから」

レト 「それは違う」

ヒラ 「ホーム画面にしよ」


ヒラがあたしにカメラを向けてきてピースしろと目で訴えてきた。

そんな中レトくんが近ずいて来た。


レト 「ついでに撮ってもらおうや」

葵 「え、あ、うん!」

ヒラ 「は?!レト邪魔!!!」

ナチ 「あはは3人並べよあたしが撮ってあげる」

ヒラ 「えーじゃあ俺と葵の2人の写真も欲しい〜」

レト 「じゃ俺も」

ナチ 「じゃあうちも!」


みんなあたしのこと好きすぎだろ!
かわいいかよ。

レトくんは嫉妬しているのか少し不機嫌。


葵 「じゃあ並んで?1回300円ね」

ナチ 「うちらに営業かけんな」

レト 「1万でどうですか!!」

ヒラ 「それくらいの価値はある!!」

ナチ 「おいおい」


こいつらやべぇ。
ほんとに財布から300円出てきたし。



ナチ「じゃあ先に3人の撮ろ」


モブ 「あと五分で開店しまーす!」


ナチ 「早く並べ」

葵 「あたし真ん中?」

ヒラ 「そりゃそうだよー!」


ナチ 「じゃ、撮るよー! 3、2、1、はいチーズ!」



――カメラのシャッター音が鳴った瞬間、

ヒラがあたしの肩に手を回してきた。
距離が近い。
レトくんに怒られそう。
しかも今日香水つけてんのか、なんかいい匂いするし。

レトくんは反抗したのか、あたしの腰を引き寄せた。


ナチ 「なんか…うん…なんとも言えない」

葵 「2人とも!!近いよ!!」

ヒラ 「んふふ可愛い照れてるの?次俺とねー!」


そうしてヒラとレトくん、ナチとツーショを撮った。

レトくんとヒラはその写真をすぐホーム画面にしていた。

ナチはヒラとあたしの写真を見てニヤニヤして、二人の世界に入っている。
そんなにあたしって可愛いのか?


隣にいるレトくんは、さっきから目が合わない


レト 「ほ、ほんまに可愛い」

葵 「ん?」

レト 「なぁちゅーしたい」

葵 「ここ学校だよ?」

レト 「でもぉ」

葵 「そんなに惚れちゃった?」

レト 「そりゃ惚れたよぉ誰にも見せたない」


レトくんはそう言って、バレないようにあたしの手に少し触れた。
我慢してるんだね。
子犬みたい。

今にも抱きついてきそうなレトくんが少し可愛い。


レト 「その服いつまで着てるん?」

葵 「うーん後夜祭には着替えるかなぁ」

レト 「今度その服きて俺ん家きて?」

葵 「やだよ〜」

レト 「可愛いのに」



あたしが顔を背けると、レトくんはくすっと笑った。
その距離感に少しドキドキする。


ここだけ多分めっちゃ甘い雰囲気になってる気がする。


アリス 「ねぇーレトぉー!!いくよー!」


その声に、レトくんがびくっと反応した。
視線の先には、長い髪をゆるく巻いた女の子。
目が大きくて、仕草の一つひとつが上品。
廊下にいた他の男子が一斉に目を奪われてる。


学年1の美少女、アリス。
レトくんの幼馴染。


毎年文化祭は一緒に周ってるらしいくて、今年もあたしが断ってしまったから周るらしい


レト 「ごめん行ってくるね」

葵 「うん楽しんで」


レトくんか手をヒラヒラさせてその子の元へ駆け寄った。
すっごく仲良さそうでお似合い。
みんなもそう言ってる。

あたしなんかよりそっちと付き合った方がいいのに。
その方があたしは楽なんだよ。


ナチ 「ねぇ葵!やばい!」


葵 「え、なに??」


ナチに腕を引っ張られて、慌てて教室の外を覗く。

そこには、廊下の端まで続く長蛇の列。
ざわざわとした空気が広がってる。

しかも「執事×メイド喫茶」って手作りの看板の前で、写真撮ってる子までいた。



葵 「ちょ、なにこれ!?そんなに人気なん!?」

ヒラ「胃が痛てぇ」

ナチ 「多分葵目当てかもしんない」

葵 「は?そんなわけないでしょ」

ナチ 「だってこんな可愛いメイドどこ探してもいないよ」

モブ 「葵可愛いから宣伝しちゃった!ごめんね」

葵 「は?勝手にすんなよ、対応できねぇって!!」


モブ 「葵なら大丈夫!じゃあ開店するね!」


扉を開けた瞬間ざっと20人くらいが入ってきた。
開始早々から満席。


ナチ 「いらっしゃいませご主人様!」


ナチがハムボで出迎えた。
なんでそんな乗り気なんだよ。


ナチ 「ほらあんたも」

ナチはあたしの胸についてる「あおちゃん」ネームプレートを突きながら言った。
もうメイドのあおちゃんになりきるしかない。


葵 「い、いらっしゃいませご主人様ー」


あたしがそう言うと「可愛い!」「きゃぁぁ!!」「あおちゃんと写真撮りたい!!」という声がどっと上がった。


まぁ嫌ではない。
なんならちょっと嬉しい。


ナチ 「皆さん!写真撮影1回300円ねー!」

葵 「ちょ、やらないよ?」

ナチ 「みんなやりたそうにしてんだからいいでしょ?あんたも稼げるし」

葵 「まぁ……そっか!」


それならWinWinだな
よし、やってやろうじゃないか!!


ヒラ 「なんかあったらボディガードやるから!」

葵 「お前は黒服か」



「すいませーん!」と声がして、1番テーブルに向かうとそこには、フジ、こーすけ、先生がいた。

3人はあたしを見てニヤニヤしてるめっちゃきもい!!




葵「お前らマジかよ」

ナチ 「え、キヨちんじゃん!?来たんだ!?」

先生 「そりゃ来るだろ!!あおちゃん指名で!」

ナチ 「指名は10分間固定ね〜」
「あ、はーい!今行きまーす!
おにぃさん写真とりません?1回300円!!!」



葵 「もう勘弁して」


こーすけ 「キヨがさ、葵指名したいからって1番目に並んでたんだよやばいっしょ」

キヨ 「おいそれ言うなよ!!!」

フジ 「友達がメイドやってんの見てらんねぇよ」

葵 「じゃあ帰ってくれ」

フジ 「あひゃひゃひゃごめんごめん」


フジがお腹抱えて笑ってる
クソっめっちゃムカつくわ!!


キヨ 「じゃあ、あおちゃん注文いーい?」


先生の声が少しだけ甘く響いた。



葵 「ど、どうぞ〜」

こーすけ 「うわぁ葵が緊張してる」

葵 「うぜぇこいつら!!」

フジ 「ツンデレメイドもいいじゃん」

先生 「だよな?!可愛いよな!連れて帰りてぇ」


だめだここにいる人きもいおじさんだ。



葵 「はやく注文言え」

ヒラ 「言葉使い!」

葵 「す、すいません」


こーすけとフジはそれを見て「お、おぉぉ……!」と声を漏らした。


葵 「お前らのゲーム実況めちゃくちゃにしてやるからな」

キヨ「今年で最後だからマジでやめろよ」

こーすけ 「ね、ここキヨの奢り?」

キヨ 「は?んなわけねぇだろ」

フジ 「俺くまたんカレー!」

こーすけ 「めっちゃ可愛いじゃんーフジ好きそう」
「俺は〜ロリっこうさぴょんパフェで!」

葵「あ〜寒気してきた」

こーすけ 「いやこのメニューに悪意あるだろ」

キヨ「じゃあ〜あおちゃん特製愛情たっぷりオムライスで!」


メニュー表には「妖精さんの愛情オムライス」とか書かれているのに、先生はわざとそう言った。

そんなことを言われるなんて思ってもなくて恥ずかしくなってしまった。
今顔赤い気がする。


葵 「そ…そんなのないよ//」

キヨ 「あ〜あおちゃん照れたんふふ可愛い」


先生がニヤニヤしながらそう言った。


フジ 「おっふ」


友達におっふすんな!!


こーすけ 「フジ!!うちの葵に照れんな!!お前にはナナがいるだろ!」

キヨ 「いや俺のあおちゃんな?」

葵 「へっ?//」


お、俺のあおちゃん?!
思わず心臓がぎゅっとなった。
頭で何回もループして何も入ってこない。



フジ 「このあおちゃんは、ナナちゃんには無い良さがある」

葵 「ちょっと……もう、やめて//」

キヨ 「はーやーくお腹空いたよあおちゃん?」

葵 「は、はい!」

こーすけ 「葵顔真っ赤だぞ〜」



こーすけはそんなあたしをみて爆笑してる
ほんとに恥ずかしいんだってばよ!!

あたしは逃げるようにして、料理を取りに行った。

後ろで3人はあたしの話で笑い声を漏らしていたけど、振り返る余裕はない。


モブ 「葵のおかげでもう売上1万は超えたよ!!」

葵 「は?まだ営業して10分も経ってないのに?」

モブ 「そうそう葵を一目見るだけに飲み物だけ頼んで帰る人とかいてさ〜」


やばすぎるだろ
他にもメイドはいっぱいいるのに
あたしそんなに人気なんか?



ナチ「葵〜写真撮影今行ける?」


葵 「え、あいけるいける」

モブ 「たぶん20人くらいはいるから頑張って!!」

葵 「コンカフェかここは」

ナチ 「じゃああおちゃん、準備して!」

葵 「はぁ…ちょっと待って、落ち着け自分」



慌てて胸元やスカートを整え、髪を気にしながら深呼吸をする。
今日一番のドキドキポイントは、この写真撮影かもしれない。
全く知らない人撮るってこんな気持ちなんだ。
全然嫌だよ。


モブ 「じゃあ順番に呼ぶね〜1人5秒で回していきます〜じゃああおちゃん笑顔で!」

葵 「笑顔ね…笑顔か…」


列の先頭から女の子たちが手を振って待っている。
なんかアイドルになった気分。

巻いて2〜3分くらいで撮り終わった。
その間に料理ができていたので1番テーブルに持っていった。


葵 「お待たせしました〜」


こーすけから順に頼まれたものを置いていく。



こーすけ 「大人気だったな」

フジ 「まじでもうあおちゃんになりきってるじゃんさっきと顔違う」

キヨ 「俺も写真とりてぇ」

葵 「1回300円で〜す」

こーすけ 「なんか慣れてるあおちゃんは嫌かもしれない」

フジ 「だよなツンデレがいいんだけど」

葵 「だからきもいって」

キヨ 「じゃあ〜あおちゃん特製は〜」

葵 「なにもしないよ?やめて?」

キヨ 「ケチャップで、ハートつくって萌え萌えきゅん!どうぞー!」

こーすけ 「絶対可愛いじゃん動画撮ろ」

葵 「マジで言ってる?」

キヨ 「そりゃメイドだから」

葵 「待って待って、終わった黒歴史なる」

フジ 「あおちゃんになりきれ!」

葵 「はぁ……わかったよやるよ」


先生は息を飲んであたしをまじまじと見ている。
お巡りさんこっちです。今すぐこの変態教師を捕まえてくれ。


葵「も、萌え萌えきゅんっ!」


あたしはハートを書こうと思ったけど、『先生大好き』と書いた。
ほんとの気持ちだし。
その方が先生も今の感じだと、喜んでくれると思ったから。


キヨ 「……は!?//」


思わず頬赤くして顔を手で覆う先生。
あたしも段々恥ずかしさが押寄せてきた、手で顔を覆った。


こーすけ 「二人でイチャイチャ見せつけんなよ」

フジ 「あーうらやまし」

こーすけ 「なんだこいつら」

キヨ 「ずっと立ってるのもあれだから、とりあえず俺の隣座って」

こーすけ 「えー!ずる〜!!」


先生が「ここに座れと」椅子をトントンと叩いた


葵 「し、失礼します」


先生の隣に座った瞬間、ちょっとだけ寄ってきて、ほんのりと先生の体温が伝わってきてた。心臓がドクンと跳ねる。


キヨ 「オプションで手とか…繋げますか?」

こーすけ 「おいセクハラ」

フジ 「お前一応先生だぞ」

キヨ 「じゃあ敬語使え」

葵 「つ、繋ぎたい……ですか?でも先生っ」


彼女いるでしょ……?


キヨ 「……繋ぎたいに決まってんだろ」


その一言が、思った以上に真っ直ぐで、
胸がぎゅっと苦しくなった。


キヨ 「いくらでも払う」

葵 「そ、そんなぁ……」

キヨ 「ほら早く」

こーすけ 「さすがにきもいわ」

フジ 「でもメイドさんのお触り見たい」

葵 「お前が1番きもい」

でも――
その手を見てたら、断ることなんて出来なかった。



あと数センチで先生とまた手を繋げる。
やばい普段よりドキドキする。
時が止まったみたいに。
手が震えてきた。


すると突然横からナチが割入ってきた


ナチ 「はーい指名の10分終了!!あおちゃん次5番テーブル指名だから!!」
「あとメイドにお触り禁止!!」


その瞬間、ピタッと動きを止めたあたしと先生。
あと少しで触れそうだった指先が、空中で止まる。

葵 「じゃ、じゃあね!!失礼します!!」

あたしはその場から逃げるように五番テーブルに向かった。
けど4人の声が沢山いるこの中でよく聞こえてくる。


先生 「まだ触ってねぇし!」

ナチ 「触ってもらおうとしてたじゃねぇか」

こーすけ 「ほんとにキモかったぞ」

キヨ 「ちょっとくらいいいだろ!!」

フジ 「おっさんが文化祭で青春してんじゃねぇよ」

キヨ 「うるせぇ!!あいつ、可愛いすぎだろ」


その言葉にドキッとして、先生を見ると目が合ってしまった。

慌てて視線を逸らして、オーダーを確認するふりをした。
でも、心臓の音がうるさくて、
先生以外の声なんてまるで聞こえない。


なんでそうやってあたしの心を掻き乱すの?


優しい笑顔も、ふざけた一言も、その全部がずるい。
また“好き”を思い出してしまう。

忘れようって何度も思ったのに。
文化祭のこの空気に紛れて、
まるで全部が夢みたいに感じてしまう。


何分か経ってまた先生の方を見るとp-pが来てていて、ヒラが着いていた。

4人は「男なんかいらねぇよ」と悪態を着いてたけど、ヒラは文句を言いながらも嬉しそうだった。


楽しそうだな…


気づけば時間は、あと五分でシフト交代。
写真撮影とかでバタバタしてたら、
1時間なんて一瞬だった。


「あと5分でメンバー交代でーす!」


ナチの声が響いて、みんなが片付けモードに入る。

ふと、先生たちが座っていたテーブルを見ると
もう、誰もいなかった。


先生の笑い声も、もうどこにもない。
胸の奥が、少しだけ冷たくなる。


先生と写真撮影…撮りたかったな……



まぁでも1時間で15000円は稼げたしラッキー
これで店いっぱい回れるわ!


あたしとナチは服を整え、焼きそばとか焼き鳥を買った。
次は体育館で最俺のゲーム実況と、フジのバンドがあるから、アリサとナナで待ち合わせをした。


目の前から編み込みをしたツインテールを揺らしなが、ワッフルを抱えて走ってくる女の子が見えた。


ナナ 「お待たせぇ!」

葵「は?あんたナナ?」

ナチ 「フジが好きそうな髪型だな」

アリサ 「可愛いっしょ?あーしがしてあげた」

葵 「いや、一瞬誰かわかんなかったわ」

ナナ 「んふふフジくん可愛いって言われちゃった」

アリサ 「まじでどっちも照れてて、こっちがドキドキしたわ」

ナチ 「早う付き合ってくれお前らは」

ナナ 「こっちから告っちゃおっかなぁ」



そう頬を赤くしてナナは言った。
こんなに乙女な顔をした友達を見て、胸が苦しくなった。

あたしも先生に思ってること全部ぶちまけれたら楽なのに。

ナナには幸せになってもらいたい。
ま、フジはナナのこと好きだから付き合うのは確定だけど。
それを、まだ知らないナナはほんとに可愛いなって思う。


あたし達は、体育館のど真ん中の最前列に座ることが出来た。

ナナは1番左に座った。
フジがその場所でよく演奏してて1番近いからと。
マジでもうフジのファンにしか見えない。


ナナ 「ねぇやばいフジくん!!今から続けて見れるよ!去年もその前もそんなこと無かったのに!!ねぇやばいって」

ナチ 「あんたさっきからそればっかだね」

アリサ 「こことナナの温度差やばいから」

葵 「さっきフジと喋ってたけど、マジでキモかったぞ」

ナナ 「そこがいいんじゃん!!」

葵 「あのくねくね動くの何とかならんの?」

ナナ 「そういうとこも好き!!」


ダメだこりゃ
もうフジの話をする度に目がハートになってるもん。


ナチ 「あ、出てきたよ」

ナナ 「はぁぁ1年ぶりの最俺じゃんやば!!」



舞台を見るとすぐ先生と目が合った。
先生はあたしに手を振ってきた。
それにあたしも振り返す。
それを見たヒラも負けじとあたしに手を振ってきた。


ナチ 「あんたほんと2人から好かれてんね」

葵 「いいんだか悪いんだか」

ナナ 「フジくん!!」


その声にフジがナナを見た。
フジは慣れたように、ナナにファンサを送った。

ナナ 「はぁぁ死ぬ!!死ぬ!かっこいい!!」


その様子をフジは見て爆笑していた。


アリサ 「まじで恥ずかしい」


こーすけ 「俺もいんだよ!誰かしらなんかしろよ!!」

ナチ 「あーかっこいいよー」

葵 「今日なんのゲームするんですかー」

こーすけ 「こいつら適当すぎだろ」

キヨ 「こーすけ可哀想」

ヒラ 「まぁそんな時もあるよね!」

フジ 「ラーヒーさ励ましてるようで傷えぐってるよねあひゃひゃひゃ」

こーすけ 「もう帰らせてぇ」


先生が手を叩きながら笑ってた。
その笑顔に思わずつられてしまう


舞台の上では、操作確認やマイク調整をしていて、段々周りも人が増えてきた。

中には椅子にすら座れない人まで。
体育館全体が埋まるくらい、最俺を見るために集まってきた。


キヨ 「あと数分待っててなー!もうすぐで始めるからー!」

ヒラ 「こーすけ、その間歌歌ってよ」

こーすけ 「え、何歌お」

フジ 「どうせB'z'しょ」

こーすけ 「それしかないみたいに言うなよ」


こーすけが歌おうとマイクを持った瞬間、幕が降りた。


こーすけ 「え、?」

キヨ 「あ、すまんもう始まんのよ」


先生が笑いながらそういった。


こーすけ 「歌う気満々だったのに!!」

ヒラ 「タイミングが悪かったね〜」

フジ 「さっさと座れ」

こーすけ 「みんな俺の扱い方雑すぎ」

キヨ 「こーすけ、それが俺たちの良さだ」

こーすけ 「それ言ったら丸く収まると思ってるだろ」

キヨ 「思ってるよ!」


その瞬間、会場がどっと笑いに包まれた。
幕が降りて全く様子は全く見えないけど、会話だけでこんなに面白い。


先生が「こーすけのおかげでいい空気になったな〜よしじゃあやるか!」と満足そうに言った。

すると体育館全体が真っ暗になった。
周りの「うわぁぁ!!」とか「1年ぶりに見れる!」とか「今年も絶対面白い」とかで溢れかえってる。


ナナ 「やばい始まった」


幕がゆっくりと上がっていく。
あたしもそれに、ナナと同じくらいドキドキしてる。

久々に先生をまじまじと見れるんだもん。


何を話すのかな、どんな顔して笑うのかなって、考えるだけで知らない先生の一面を見れる気がして胸が張り裂けそう。



照明の光が少しずつ差し込みはじめて、
ステージの向こうに4人が見えた。