みんなと別れて旧館に向かう
昼間っから図書室なんて最悪だ
私は薄暗い階段をのぼっていた。
ジメジメしててなんか霊くらい余裕でいそう

(はぁ……なんでこんなことになってんだろ)

昼休みって、もっとこう、ポテト食って喋って笑って、青春!みたいな時間じゃなかった?

「……ここか」

と、その前にパソコンとノートを持ってる高橋がいた

「あ、坂木これ図書室入っていいの?」

「知らねーよ話しかけんな」

あぁぁぁぁイライラするわ。てめぇの顔なんか見たくねー

コンコン――

「入ってんぞ」

(うわ、やっぱいるんかい)

「よっ先生ちゃんと来たよ」

「なに、褒められてーの?笑笑」

「ちげーし!!」

「てか扉の前で高橋がいたんだけど放置してていいの?」

「あいつ、今日は新館いけって言ったのになぁちょっと話してくる。掃除しとけよ」

「へ〜い」

先生は軽く溜息をついて立ち上がると、ドアを引いて開けて高橋の方へ向かった。



旧館の図書室にはあたし一人。
外の光があんまり届かないから薄暗いし、本の匂いがやたら濃くて落ち着かねぇ。
てか、古い木の床がギシギシ言って怖ぇんだけど。新館とは比べ物にならないくらい古い

「……」

なんとなく奥の方の本棚を眺めてたら、ちょっとだけ興味あるタイトルを見つけて、思わず手を伸ばしかけた。

(……いやいやいや、なに自然に馴染もうとしてんの、あたし)

バッと手を引っ込めて、ホウキを手に持つ。

ちょっと経って、清川先生が戻ってきた。

「はい、高橋追い払ってきた」

「追い払ったって言い方よ」

「なんか“旧館の方が落ち着くんで〜”とか言ってたけど、全然落ち着いてねぇ顔してたぞ。めっちゃキョロキョロしてたし」

「しぬ絶対びびってただけじゃん」

「だな。…で?お前はどこまで掃除進んだ?」

「え、まだこれからですけど?」

「やる気ねーなぁ」

「いやいやいや、来ただけでも偉いだろが!!」

「俺もう帰ってゲームしてぇ」

「なんのゲーム?」

「マリカだろ」

「ちょ待ってあたしSwitch毎日持ってきてる」

「まじ!?あおちんやるねぇ!やろーぜー!もう掃除とかいいから新館いってマリカすんぞ!」

「あおちん呼びやめろよ笑笑」

なにこれ楽しい!!
もしかして前世友達だったりする?笑


「ほら、さっさと掃除しろ。奥の棚下やってな、蜘蛛の巣あったら報告して、燃やすから」

「物騒すぎんか」

「冗談に決まってんだろ。たぶん」

「こえーよ!」

冗談みたいな本音みたいな会話をしながら、旧館の空気にも少しずつ慣れていく。

遠くで掃除機の音が響いてる校舎の喧騒とは無縁の空間で、あたしは、ホコリと先生が打つパソコンの音にすこし落ち着きを感じた。

「もう終わったか〜あおちん〜早く、マリカしよーぜ」

「あんたほんとに先生なん?笑笑」
「もう終わるよ」

「先生だって、遊びたいたい時あるだろ〜もうそれくらいでいいんじゃね綺麗だろ」

来た時よりほこりっぽさもなくスッキリした印象だった

「よし!行こう時間ねーし走んぞ!」

「子どもか!!」

そう言いながらも、あたしはホウキを壁に立てかけて、先生のあとを追うように廊下に飛び出した。

旧館の木製の階段をバタバタと駆け下りる。

先生が前を走ってて、あたしがそのすぐ後ろ。
なのに、ぜんっぜん追いつかねぇ。

「ちょ、先生、足速すぎ!!」

「まだまだ若いからな〜おばさん置いてくぞ〜?」

「はぁ!?誰がババアだこら!!」

階段を下りきって、渡り廊下を抜ける。
日差しがまぶしくて、外の空気がすげぇ爽やかで。

気づけば、なんか笑ってた。


新館の玄関前で、やっと追いついた先生は、ぜぇぜぇ言いながらも超ドヤ顔。

「なっ、マリカの前に運動も必要だからな。スポーツマンシップな」

「先生のどこにスポーツマン宿ってんだよ!!」

「ん?心の筋肉がな?」

「はい意味不明〜〜〜」

はぁ……って深呼吸しながら、あたしは自分のポーチからSwitchを取り出した。

「てか、ほんとにやんの?教員が生徒とマリカって、だいぶ終わってるよ?」

「誰にも言うなよバレたら俺ぜってぇ怒られる」
「俺らの秘密な」

そんなことを言われてドキッとした。
2人の秘密ね〜悪くないかも。

「よっしゃ!俺の勝ち〜坂木下手くそすぎんだろ」

「いや先生強すぎだっておかしいって!もう1回!!」

「もう1回ってもう今何回目だよあはは」

「げ、、、もう5限始まんじゃん」

「Switch没収な」

「は、?なっいまから1人でする気だろ!!ずりぃ」

「学校にSwitch持ってきては行けませーん」

「そんなルール知りませーん」

「とりあえず行ってこいよ放課後暇だったらまたやろうぜ」

「はぁわかったよ絶対データ消すなよ」

「それフリ?消せってことか?」

「ちげーわ!!」

「うい」

急ぎで教室に戻る

なんでこんなに楽しんでんだろ
にしても先生との時間が一瞬すぎる
趣味が一緒なのもすごくいい
あたしみたいな生徒に対等で居てくれる人なんか今までいなかった。だから余計仲良くなれて嬉しい

「あおおかえりどうでした?図書委員は」

「マリカしてきた先生と」

「はっ?仕事しろよおもろすぎだろ」

ナチが爆笑しながら机バンバン叩いてんの、マジうるせぇからやめてくれ。

「うるさいな〜マジで先生めっちゃ強かったんだから!」

「え、まって図書室で旧館にテレビなんかあった?」

「いや途中から新館いった」

「なんで移動してんの意味わかんな」

「しかも“俺らの秘密な”とか言われたし」

「うわっっなにそれーー!!それもう告白だろ!!」

「ちげーよ!!あいつのはノリだっつーの!!」

「いやいやいやいや、先生の“秘密な”はガチだって…!あたしも言われてぇ〜〜〜!」

「お前には一生ねぇよ」

「冷たっ!」

チャイムが鳴って、わいわいした空気がすっと教室中に戻ってくる。
あたしは机に座りながら、ぼんやりと窓の外を見る。

(……秘密、ね)

さっきの「俺らの秘密な」って言葉が、なんか頭の中にずっと残ってる。
ほんの一瞬だけ、先生が“先生”じゃなくて、“ただの友達”みたいに感じた。


「……なに真顔なってんの、あおちん」

「は!?別に!!」

「もう好きになってんじゃん先生のこと!!」

「しねっ!!」

授業中もなんか上の空だった。ノートも落書きだらけ。

***

放課後