目が覚めると、いつものように窓の外にはセミの声が鳴り響てて
それすらも心地よく感じる。
まだ寝れるわ
休みの日に二度寝すんの好きなんだよなぁ
「おはよ〜葵」
「こーすけぇ?」
「違うよ寝ぼけてんの?」
目を擦るとそこにはヒラがいた
勝手にあたしの部屋入ってくんなよ
「な、なんでいんの?こーすけは?」
「今日みんなと遊ぶ日でしょ?みんな下にいるよ葵待ち」
「へ?今日……えっ……あああああ!!!」
一気に目が覚めた。
今日はナチ、アリサ、ナナ、ヒラ、フジ、そこーすけと修学旅行の買い出しに行く日だった!!
前に先生が家に来ていたあの日の後日、ナナをフジと仲良くさせるために予定を立ててたんだった
「やばっっっ!!え、でもなんでヒラ?こーすけは?」
「片付けで手が離せないってさ
“お前が行ってこい〜”ってパシられたの」
「今何時?」
「10時だよ相変わらず起きるの遅いねぇ〜」
「うるさいなぁ」
「ちょ用意するから出てってくんね?起こしてくれてありがとね」
「え〜久しぶりに2人きりなのに?お話しようよ」
「知らん知らんお前と話すことねぇわ」
「ほんと葵って俺に冷たいよねぇ!!」
「朝から鬱陶しいよ」
「…俺……と………にっ…」
ヒラが小さい声で何か言った
だけど小さすぎて聞き取れなかった
「ん?なに?」
そう聞くと、ヒラは「なんでもない」って笑って
その笑顔がちょっとだけ、いつもと違って見えた。
「戻るね!!早く降りてきてよー!」
「え、ちょっ、」
部屋のドアが静かに閉まる
一人残されたあたしは、
なんとも言えない気持ちでそのまま立ち尽くしていた。
行っちゃった…
なんだったんだよ今の……
てかそんなことより準備しないと!!
階段を駆け下りると、リビングに行くと
待ちくたびれて腕を組んでるナチの姿が。
ナチ「おっそい!遅刻魔!!」
葵「ごめんって〜!!」
こーすけ「葵ご飯あるよ」
葵 「たべる!!!」
ナチ 「食欲だけはすごいな」
葵「うるさいなぁ」
「てかアリサは?」
ナチ 「アリサ2日前に熱出して治ってないらしい」
葵 「えええ大丈夫かあいつ、久々に会いたかったなぁ」
ふと周りを見渡すと
ナナが赤面してフジと緊張しながら話していた。その横でヒラがゲームしてる
ナチ「熱いねぇあの二人は」
葵 「あんな女の子みたいなナナ初めて見た」
「結局あれは恋なん?推しなん?」
ナチ「恋に近い推しじゃね?」
葵 「お似合いじゃん」
ナチ「でもフジ、あんなんでも超鈍感だから気づいてないだろ絶対」
葵「だなナナの頑張り、無駄にすんなよなあいつ」
そう言って、あたしはトーストを頬張りながら二人をチラ見する。
ナナは顔を真っ赤にして、フジの隣でうなずいてばっかり。
なんか、見てるこっちが照れるわ。
こーすけ「葵喋ってないで早く食べて、そろそろ出るよ!」
葵 「んんんぐっ……ちょまっふぇ!」
ナチ 「慌てないの!!詰まって死ぬよ」
こーすけ 「ごめんごめんゆっくり食べていいよ」
葵 「ふぉーふけがはやふんぇろってー!」
こーすけ 「んんなんて?あっははっは」
こーすけがお腹を抱えて笑ってる
ナチ「こーすけが早く食べろってーだって」
こーすけ 「可愛すぎるだろそれにしては」
こーすけがあたしの頭を撫でてくる
先生とはまた違って、手が大きくて安心感がすごい
ナチ「ほんとこーすけ葵のこと好きだよね」
こーすけ 「誰が長年葵の子守りしてると思ってんの」
葵 「こ、子守り?!ずっとそう思ってたの!!?」
こーすけ 「冗談だよ」
フジ「お、朝から喧嘩?仲良いね〜」
ナナ「な、な、仲良し!!いいな!!!」
ヒラ 「ナナ大丈夫?あはははおもしろい!」
ナチ 「恋する乙女は可愛いわぁ」
ナナ 「べ、べつに恋なんかしてねぇ!」
フジ 「え!ナナちゃん好きな人いるの?」
ナナ 「え、いや、いやいやいやっ//」
あたしはナチと顔を見合って笑った
ナチ 「ほらねあの鈍感さすごいわ」
「ナナも女の子の喋り方になってるし」
葵 「ナナすっごい人好きになっちゃったね」
ヒラ 「まぁ悪いやつじゃないからねぇフジは」
こーすけ「てかそろそろ出るぞー!行くとこいっぱいなんだからな」
葵「はーい!」
ナチ「しゅっぱーつ!!」
こーすけ「忘れ物ないか、ちゃんと確認してな!」
みんながそれぞれの鞄を背負いながら、玄関に集まる。
外に出ると雲ひとつなくて蒸し暑い
ほんと真夏って感じ
ヒラ「楽しみだね」
あたしの隣にヒラが並ぶと、ちょっとだけ距離を詰めてきた。
「何?今日変だよヒラ」
「んー?今日はね葵の気分なんだぁ」
「怖っ、こーすけのとこ行きなよ」
「こーすけ今ナチと話してんじゃん」
「いいでしょそんなん行きなって」
「ねぇ〜俺の事嫌いなの?ひどーい」
なんか今日のヒラ怖い
距離の詰め方というか…あたしが気にしすぎなのかな?
はぁ隣がヒラじゃなくて先生がいいなぁ
葵「ねぇーこーすけ今日何買いに行くの?」
こーすけ「えと登山用の服とかだっけ?」
毎年この学校は、2泊3日の修学旅行にわざわざ北海道に行って山を登るらしい。頭おかしいって修学旅行だぞ。けど最終日は各自で観光していいらしい。
ナチ「そうそう!服装ちゃんとしてないと大変だぞ〜」
葵「お土産とか買えるかなぁ!!てか登山ってマジでしんどいやつ?」
こーすけ「でも初心者でも登れるとこ選んでくれてるらしいよ」
フジ「山なめんなよ?なぁ、ヒラ?」
ヒラ「……ま、山より寒さがヤバそうだよなぁ。夏でも北海道の山は冷えるらしいし」
ナナ「え……寒いの無理……」
ナチ「カイロめっちゃ持ってこ」
葵「カイロは現地で買ってもよくない?」
ナチ「バカ!それ忘れたら詰むから。荷物ちゃんと管理しなさいよ?」
こーすけ「真夏にカイロ売ってんのか?」
ナチ 「あはこの地域では見たことねぇ」
フジ「でも登山かキツいけど、山頂の景色とか楽しみだよな」
ナナ「うん……晴れるといいな……」
葵 「そのフジ受け狙った喋り方やめろって」
ナナ 「な、そ、そ、そんなんしてねぇし!」
フジ 「作ってるの?自然でいいよ?」
ナナ 「ええぇっ//」
なんだこいつら地味にイライラするわぁ
あたしはみんなの会話を聞きながら、ふと先生の顔が浮かぶ。
登山って言ったら、先生めっちゃ運動得意そうだなぁ。てか先生北海道出身だっけ
学校始まったら色々聞こうかな
こーすけ「葵のことだから山登ってる最中転けそうだな」
葵「フラグ立てないで?ほんとになったらどうすんの!!」
ナチ「ほんと葵はドジなんだから」
ヒラ「その時は俺が助けるよ〜同じ班だからね」
葵「え、そうなの?!他にはだれ?」
全く担任の話聞いてなかったぁぁ!!
しかも修学旅行先が北海道だって知ったのもつい最近のこと
ヒラ「えとね俺、レトくん、葵、リア、ナチだっけな」
葵 「り、リア!!!?!!???」
リアって先生にガチ恋してる子だよね
この前最悪な感じで終わったよね
あー終わったわ。あたし終わったわ。
ナチ 「あたしがいるから心配すんなって」
ナナ「いじめられたら絶対に言うんだよすぐ駆けつけるから」
葵 「助かるすぎる」
ヒラ 「けどなんかキヨがいないから行きたくなぁーいって言ってたよ?来ないかも」
葵 「いいんだか悪いんだか」
葵 「てか、玲斗くん気まずい」
ナチ「そらそうだな香坂にほぼ告られたみたいなもんだもんな」
こーすけ 「俺の葵なのにな」
葵「ちげぇよ?」
ヒラ「嫌だったら俺が近ずかせないようにしようか?」
ナチ「あぁ?あたしも同じ班ですけど?
葵の事はあたしに任せろ」
2人がバチバチに争ってる
この感じ懐かしいわ
こーすけ 「あ!着いたぞ!!」
葵「れっつごー!!!」
ごちゃごちゃした頭の中を振り払うように、あたしは店の中へ駆け込んだ。
こーすけ「お、あったぞ葵〜これレディースの登山用セット。サイズこれでいける?」
葵「多分行けるっしょ!てか高っ!なんで学生が自己負担なんだよ」
マジでこの学校変わってるわぁ
そうして当たりを見渡していると
あの2人が
ナナ「フジくんこれどうかな…?」
フジ「それ似合うと思う!」
ナナ「そ、そう!?えへへっ//」
ナチ「もうあの2人結婚すればいいのに」
葵「なんか想像出来るね」
こーすけ「フジが気づくのがいつかだな〜」
その時、視線がふとヒラに向いた。
ヒラは、ちょっと離れた場所でぼーっとしていた。
なぜかニット帽2つ両手に持っていた
「……なにしてんのあいつ」
あたしはヒラに話しかけに行った
「どしたん?」
「いやぁどっちにしようかなって」
「緑か黒どっちが似合う?」
「うーん黒?てかそれいる?」
「いや見て!これ」
ヒラがニット帽を被る
いやめっちゃ似合ってんじゃねぇか
「いやいやいや似合いすぎだろ!!あたしが買ってやろうか?」
「え!いいの?」
「いいよたまには」
「よっしゃ〜俺の人生初!葵からのプレゼントってことで!」
「いや毎年あげてんだよ」
「これ被って登山も頑張れそう」
「大袈裟だなあ」
そう言って笑うヒラの横顔が、なんだか子供の頃と重なって見えた。
「あおちゃんとけっこんするんだー!!」
ふいに頭の奥から蘇る。
昔と全然変わってないなぁ
こうやってずっと懐かしい思い出に浸っていたい
こーすけ「あ、こっちでいい感じの靴見つけたぞー!ヒラ!葵!」
ナチ「おーい早く来なー!もうフジとナナは買い終わってるし〜!」
あたしとヒラは駆け足で元に戻る
気づいたら競走みたいに走ってた
こーすけ「はいはーい店で走らない!もうみんな買い終わってるよ」
ヒラが先にお会計に進んだ
ナチ「支払い頑張れよ葵〜!!」
葵「うぅ……お財布が泣いてる…もっとバイトしなきゃ」
ヒラ「ええ、ごめんやっぱり俺買うよ」
葵「え嫌だ男気ねぇじゃん」
ヒラ「いつから男になったんだよ」
ナチ「元から男だろ」
葵 「は?今なんて言った?」
こーすけ「こんな子育てた覚えはありません!」
葵「なんだこいつら!!」
ヒラ「いやでもマジで、葵に無理させたくないし」
葵「だから、いいって!あたしがあげたいって思ったから!」
ヒラ「なら、ありがたくもらっとく!」
ナチ「素直に受け取るあたり、ヒラも成長したな〜」
ヒラ「なんかそれ褒められてる気がしない」
ナチ「気のせいだよ〜♪」
こーすけ「さっ、昼ご飯食べに行こ!」
ナナ「さんせーい!お腹すいたぁ」
フジ「何食べたい?ナナちゃん」
ナナ「えっ、えっと……なんでも?フジくんが食べたいもの……で……//」
ナチ「おいおい甘酸っぺぇなぁ」
葵「いつもラーメンって言うくせになぁ〜〜」
ナナ 「葵今やめて?」
ヒラ「俺らも青春してみる?」
葵「は?ラーヒーとは嫌だきっしょ」
ヒラ「速攻拒否られた〜〜心に穴空いちゃったよぉ」
こーすけ「じゃあ駅前のラメーン屋行くぞ〜」
みんなでぞろぞろと移動を始める。
ヒラは買ったばかりのニット帽を早速被って、ご機嫌な顔で歩いてた。
こいつたまには可愛いとこあんじゃん
ナナとフジはイチャイチャ趣味の話をしていて、
こーすけとナチは一日中あたしと先生の話してるし、
必然とヒラがずっと横にいる
「ねぇなんで葵はキヨが好きなの?」
「なに急に」
「いや?どこが好きなのかな?って」
「あんたに関係ないでしょ」
ヒラが黙り込んでしまった
今日のヒラなんかおかしい…
「葵さあの約束覚えてる?」
「約束?なんの」
「葵と大きくなったら結婚したいって」
「懐かしそんな時もあったな」
「大昔のことじゃん」
「俺は…今でもそう思ってるよ」
い、今なんて?
思わずヒラの顔見るといつもより、真剣な顔をしていた。
「……はっ?」
数秒間のことなのにすごく長く感じた
あたしの聞き間違いかもしれない。
「俺の事ちょっとは気にかけてよ」
「葵キヨのことばっかだしさ」
「え、えっと…」
「あははは動揺しすぎ〜!冗談だよそんな顔すんなって〜」
「ちょっとからかってやろうと思っただけだよ」
「いや冗談の顔じゃっ」
「ちょっとフジとナナにちょっかい出してくる」
あたしの言葉にかぶせてくるようにそう言った。
ヒラはあたしの頭を撫でてフジ達の方に行った
「なんだよあいつ」
結局なんだったんだ??
ほんとに冗談なの?
いや鈍感なあたしでも分かる。
ヒラのあの、真剣な顔と声は嘘なんかじゃない…
なんだろすごく胸の奥がザワついてる
好きとかそんな気持ちヒラにはないけど。
そうやってずっと好意として見られてたって
ことだよな…
まぁ幼馴染だし、恋愛漫画ならよくあることか
昨日からこんなことばっかりだな…
まぁ先生以外好きになるわけねぇけど
……とにかく、今はこれ以上何も考えたくない。
「あおー何してんの行くぞー!」
こーすけの声が遠くで響いて、
あたしはフッと我に返った
考えすぎて歩くの忘れてたみたい
「……今行くー!」
あたしは返事をして、急いで歩き出す。
なんか、足元がフワフワする。
空はさっきよりも眩しくて、照りつける陽射しが容赦なく背中に刺さる。セミの声も騒がしい
まるであたしの頭の中みたい。
暑い、うるさい、うっとうしい。
そんな気持ち全部まとめて振り払うように、あたしはみんなの後を追いかけた。



