8月上旬
セミの声が頭に響く程うるさくて、たまらなく蒸し暑い
だけどそんなことも、今は気にならないくらい
目の前いる先生に、つい見惚れてしまう........
はぁ…今日は補講最終日
結局ほぼ毎日遅刻して、毎日怒られてたなぁ
あの日、先生が家に来てくれた後から
二人の間にあった甘ったるい雰囲気は、どこかに消えていってしまった。
ちゃんと一線を引いてるんだなとか思ったり。
だけど、あたしのこと嫌いになったのかな…なんて思ったりもする。
今日が終わったらあと1ヶ月は会えない…
まぁ仕方ないか…そうだよね…
「で、メロスの心情を考え…おーい聞いてんのか?」
先生があたしの顔を不思議そうに覗き込んできた
「え?なに?」
「集中しろよ」
「あ、ごめん考え事してたわ」
「考える頭あったんだすげぇ」
「殴るぞ」
「あはははそういえば、お前大学どうすんの?」
「大学なぁ」
そんなこと忘れてた
あたし受験生だったわ
………大学…か
正直大学なんて別に行けなくてもいいし
これ以上勉強なんてしたくない。
だけど、ナチ達に会えなくなるのも嫌だから
進学はするんだろうけどさ…
受けるなら先生と同じ大学がいい
「どこ受けんの?」
「うん」
「そんな大学ねぇよ」
「どう考えても相槌だろ!」
「俺が行ってた大学受けるとか、そんなこと言い出すなよ」
「えっなんで?」
エスパーかこの人は
怖ぇよ
「図星かよ!!俺のストーカーか!!」
「まぁいいけど」
「まだ誰にも言ってないの」
「ごめんだけどこの調子だとちょっと厳しいと思う」
「だよねわかってた」
「本気で行く気あるなら、今からちゃんと勉強しろ」
「勉強なぁ」
「大学行って何する?どこの学部?将来夢は?」
「一般入試って確か2月だっけ?」
「もうしんどいって」
「やる事ないなら大学行っても無駄だぞ」
その通りすぎて、心が痛い
てかなんかすごい先生の態度が冷たい
進路指導の先生みたい。
「わかってるよそれくらい」
「多分他の奴らはこの夏に勉強しまくってるよ」
「じゃああたし先生の嫁になる」
思わず口から出ていた。
不意を突かれたみたいに、先生が目を丸くしてあたしを見た。
「は?冗談は今いいから」
ねぇ先生、今日初めて目が合ったよ
「……冗談、か」
まぁ冗談じゃないけどね…
そんなこと今の空気じゃ言えるわけないけど
「いや嬉しい」
さっきとは違って、先生は顔を手で隠して耳を赤くしてニヤニヤしてる
ほんとなんなんだよこの人は
「先生可愛いね」
「だまれ………お前の方が…可愛いって」
「先生のバカ…」
バカみたいに心臓が飛び跳ねる
久しぶりに可愛いって言われた…
ずるいよ先生っ
どこまでもあたしを先生の沼に連れてかないで
その後、5分くらい無言が続いた
運動場でサッカー部と野球部の声が鮮明に聞こえるくらい静かで
どっちも何も言わず、ノートの上を鉛筆だけが動く
「な、葵」
先生が先に口を開いた
「受験応援してるから頑張れよ」
「あ、ありがとう」
「分からないとこあったら相談しろな? 勉強くらいなら教えれるし」
「助かるわほんと」
「そろそろ帰るか5時だし」
もうそんな時間か…
さっきまで運動場に居たサッカー部も野球部も、もう居なかった。
てか最終日にご褒美くれるって言ってたけど何くれるんだろ…ほんとにくれるのかな?
先生が帰る準備をしている
先生は今、何を考えてるの?
「ねぇ先生」
「ん?どした?」
「今日最終日だけど、ご褒美ってくれないの?」
先生がニヤニヤしてる
なんだよその顔
「もしかして葵今日そればっか考えてた?」
「考えてたよ…だめ?」
なんか今日はすごい素直になれてしまう
そんな自分が怖い
「くっそ…可愛いなお前」
先生が頭を優しく撫でてくれる
これが1番好き
こんなの、なんか久々で懐かしくて泣きそう
「先生ってあたしのこと嫌い?」
「あはははそれ絶対言ってくると思ってたわ」
先生が意地悪な顔をしてそう言った
「なんで?もしかしてわざと?!」
「わざとだよ!ちょっと距離置いたらどうなるかなって」
「最低!!」
「まぁでも、葵のことは嫌いになることないから安心しろ〜」
優しくてずるい声で、そう言うから、もうなんか泣きそうだった。
でもそんな空気を打ち消すように、先生は急にパッと手を叩いた。
「よし! じゃあ行くぞ!」
「え、は?なに?どこに??」
「ご褒美だよ!運動場行くぞ!葵サッカーしようぜ!」
「はぁああ!?なんでサッカー!!?暑いって!」
「うっさい!文句言うなほら、足動かせ足を!」
先生は教室を飛び出て走って行った
わけわからなさすぎて追いかけるしかない。
夕日が差し込む運動場で先生はサッカーボール片手に仁王立ちしていた。
思わず足を止める。
マジで子どもすぎる。この人何なん
「…足…早すぎだろ」
「ぎゃはははあおちん息切れしすぎ〜!!」
「これ先生が…サッカーやりたいだけじゃん……」
「気づいた?やっぱ葵は賢いな」
あきれながら先生に近づいて、そのまま先生に体当たりした
その瞬間、先生の腕が反射的にあたしを支えるように回って
そのまま、あたしは先生の胸の中に収まった。
幸せだ……
気まずそうに先生が一歩引いて、そっとあたしから距離を取った。
「いってぇなぁ!!!!」
「バーカ!!」
「はいはい、ごめんごめん」
でも、先生のその笑顔は
ずっと胸に残るくらい、嬉しそうだった。
「俺も2週間お前の補習付き合ってやったんだから、俺のご褒美が先だろ!!」
「それでも教師か!生徒の頑張りの方が先だろ」
「俺は8時半から待ってたのに一度も時間通りに来たことねぇだろ待ってたこっちの身にもなれっ!」
「なんも言い返せねぇ」
先生はあたしにボールを投げてきた
蹴ろうとしたのに空振りして遠くに転がっていく
「おおーい運動音痴ぃぃ!!雑魚がよぉぉ!」
「うっさい!!」
「足も遅せぇな!お前に何ができんだよ!!!」
何?!すごい煽ってくるんだが!!
まじでこいつうざすきる!!!!!
もう鬼だ
終わりだこのスイッチ入ったら誰も止められない
あたしはボールを追いかけて必死に走って、蹴り返してまた遠くに思いっきり飛ばされて…
まるで飼い犬の気分だ
「葵〜そろそろ面白くねぇぞー!
まともにサッカーも出来ねぇのか!!!」
「あんたが手加減しないからでしょ!!!」
先生はニヤニヤしながらまたあたしに強いボールを投げてきて、蹴り返せないまま遠くに飛んでった
さっきよりも遠い場所に転がっていって見失ってしまった
先生は動かずに仁王立ちして笑ってる
くそが!!!!
ただの拷問だよこれ!!!!
運動場の外れに転がって行ったのは見えたのに全然見つからない
しゃがんで探している時
「なにしてんの?」
「ひゃぁっ!!」
うわぁぁぁびっくりした!!!
急に話しかけてくんなよ誰だよ
あ、ダルっ玲斗くんだ
後ろから汗だくの玲斗くんが話しかけてきた。
「何その間抜けな声あははは」
「忘れて!!」
「てかなにしてんの?」
あたしの隣にわざわざしゃがんで話しかけてくる
「帰ろうとしてんけど、なんか葵が地面漁ってたから、何しとんのやろと思ってさ」
いや帰れよ!!帰ってくれお願いだから
「ボールが見当たらなくてさ」
「あ、先生にさっきいじめられてたなぁ笑
部室から見てたあはははははは」
「まじで勘弁して欲しいわあの人」
「葵も大変やなぁ」
すると後ろから足音が聞こえた。
振り向くと先生がいた
さっきまでの笑顔はもうどこにも無くて
無表情であたし達を見ている。
「葵見つかったかぁ?」
先生は珍しく低い声であたしに話しかけてきた。
「先生っ」
思わず声が小さくなる。
「レト、なんでいんの?」
先生は玲斗くんに、すんごい目つきで話しかけてる。怖いよ先生
「帰ろうとしたら、葵がしゃがみこんでたから、手伝ってただけっすよ」
「へ〜」
そう言いながら、先生は一歩こっちに近づいてくる。
その顔は笑って無くて少し怖かった。
そんな表情初めて見た。
「てかボールあそこにあるよ」
そう言って玲斗くんがボールを取りに行った。
最初から分かってんなら言えや!!!!!
そしたら先生が不機嫌にならなくて済んだろ!
「葵ってほんまドジやなぁ」
玲斗くんが、笑いながらあたしの頭を軽くなでた。
「手、どけろよ…」
低く、静かな声が響いた。
振り返ると先生が、鬼みたいな顔して立ってた。
「……え?」
あ、やばい
先生のオーラが怒りを漂わせてる
この空気感最悪すぎて、あたしも顔引きつってるよ
「へ〜仲良いんだなぁ2人ってはははっ」
さっきの言葉は無かったように先生が明るく言った。
腕を組んで玲斗くんを睨みながら
顔笑ってないよ
「仲良いっすよ、なぁ葵?」
「い、いやっ」
苦笑いすらできない
先生と玲斗くんの目がすごい火花が見えるくらいバチバチに睨み合ってる。
だめだ気まずすぎる
怖いです。今すぐ逃げたい。
「先生ってさ」
静寂を切り裂くように、玲斗くんが口を開いた。
「……なんで葵のこと、そんなに気にかけてるんですか?」
その質問怖いいい!!!
もう帰らせて!?お願いほんとに無理!!
「レトに関係あんの?」
「ありますよ?俺、狙ってますから」
玲斗くんはそう言って先生の目を見たあとこっちを見てきた。
へえええ??!ね、狙ってる?って言った???あたしのこと?ええええ?!もう、、え?なに?
まじでパニックすぎる
「あっそ勝手にしろ」
「じゃあ、手加減しませんよ?」
「取れるもんなら取れよ」
「葵行くぞ」
と、取れるもんなら取れよ…か
かっこよすぎんたろ!!!!なんだよそれ!!
先生はあたしの手を強引に引っ張られる。
「ちょ、ちょっと先生!? 痛いって」
「……今日で最後なんだから、あんま余計なもんに邪魔されたくねぇの」
余計なもんって……玲斗くんのこと……?
振り返ろうとしたけど、先生の手がすごく強くて、痛くて、気まずくて後ろを見れなかった。
「レト、ボール取りに行ってくれてありがとな」
先生は玲斗くんに振り向きもせず前を向いて言った。
校舎の中に入ると先生はあたしの腕を離した。
先生はあたしの1歩前を歩いてて、
教室に着くまでずっと無言。
すっごいイライラしてるのが伝わる。
教室に着くと先生は扉を閉め、ため息をついて教卓に寝そべった。
あたしはその前の席に座った。
重たい空気だけが、静かに流れていく。
セミの声が頭に響く程うるさくて、たまらなく蒸し暑い
だけどそんなことも、今は気にならないくらい
目の前いる先生に、つい見惚れてしまう........
はぁ…今日は補講最終日
結局ほぼ毎日遅刻して、毎日怒られてたなぁ
あの日、先生が家に来てくれた後から
二人の間にあった甘ったるい雰囲気は、どこかに消えていってしまった。
ちゃんと一線を引いてるんだなとか思ったり。
だけど、あたしのこと嫌いになったのかな…なんて思ったりもする。
今日が終わったらあと1ヶ月は会えない…
まぁ仕方ないか…そうだよね…
「で、メロスの心情を考え…おーい聞いてんのか?」
先生があたしの顔を不思議そうに覗き込んできた
「え?なに?」
「集中しろよ」
「あ、ごめん考え事してたわ」
「考える頭あったんだすげぇ」
「殴るぞ」
「あはははそういえば、お前大学どうすんの?」
「大学なぁ」
そんなこと忘れてた
あたし受験生だったわ
………大学…か
正直大学なんて別に行けなくてもいいし
これ以上勉強なんてしたくない。
だけど、ナチ達に会えなくなるのも嫌だから
進学はするんだろうけどさ…
受けるなら先生と同じ大学がいい
「どこ受けんの?」
「うん」
「そんな大学ねぇよ」
「どう考えても相槌だろ!」
「俺が行ってた大学受けるとか、そんなこと言い出すなよ」
「えっなんで?」
エスパーかこの人は
怖ぇよ
「図星かよ!!俺のストーカーか!!」
「まぁいいけど」
「まだ誰にも言ってないの」
「ごめんだけどこの調子だとちょっと厳しいと思う」
「だよねわかってた」
「本気で行く気あるなら、今からちゃんと勉強しろ」
「勉強なぁ」
「大学行って何する?どこの学部?将来夢は?」
「一般入試って確か2月だっけ?」
「もうしんどいって」
「やる事ないなら大学行っても無駄だぞ」
その通りすぎて、心が痛い
てかなんかすごい先生の態度が冷たい
進路指導の先生みたい。
「わかってるよそれくらい」
「多分他の奴らはこの夏に勉強しまくってるよ」
「じゃああたし先生の嫁になる」
思わず口から出ていた。
不意を突かれたみたいに、先生が目を丸くしてあたしを見た。
「は?冗談は今いいから」
ねぇ先生、今日初めて目が合ったよ
「……冗談、か」
まぁ冗談じゃないけどね…
そんなこと今の空気じゃ言えるわけないけど
「いや嬉しい」
さっきとは違って、先生は顔を手で隠して耳を赤くしてニヤニヤしてる
ほんとなんなんだよこの人は
「先生可愛いね」
「だまれ………お前の方が…可愛いって」
「先生のバカ…」
バカみたいに心臓が飛び跳ねる
久しぶりに可愛いって言われた…
ずるいよ先生っ
どこまでもあたしを先生の沼に連れてかないで
その後、5分くらい無言が続いた
運動場でサッカー部と野球部の声が鮮明に聞こえるくらい静かで
どっちも何も言わず、ノートの上を鉛筆だけが動く
「な、葵」
先生が先に口を開いた
「受験応援してるから頑張れよ」
「あ、ありがとう」
「分からないとこあったら相談しろな? 勉強くらいなら教えれるし」
「助かるわほんと」
「そろそろ帰るか5時だし」
もうそんな時間か…
さっきまで運動場に居たサッカー部も野球部も、もう居なかった。
てか最終日にご褒美くれるって言ってたけど何くれるんだろ…ほんとにくれるのかな?
先生が帰る準備をしている
先生は今、何を考えてるの?
「ねぇ先生」
「ん?どした?」
「今日最終日だけど、ご褒美ってくれないの?」
先生がニヤニヤしてる
なんだよその顔
「もしかして葵今日そればっか考えてた?」
「考えてたよ…だめ?」
なんか今日はすごい素直になれてしまう
そんな自分が怖い
「くっそ…可愛いなお前」
先生が頭を優しく撫でてくれる
これが1番好き
こんなの、なんか久々で懐かしくて泣きそう
「先生ってあたしのこと嫌い?」
「あはははそれ絶対言ってくると思ってたわ」
先生が意地悪な顔をしてそう言った
「なんで?もしかしてわざと?!」
「わざとだよ!ちょっと距離置いたらどうなるかなって」
「最低!!」
「まぁでも、葵のことは嫌いになることないから安心しろ〜」
優しくてずるい声で、そう言うから、もうなんか泣きそうだった。
でもそんな空気を打ち消すように、先生は急にパッと手を叩いた。
「よし! じゃあ行くぞ!」
「え、は?なに?どこに??」
「ご褒美だよ!運動場行くぞ!葵サッカーしようぜ!」
「はぁああ!?なんでサッカー!!?暑いって!」
「うっさい!文句言うなほら、足動かせ足を!」
先生は教室を飛び出て走って行った
わけわからなさすぎて追いかけるしかない。
夕日が差し込む運動場で先生はサッカーボール片手に仁王立ちしていた。
思わず足を止める。
マジで子どもすぎる。この人何なん
「…足…早すぎだろ」
「ぎゃはははあおちん息切れしすぎ〜!!」
「これ先生が…サッカーやりたいだけじゃん……」
「気づいた?やっぱ葵は賢いな」
あきれながら先生に近づいて、そのまま先生に体当たりした
その瞬間、先生の腕が反射的にあたしを支えるように回って
そのまま、あたしは先生の胸の中に収まった。
幸せだ……
気まずそうに先生が一歩引いて、そっとあたしから距離を取った。
「いってぇなぁ!!!!」
「バーカ!!」
「はいはい、ごめんごめん」
でも、先生のその笑顔は
ずっと胸に残るくらい、嬉しそうだった。
「俺も2週間お前の補習付き合ってやったんだから、俺のご褒美が先だろ!!」
「それでも教師か!生徒の頑張りの方が先だろ」
「俺は8時半から待ってたのに一度も時間通りに来たことねぇだろ待ってたこっちの身にもなれっ!」
「なんも言い返せねぇ」
先生はあたしにボールを投げてきた
蹴ろうとしたのに空振りして遠くに転がっていく
「おおーい運動音痴ぃぃ!!雑魚がよぉぉ!」
「うっさい!!」
「足も遅せぇな!お前に何ができんだよ!!!」
何?!すごい煽ってくるんだが!!
まじでこいつうざすきる!!!!!
もう鬼だ
終わりだこのスイッチ入ったら誰も止められない
あたしはボールを追いかけて必死に走って、蹴り返してまた遠くに思いっきり飛ばされて…
まるで飼い犬の気分だ
「葵〜そろそろ面白くねぇぞー!
まともにサッカーも出来ねぇのか!!!」
「あんたが手加減しないからでしょ!!!」
先生はニヤニヤしながらまたあたしに強いボールを投げてきて、蹴り返せないまま遠くに飛んでった
さっきよりも遠い場所に転がっていって見失ってしまった
先生は動かずに仁王立ちして笑ってる
くそが!!!!
ただの拷問だよこれ!!!!
運動場の外れに転がって行ったのは見えたのに全然見つからない
しゃがんで探している時
「なにしてんの?」
「ひゃぁっ!!」
うわぁぁぁびっくりした!!!
急に話しかけてくんなよ誰だよ
あ、ダルっ玲斗くんだ
後ろから汗だくの玲斗くんが話しかけてきた。
「何その間抜けな声あははは」
「忘れて!!」
「てかなにしてんの?」
あたしの隣にわざわざしゃがんで話しかけてくる
「帰ろうとしてんけど、なんか葵が地面漁ってたから、何しとんのやろと思ってさ」
いや帰れよ!!帰ってくれお願いだから
「ボールが見当たらなくてさ」
「あ、先生にさっきいじめられてたなぁ笑
部室から見てたあはははははは」
「まじで勘弁して欲しいわあの人」
「葵も大変やなぁ」
すると後ろから足音が聞こえた。
振り向くと先生がいた
さっきまでの笑顔はもうどこにも無くて
無表情であたし達を見ている。
「葵見つかったかぁ?」
先生は珍しく低い声であたしに話しかけてきた。
「先生っ」
思わず声が小さくなる。
「レト、なんでいんの?」
先生は玲斗くんに、すんごい目つきで話しかけてる。怖いよ先生
「帰ろうとしたら、葵がしゃがみこんでたから、手伝ってただけっすよ」
「へ〜」
そう言いながら、先生は一歩こっちに近づいてくる。
その顔は笑って無くて少し怖かった。
そんな表情初めて見た。
「てかボールあそこにあるよ」
そう言って玲斗くんがボールを取りに行った。
最初から分かってんなら言えや!!!!!
そしたら先生が不機嫌にならなくて済んだろ!
「葵ってほんまドジやなぁ」
玲斗くんが、笑いながらあたしの頭を軽くなでた。
「手、どけろよ…」
低く、静かな声が響いた。
振り返ると先生が、鬼みたいな顔して立ってた。
「……え?」
あ、やばい
先生のオーラが怒りを漂わせてる
この空気感最悪すぎて、あたしも顔引きつってるよ
「へ〜仲良いんだなぁ2人ってはははっ」
さっきの言葉は無かったように先生が明るく言った。
腕を組んで玲斗くんを睨みながら
顔笑ってないよ
「仲良いっすよ、なぁ葵?」
「い、いやっ」
苦笑いすらできない
先生と玲斗くんの目がすごい火花が見えるくらいバチバチに睨み合ってる。
だめだ気まずすぎる
怖いです。今すぐ逃げたい。
「先生ってさ」
静寂を切り裂くように、玲斗くんが口を開いた。
「……なんで葵のこと、そんなに気にかけてるんですか?」
その質問怖いいい!!!
もう帰らせて!?お願いほんとに無理!!
「レトに関係あんの?」
「ありますよ?俺、狙ってますから」
玲斗くんはそう言って先生の目を見たあとこっちを見てきた。
へえええ??!ね、狙ってる?って言った???あたしのこと?ええええ?!もう、、え?なに?
まじでパニックすぎる
「あっそ勝手にしろ」
「じゃあ、手加減しませんよ?」
「取れるもんなら取れよ」
「葵行くぞ」
と、取れるもんなら取れよ…か
かっこよすぎんたろ!!!!なんだよそれ!!
先生はあたしの手を強引に引っ張られる。
「ちょ、ちょっと先生!? 痛いって」
「……今日で最後なんだから、あんま余計なもんに邪魔されたくねぇの」
余計なもんって……玲斗くんのこと……?
振り返ろうとしたけど、先生の手がすごく強くて、痛くて、気まずくて後ろを見れなかった。
「レト、ボール取りに行ってくれてありがとな」
先生は玲斗くんに振り向きもせず前を向いて言った。
校舎の中に入ると先生はあたしの腕を離した。
先生はあたしの1歩前を歩いてて、
教室に着くまでずっと無言。
すっごいイライラしてるのが伝わる。
教室に着くと先生は扉を閉め、ため息をついて教卓に寝そべった。
あたしはその前の席に座った。
重たい空気だけが、静かに流れていく。



