あたしが溺れてからもう2ヶ月が経った
先生は月曜のプールに遊びに来るって言ったのに1度も来てくれなかった。
仕事が忙しいとか何とかで



そういえばテストで余裕ぶっこいてたら赤点取りました。






7月上旬 金曜日 

「え〜明日から夏休みだな!今日は前半でやり残したことしっかりやって夏休みに入るように!テストで赤点とった1人のバカは夏休み学校来るように!以上ホームルームおわり!」



そうです私です赤点とったバカです
ほんとやらかしたわ
今回のテストもナチ達と一緒に勉強してて赤点とるわけないわとか余裕ぶっこいてたのに、
“絶対出る!”ってナチが言ってた問題、あたしも解いたんだけど、解釈が全部逆。テスト中で“これ正解だと思ってたの全部間違いじゃね?”って気づいたときは解答返される1時間前。
10点だった。地獄すぎる
ナチは満点なのに!!!
一番ヤバいのが赤点とったの国語だったんだよ


「葵おつかれぇぇぇ!!!」

ナチが煽るように満面の笑みでこっちに向かってくる
100点の余裕がすごいムカつくわぁ!!


「まじでありえねぇ〜」

「まぁまぁほかの教科回避したんだしいいんじゃないの?」

「それでもいやだよぉ!」

「でも夏休みも先生に会えんじゃん!どうせ2人になったらイチャイチャするくせに〜」

「しねぇし!!夏休みまで学校なんか来たくねぇよ!!」

「あひゃひゃ葵抜きでナナらとお泊まりしとくわぁ」

「いやそれは行かせて?省かないで?」

「とりあえずプール行こーぜ!」

今日はプールの授業が最後ということで牛沢先生から最後だけは入ってくれと言われた
普通に嫌です牛沢先生!!


水着に着替えて、プールサイドに立った
怖いです!!足が振るえます牛沢先生!!!


葵「はぁぁ溺れるんだ今日も」

ナチ「またあたしが助けてやるよ」

牛沢「よし前列は入って泳いでいけよ〜坂木は無理すんな〜」


ちょっと名指しやめれる!?恥ずかしいわ!!


ナチ「あんたなら大丈夫だよ」

そう言って肩を叩かれた
怖くない怖くない!

今日は暑すぎて水がぬるい
お風呂みたいでいいかも
でも心臓がバクバクするはぁ死ぬかも

実は先々週の月曜日に入った時は足入れただけで溺れたのフラッシュバックしてパニックになって見学したんだよな…

あぁ怖ぇぇ


だけど弱い自分に打ち勝つために肩まで入ることに成功した

葵「よっしゃ!」

牛沢「坂木顔つけれるか?」

葵 「が、頑張ってみます」

息を思いっきり吸い込んで顔を水につけた

意外といけるかも!!

牛沢 「おおお!!出来た!いいじゃん!」

葵「あたし泳げるかも!!」

牛沢 「足つくとこだけにしろよ〜無理すんなよ絶対」

葵「天才だから!!大丈夫!」

そう言って、もう一度肩まで浸かる。
水が顔にかかる感覚も、もう前ほど怖くない。

(いける…!いける気がする!)

ちょっとだけ顔を水につけて、手をバシャッと動かして――


ナチ「え、ちょ、調子乗んなって!」

葵「いけるいける!やっぱり天才だから!!」



調子に乗って足をバタバタさせて、前に進もうとした瞬間――

ズルッ!
足が思ったよりも滑って、体が横に倒れた。

「わっ!?ぐわぁぁ!!」

ドボン!!
思いっきり顔から水の中に突っ込んだ。

ナチ「ちょ、おい!!大丈夫!?」

葵「ブハッ……うえぇ……鼻に水……いったぁ……!!」

息もしずらくて、プールの縁にしがみついてると、どこかから聞こえた声。

「天才だからって言ってたの誰だっけ?」

「へっ!!?」

顔を上げると、
あたしの目の前でしゃがんでこっちを見てる清川先生の姿が目に入った

「よっ葵!」
「お前はほんと相変わらずドジだな〜」

「ぎゃぁぁぁ!!!!先生っいたの!!?」

「あははははバケモン出たみたいな声出すなよ」

「なんでいんの!!!!」

「今日うっしーにお前が最後に泳ぐって聞いたから最後は見に行ってやらねぇと思って時間作ったんだよ」

「へぇー!!先生も入れば?」

「そうだなそうするわどけ」

先生が立ち上がると短パンと半袖を着てて、普段出さない白い手足が目に焼き付く、てか細すぎる


周りの先生ガチ恋勢からも悲鳴が上がる


初めてみる姿にあたしも少しドキドキした


先生がプールサイドのヘリにタオルとペットボトルを置いて、
「どけって言ってんだろ」と、ニヤッと笑いながら言った

そしてそのまま――

バシャーン!

軽く助走をつけて、飛び込んだ

牛沢 「おいキヨ!飛び込み禁止だぞ!!」

キヨ「ぎゃははは楽しいっ!!」

牛沢 「他の生徒が真似したらどうすんだよ!」

キヨ 「あはははすまんすまん!」
いや微笑ましい何だこの絡み



てか先生近い!肩当たってんだけど
普段はこんなの何も気にならないのに

すんごいドキドキする
なにこれ、多分今めっちゃ顔赤い


動揺してるのをバレないようにしようと距離をとろうとするけど、
水の中って、なんでこんな逃げにくいの!!

「……顔、赤いぞ?」

「へ!? チガイマス!ヒヤケダヨ!」

「その短時間で日焼けは無理あるだろしかもカタコトなんやめろ」

そう言って、あたしの額を濡れた手でツン、と突く。


ガチ恋勢からの視線が痛い痛い



「いやでもお前すげぇなここまで成長してんのやべぇよ」


「だってあたし天才だもん」


「そんなこと言ってから溺れんだよ」

「うるさい!!フラグ立てんな」

「今日はずっと葵の事見てるからな!!」


「キモっ!」

「はいはい、キモい教師でーす」

そう言いながらも、どこか嬉しそうな先生に、
こっちまでつられて笑ってしまいそうになる。

でもそのとき――

ナチ「ちょっとぉぉぉ!!!イチャイチャすんなら隅っこ行ってやってもらっていいですかぁぁぁ!?」

ビシャァッ!!

思いっきり水をかけられて、ふたりして顔面びしょ濡れ。

キヨ「おいコラ!俺先生だぞ!?」

ナチ「あたしは生徒だぞ!!」

「いや意味わかんねぇよ!」

そのやりとりに、周りの子たちも笑い出して、
なんだかプール全体が温かい空気に包まれた。


「何泳ぎだったら出来んの?」

「まず泳ぎ方しらないよ?」

「は?」

「は?」



先生が「マジかこいつ」みたいな目でこっちを見てくる
マジです私はいつだって!!


「おっけいわかったこの優しいきよちん先生がが平泳ぎについて教えてやるよ」

「自分で優しいって言うなよ」


「じゃあ“カリスマ水泳講師”ってことでいい?」

「余計うるせぇわ」

ニヤニヤしながら近づいてくる先生に、
心臓がバグるのが自分でも分かる。
水より熱いこの距離感どうにかしてほしい。無理。

「まず、手はこうやって前に出して――」


先生が、自分の手を前に出して動かして見せる。
それがめっちゃキレイで、なんか本物の先生っぽく見えるのがムカつく。


「ほら、真似して。両手、前」

「えこれ?こう?」

「ちがーう、もっと肩を落として」


そう言って、あたしの背後にまわる先生。


「ちょっ……!」


後ろからそっと手を添えられて、腕の位置を直される。

これ興味無い先生にされてたら普通に引くわ



「ここと、ここ。そうそう、手のひらは内側。いいじゃん!!!出来たできた偉い!」



――ドキッ。

ねぇ近すぎん!?距離感どこ!?てかその低い声のトーン反則でしょ!!!しかも耳に息かかってるよ!!!!

緊張して固まるあたしに、先生が少し顔を覗き込むようにして、


「ほら、目そらすなよ俺ちゃんと教えてるだけなんですけど〜?何ドキドキしてんの〜?」

「わ、わかってるし!見てるし!ドキドキなんかしてねぇし!!」


目合わせると死ぬほどドキドキするからやめて!!

そのまま、今度は足の動かし方へ。


「で、次。足はこうやってキックする。膝を外に開いて、こう……って、見てんの?」

「いやちょっとむずい……あたし身体固いからさ」

「そんなん言い訳だな〜。まぁいっか、今日のとこはフォームだけで合格」

「えっ、なにその緩い基準」

「国語で赤点とってる奴に厳しくしても仕方ないだろ?」

「は?それ今関係ないでしょ!?」

「ご褒美みたいなもんだな」

「は???」


にやにやしながら言ってくる先生を溺れさせたくなる


ナチ 「ちょそこのカップル!!公共の場でイチャイチャしすぎだよ!!」

葵 「カップルじゃねぇよ!!」

先生「板倉こいつまじで泳げねぇんだなおもしれぇぎゃははははは」

ナチ「でも溺れてるとこ助けたい〜とか思ったでしょ〜?」

先生「いや溺れたらお前が助けるって言ってただろ、あれ任せたから」

葵「いや人任せやめて?あんた先生だろ!?」

牛沢「板倉〜クロール測るぞー!!来いよー!」

ナチ 「はーい!行ってくんね!」

葵 「頑張ってねー!!」


ナチがクロールしてコースに向かっていった
やっぱりすごいなあたしの友達は


「よし!俺らも泳ぐか!!」

「任せろ!!」

「さっきの意識しろよ」

先生の声にうなずいて、もう1度全身水に浸かる。

さっきのフォームを思い出して――


ゆっくりだけど、ちゃんと進んでる!

おおっ、泳げてる!!やばい、楽しい!!


「おお〜!フォーム悪くねぇじゃん!」

先生の声が聞こえてくる。



ちょっと調子に乗って、思いっきりキックをした――

その瞬間、身体がグンッと前に進んで。

「――あっ」

プールの底にあった“安心できる足場”が、スカッと消えた。


あれ、届かない?



慌てて足を下ろそうとするけど、何にも当たらない。
心臓がバクン、と跳ねた。

「せ、せんせっ」

そのまま体勢を崩して、水中に頭が沈む。

バシャッ!!

「けほっ……うぇっ、ぐっ……」

一気に鼻と口に水が入って、息ができない。


水が冷たくて、怖くて、死んじゃうっ

やばい、また……また、溺れてる……っ



呼ぼうとしても、喉が水を含んで声にならない。

肺が苦しい。
音が遠ざかる。
まぶたが重たくなってきて、何も見えなくなる

「葵!!」

先生の声が遠くの方から聞こえる

水中から一気に引っ張られて、だけど怖くて目を開けれない

「けほっ……!せ、んせ……っ」


「落ち着け!葵、大丈夫だ、吸え!息吸え!!」

必死に背中をさする温かい手の感触。
先生に抱きかかえられてると気づいたのは、やっと息が整ってきた頃だった。

気づくと私は泣いていた

「お前、ちょっと調子乗りすぎなんだよ……バカ……!」

見上げると、顔をしかめて濡れた前髪をはらった先生がいた。

「……せ、んせっごめんっ……?」

「黙っとけもう喋んな」

牛沢 「坂木っ!!!大丈夫か!!」

牛沢先生が焦ってる声でそう言った
過呼吸で返事が出来ない

周りもザワザワしてるし

先生「一旦保健室連れてく、授業進めといて」

牛沢「ありがとな頼んだぞ!」

プールから上がると私はお姫様抱っこされていた

きっとみんなの視線がこっちに集まってる

怖い。だけど今はそれどころじゃない
上手く呼吸が出来ない


「もう大丈夫だからっ落ち着いて息吸え!!」


それでも息が吸えない、目もチカチカしてきた
意識が飛びそう


「深呼吸して、ゆっくり、俺と一緒に」

呼吸の仕方ってどうすればいいんだっけ
パニックになっててもうわからない

「あっ……うっ…」

「葵っ意識だけは飛ばすなよ!」

先生が全速力で走ってる中あたしは必死に息を吸った。




保健室で__

先生はあたしをソファに座らせた

もう落ち着いてきて手の震えも無くなった



「もう息ちゃんとできるか?」

「できたっ」

「偉いっ」
「はぁまじで死ぬかと思ったわくそっ」

「ごめんねっ?ありがとね?先生がいなかったらあたしっ」


そう言った瞬間、

――ぎゅっ。

不意に、先生の腕の中に引き寄せられていた。

「……っ、え……?」

「……ごめん……っ、ほんとごめん今だけだから許してっ……」

先生の声が、耳元で震えてる。

「俺が……ちゃんとついててやんなかったから……お前、また溺れたんだよな……」

その言葉に、先生の腕に力がこもるのがわかった。

「“調子乗んなよ”って止めることもできたのに、葵のこと、ちゃんと見てやれてなかった」

あたしの頭を、ぎゅっと抱き込むようにして、先生の手が震えてる。

「……ごめん……俺が一緒にいれば、こんなこと……」

「……先生……っ」

思わず、あたしも先生の背中にそっと手を回す。

「先生が来てくれたから、助かったんだよ?」
「だって……先生の声、聞こえたもん」
「“吸え”って、“大丈夫”って言ってくれて……それで、息できたんだもん……」

先生の肩に顔を預けながら、小さくそう呟くと、

「……バカ……」

先生が吐き捨てるように言った。

「……でも、そんなバカが……無事でよかった、天才のくせに溺れてるけど」

「……おい一言余計だよ」

少しだけ、先生の声が涙をこらえているように聞こえた。

けど、それを隠すようにわざと茶化してるのが分かったから――
なんか、胸の奥がキュッとなった


腕の中は、あったかくて、ちょっとだけ苦しくて、
でもどこよりも安心できる場所だった。

ドキドキするけど安心する方が強かった

あたしの髪に触れながら、呟く先生の声を、
あたしは胸の奥に強く焼きつけた。

先生の腕の中は世界でいちばん安心できる場所で、
静かに、涙が溢れた。
その涙を先生が拭いてくれる


あたし先生と結婚したい。



落ち着いたのか先生はあたしから離れた


「みんなに見られちゃった、先生にお姫様抱っこされてるの」


「見せとけよ“教師が生徒助けた”って美談になるだろ?」

「それ先生の株あげたいだけだろ!!」

「当たり前だろ」

「クソ教師が!」

「まぁ冗談だけどよ」

「あぁあたし先生のこと好きなガチ勢からいじめられそう」

「おれが警備しといてやるよ」

「それはそれでなんか言われそう」

「俺のこと好きなやつはお前だけで十分だわ」


そう言って先生は耳を赤くしながらあたしの頭を撫でた


「うっ…//」

「なんか言えよ!恥ずかしいだろ!」

「あたし先生のこと好きじゃねぇし!!」

「あーそうかよ!」


先生が拗ねてるちょっと可愛い!!


「へくしゅん!!」

「あ、そうだよな寒いよな、着替えに帰るか」

「動きたくなーい」

「はいはいおんぶでも抱っこでもお姫様抱っこでもやりますよ〜わがままお嬢さん」

「じゃあおんぶで」

「おっけいわかった」


そう言ってあたしを肩に担いだ


「え、ちょ!!!違うって!!下ろして!!おかしいだろ!!」


あたしは足をばたつかせた

てかおんぶも抱っこもお姫様抱っこも教師と生徒が普通にしてたらダメなんだって



「暴れんなって」

「ちょほんとにあたし多方面から殺される!」

「俺も教師クビになりたくねぇわ」



そう言って先生はソファにあたしを下ろした



「はぁ怖かった」

「お前軽すぎだろもっと飯食えよ」

「先生に言われたか無いわ」



そう言ってあたし達はプールに戻った