「…んんっふぁぁ」
チャイムの音で目が覚めた
快眠すぎて久々に目がスッキリする
今の時刻は15時30分
今6限終わったんか、そろそろあたしも帰らないと
ん、待って、すごい いい匂いする
まって机ににあたしの好きなジュースとかお菓子とかがめっちゃ置かれてんだけど笑笑
その置き方も花瓶の周りにお供え物みたいな感じで置かれてる。嬉しいけどさあいつら!!!
写真を撮ってインスタのストーリーに載せる
『生きてます。供えないでください』
って文字つけてナチとナナとアリサをメンションしてストーリーにアップした。
片手でジュースを取ってひとくち飲む。
炭酸が喉にしみる。生きてるって感じがする。にしても美味しすぎる
制服の袖をまくって、ポテトをつまむ。
なんかこういう優しさってすごい沁みるな。
帰ろうとして立ち上がったとき、ふと、ドアの方から気配を感じた。
「……あ、牛沢先生?」
振り返ると、そこには牛沢先生が立っていた。
「起きてたか。…様子見に来た大丈夫か?」
「……お見舞い?」
「まぁ、そんな感じ」
そう言って、先生は小さな紙袋を差し出した。
中にはあたしの好きなコンビニスイーツが入ってた。
「キヨからお前の好きなもん聞いたんだけどポテトは買えなかったから、それで許せ」
「神様ですか?」
「調子乗るな」
「あはははありがとう」
先生は、保健室の窓際の椅子に腰かけて、腕を組む。
「無理に泳がしてごめんなよく頑張ったな。ほんとに」
「……死ぬかと思いましたけどね?」
「まじで焦った。俺も久々に飛び込もうかと思ったし」
「そしたら二人で溺れてたかもね」
「アホか」
こうやって牛沢先生と話すの初めてかも
「坂木もう帰る?」
「あ、はいそろそろかなって」
「もうちょいいれば?」
んんーなんで?気まずいって
「もう帰りたいです…」
「あと5分でいいから」
牛沢先生は少し焦ったようにそう言った
誰か来るんかな?玲斗くんとかだったら全然嫌なんだけど
「……え、なんか来るんすか?」
嫌そうにに聞くと、先生はバツが悪そうに目を逸らしてから、軽くため息をついた。
「まぁ、来るっちゃ来る。ていうか多分もう来てる」
「え?」
その瞬間、保健室のドアが勢いよく開いた。
「あおちん生きてるかァァ!」
「うわぁぁぁきよちんんん!!!!!」
まさかの先生がきた
予想もしてなくて思わず
ナチたちと話してるノリで呼んでしまった。
「お前がきよちん呼び珍し、頭打ったんか?」
「うざ」
「じゃあ俺は帰るわな」
「連絡くれてありがとな」
「おう2人で仲良くしろよ〜」
「あははは仲良くねぇわ」
そう言って牛沢先生が出ていった
時間稼ぎしてたのも納得した
多分あたしが溺れたのを先生に言ってお見舞いに来てもらったんだ。あたしが喜ぶの知ってるから
あの人どこまでいい人なんだよ
「あー生きててよかったわ」
「まだ死なねぇよ」
「まじで…心配したわ」
先生が片手で顔を隠して少し照れた様子でそう言った
あたしは一瞬、言葉が出なかった。
いつものふざけた調子じゃなくて、声が少しだけ震えてるのが分かった
「なんかごめん」
小さくそう言うと、先生はすぐに「なんで謝んだよ」と返した。
「うっしーから連絡来た時まじで俺が死にそうになったわ」
「逆だろ絶対」
「俺の心の友がいなくなる!って思ったんだよ」
「なにそれ……そんななキャラだったっけ?」
「違ぇよ、感情が高ぶっただけだっての」
そう言いながら、先生は後ろ頭をぼりぼり掻いて、そっぽを向いた。
でも耳、ちょっと赤くなってる。
「……けどまあ、冗談抜きで怖かったのはマジ」
「うん、あたしも怖かった」
しん、と一瞬だけ保健室が静かになった。
あたしと先生が、ただ目を合わせる。
それすらも幸せ。
土日も会えるはずがなくて、今までずっと会いたかった人が目の前にいる。あたし先生のこと好きすぎるわ
「……あーもう、だめだ」
先生が立ち上がったかと思うと、突然あたしの頭にぽんっと手を乗せて、軽く撫でた。
「生きてて、ほんとによかった。あぁもう言わねぇ恥ずかしわ」
「ふっ……」
「ふってなんだよキモイぞ」
「殺すぞてめぇ」
先生と何気ない会話をするのが1番楽しい
嫌なことも怖かったことも全て飛んでいく
こうやって先生と生徒の関係を忘れてしまえるくらいの先生はこの人しかいない
目が合って笑い合うこの時間を一分一秒大切にしたい
「なに?そんな俺のこと見て惚れ直した?」
「きもっ調子乗んなよ」
「はいはい、照れんな照れんな〜」
先生はニヤニヤしながらイスにどかっと座り直すと、足を組んで天井を見上げた。
あたしはその顔を横目で見て、またポテトを一つつまむ。
「でもさ…」
あたしはポテトを食べながら言った
「もしまたあたしが、なにかでパニクったりしたらさ、その時もいてくれる?」
「なに急に。ポテト食いながら言うことかそれ」
「いいから答えてよ」
「……」
先生はしばらく黙ってから、こっちに目線を向けた。
「当たり前だろ。俺、どんだけお前の面倒見てんだと思ってんの」
「うわ、恩着せがましい」
「お前が聞いたんだろが」
言い合いみたいになって、ふたりでまた笑った
「じゃあ俺月曜日の3.4限暇だし遊びに行こうか?お前のこと見張れるし」
「え、いやあたし次からもう泳ぐなって言われたんだが」
「え〜俺泳ぎたかったのになぁ」
「生徒より生徒すんなよ」
「教師は生徒と楽しんでなんぼなんだよ」
「じゃあ月曜だけ泳ごうかな」
「うっしーに言っとくわ、すぐ保健室連れてけるようにしとけって」
「溺れる前提なんやめろ」
「葵ドジだからなぁ」
「ドジじゃねぇし!!!運動神経悪いだけだし!!」
「それをドジってゆうんだよ」
そう言って先生はあたしのおでこにデコピンした
「いでっ!!!」
「あ、そういえばSwitch返すわ」
Switchを見たら前勝手に怒って帰ったことを思い出してしまったははぁ
「あ、気まず」
「なんかごめん俺のせいで」
「いやもう、わすれて?記憶から抹消して?」
「あははは出来ねぇだろ」
「てかそういえば麻央ちゃんどうだったの?」
話題を変えることに成功した!
けど先生の顔が暗くなっていく
ミスったな
「んーなんか放心状態だった、話せる状況じゃないというか、全て諦めた顔してた」
「…あたしの、せいか」
「ちげぇよ」
そう言ってあたしを安心させるように頭を撫でてくれた
「麻央のお母さんから聞いたんだけどもう転校するらしい、最近昔あったいじめのせいで友達ができないとかなんとか」
「いいんだか悪いんだかまぁ何も被害が来なくていいけど」
「もっと俺が……俺が見放さなかったら…」
「先生それは違う」
「俺が拒絶したのが悪かった?」
先生の目がうるんでて、もう泣きそうで。
抱きしめたいって思った。けど、そんなことできるわけない。
先生を救ってやりたいのに、どうすればいいかわかんない。
「……先生」
「好きな人に拒絶されたら誰だって壊れるよな」
「やっぱ教師失格だな、俺は」
「後先のことなんにも考えてなかった」
「麻央のことならなんでもわかってると思ってたっ」
次はあたしが先生の頭を撫でてあげた
その瞬間から先生の涙は溢れ出して止まらない
ずっと我慢してたんだね
「だれもこうなるなんて予想つかないよ」
「先生は教師としてやるべきことをちゃんとやったんだよ」
「あおいっ」
先生が絞り出すように、あたしの名前を呼んだ。
その声はかすれてて、今にも崩れそうだった。
先生は泣きながら、子どもみたいに顔を歪めて、俯いたまま拳をぎゅっと握っていた。
そうやってすぐ我慢しようとするんだ
「……俺、自分で選んだくせに…まだ引きずってんのかもしんねぇ」
「選んだこと、間違ってなかったよ。だから泣いてもいいの」
「俺、間違ってなかった……?」
「誰だってみんな先生がした選択を取るはず、あたしだってそうするもん」
「あんなにしつこくされても、しっかり対応してた先生はすごいよ」
先生は無理やり笑顔を作った
「あー今の俺めっちゃだせぇ」
「たまにはいいじゃんあたしらしかいねぇしさ」
「だからそんな笑顔作んないでよ」
「っ…くそっ」
また先生は泣き出した
でけぇ子どもだなほんと
「ちょっとごめん今だけ許して」
先生の頭をそっと引き寄せて、あたしの胸に預けさせた。
鼓動が早くなってるのが自分でもわかる。でも、今はそんなのどうでもいい。
少しでも、先生の気持ちが軽くなるならそれでいい。
先生の耳が赤くなっていく
あたしも今顔真っ赤なんだろうな
「お、おっぱい」
「きっしょ!!!お前殺すぞっ」
先生はきっと照れ隠しにそう言ったんだと思うけど流石にビンタした
「いってぇぇパンチングマシーン優勝だろお前」
「きもいほんと無理まじできもい」
「あはははははごめんごめん」
先生が笑顔で謝ってる
むかつくわ〜
「泣いてるくせに、調子乗んなよ」
「泣いてねぇし、汗だし」
「なら今すぐ病院行け危ねぇわそれ」
少しでも、先生の気持ちが軽くなるならそれでいい。
「でもありがとな泣き止んだわ」
「任せろ」
「さっきの……全部。お前がいてくれて助かった」
あたしは一瞬、何も言えなかった。
だってこんなふうに真っ直ぐ感謝されるの、思ってなかったから。
「それ、録音しとけばよかったわ」
「なんでだよ」
「後で何かあった時に再生して、“ほら!先生があたしのこと必要って言った!”って証拠にすんの」
「お前性格悪ぃな~」
「ぐふふふ」
「笑い方きも〜」
「てかもう5時だぞそろそろ帰るか」
「先生これから仕事?」
「そうだよ残業ですよ」
「可哀想に」
「何、送って欲しかった?」
エスパーかこいつ
「別に?」
「沢尻エリカか」
「それおもんねぇんだよ」
「校門までなら送ってやるよ、感謝しろよ」
「うわぁだる」
「じゃあひとりで帰れよ?」
「ふん!知らないもん!」
「拗ねんなって送ってやるから」
あたしはバッグを手に取って立ち上がる。
先生もゆっくり腰を上げて、ちょっとだけ伸びをした。
「ほら、行くぞお嬢さん」
「うるせぇわ執事かよ」
「執事ってか……保護者?」
「じゃあ“娘に手を出してる保護者”ってことで大問題じゃん」
「まだ手だしてねぇよ!!」
「え、いつか出されんの?!え、、怖っきもっ!」
「はぁぁぁ」
先生がため息をついてからちょっとだけ笑って、頭をぽりぽり掻いた。
あたしはその姿を見て、内心すごく嬉しかった。
やっと、さっきまでの暗い表情が消えたから。
廊下はもう静かで、夕陽が窓から斜めに差し込んでいた。
その光に先生の背中が照らされて、やけに頼もしく見えた。
校門までの数分が、なんかやたら短く感じた。
たぶん、この人と歩いてる時間が楽しいからだと思う。
「じゃ、ここでお別れですか?」
「そうですね〜名残惜しいですね〜」
「明日からもまた学校あるんでね〜」
「は〜〜教師ってブラックだね」
「お前がブラックなことばっか起こすからだろーが」
「それ、わたしが元凶ってこと?絶対違ぇだろ」
「ほぼ正解」
「じゃあ正解でいっか」
「わぁ認めた!!」
ふたりで笑い合って、ちょっとだけ沈黙。
その沈黙が、なぜか居心地悪くなくて、むしろ落ち着くのが不思議だった。
「じゃあな、葵」
「うん……先生も無理しないでね、仕事」
「おう、また明日な」
帰り際、先生があたしの頭をぽんっと軽く叩いた。
それだけで、一日の疲れが全部吹き飛んだ気がした。
先生が背を向けて歩いていく背中を見送ってたら、思わず口から出た。
「先生っ」
「ん?」
振り返ったその顔に、
あたしは小さく、でもまっすぐに言った。
「大好き!!!教師だろうがなんだろうが!!!」
先生は一瞬、ぽかんとしたあと、
「は……あ〜〜〜〜〜やっべぇ、今ならなんでも出来る気がするわ!!!」
って、笑いながら顔を隠した。
その赤くなった耳を見て、あたしは勝った気分で走って家に着いて布団に横たわった
「んん!!!恥ずかしいぃぃ!!」
あたしは足をばたつかせてそう言った
明日も明後日も先生に会いたい



