朝起きると、こーすけはもう学校に行ってて、リビングのテーブルにはおにぎりラップで包まれて置いてあった。
「……ありがと」
呟いた声は、部屋の中で静かに消えてった。
電車の中も、登校中の坂道も、あたしの頭の中はぐるぐると昨日のことばっかり。
“明日から学校行くの嫌だな”って思ってたけど、行かないわけにもいかない。
それに、先生に会いたくないとかよりも、今は麻央ちゃんのことの方が、正直、怖かった。
教室のドアを開けた瞬間、空気が少しだけ揺れたような気がした。
たくさんの視線
それが全部、あたしに向いてる。
「……な、なに?」
知らない。そんな目で見られる理由、なんにもない。
そう思いながら自分の席に向かっていくと、
「ちょ、ちょっと葵!!」
ナチの焦った声が後ろから響いて、振り返るよりも先にナナとアリサも手を引いてきた。
「ちょっと!とりあえず出よ!!教室から!!」
「え!?なに?」
無理やり教室を引きずり出されるみたいにして、廊下の隅っこ。
誰も通らない階段の裏に連れて行かれて、ナチがあたしの両手を握ってこう言った。
ナチ「……葵、先生と手繋いだん?」
あたしの心臓が、ドクンって跳ねた。
「なんでっ?」
なんで知ってんの?
知らないふりなんてできるはずもない。
でも、ナチの目が、本気であたしを見ていて、冗談を言ってる顔じゃなかった。
ナナ「今クラス状況は、葵と先生が手を繋いで帰ってたって噂が流れてる」
アリサ「それでキヨにガチ恋してる子とか泣きだしてさやばかったよね」
葵「はぁ」
来なきゃ良かったわ
こんなことになるなら
ナチ「うちらには話せるでしょ?正直に答えて?」
葵「繋ぎました。」
ナナ「付き合ってはないんだよな?」
葵「さすがにない」
ナチ「じゃあなんで繋いだん?」
葵「なんで…暗くて怖かったからかな」
葵「けど繋いだの隠してた訳じゃなくてっまた今度落ち着いたら言おうと思ってて」
なんであたしこんなに焦ってんの…
アリサ「あおちんはキヨのこと好きなの?」
葵 「好き……じゃない」
ナナ「今の貯め方はそれ好きだよ」
ナチ「葵自身、気持ちの整理まだついてないぽいね」
葵「もうどうしていいかわかんないんだよっ!」
思わず取り乱してしまった
昨日からずっと考えて悩んで結局解決できなくて
それで朝からこんなことになって、どうしたらいいんだよ
葵 「先生を好きになるなんてありえないでしょ、それに放課後に先生と遊んでるのもなんか急に変に感じてっ」
思わず耐えれなくて泣いてしまった
ナチが頭を撫でてくれる。あたしはひとりじゃないんだ、最初からこうやって友達に聞いてもらえば良かったな
アリサ「葵さキヨの話する時とかキヨと遊びに図書室行く時めっちゃ笑顔になるの自分で知ってた?」
葵 「そうなの?」
ナチ「あおは、隠し事下手だから好きなんだろなってうちら気づいてたよ、でもあおは頑なに否定するから自分の気持ちに気づいてないんだろなとか思って」
葵「あたし先生のこと結局好きになっちゃたってこと?」
アリサ「じゃあいつも目で追って、気づいたらその人のこと考えて、触れたらドキドキして、他の人と話してたらムカついたり、苦しくなる?キヨとは」
葵「な、なります。」
これが好きだって気持ちだったんだ
ほんとにあたし先生のこと好きだったんだ
けど認めたくなかった
葵「だけど、おかしいってそんなの…先生だよ?」
ナチ「所詮人間なんだし先生のこと好きになるくらい普通だと思うよ?」
ナナ「それな」
アリサ「誰にも言ってなかったけどうっしーのこと一時期好きだったよ」
ナチ「ええええー!言えよそれ!!超いいじゃん!!」
アリサ「けどさうっしー既婚者だって知って引き下がったんだわ」
ナナ「あれにガチ恋したら抜け出せなくなりそうだな」
アリサ「ほんとそれ」
ナチ「葵、アリサみたいに先生を好きになるのなんて普通のことなんだよ」
認めていいのかな、まだ自信が無い
だけど誰かと付き合ったら、結婚したらすごく嫌
あたしが先生の隣にいたいと少しは思う
はぁなんなんだよ、
ナチ「てかさ、とりあえず噂の件はウチらがなんとかするから安心して?」
ナナ「“繋いでない”ってウチら全力で言い切ったら収まるっしょ!証拠もないし」
アリサ「逆に『そんなことあるわけないじゃん』って笑い飛ばしとくからさ」
葵「……ほんとに、ありがとまじで助かるみんな大好きだよっ!」
ナチ「葵がバカ真面目にそんなこと言ったらなんかキモいな」
葵「おい」
ナチ「まぁ葵がひとりで全部抱えて泣くとか、うちら的にマジ許せんから次からは絶対相談して?」
ナナ「うちら、あんたの味方だからさ」
アリサ「あたしら葵の心の友だろ?」
最初から相談すればよかったんだ
一人で考えた時は受け入れられなかったのに
ナチ達に聞いてもらったら少しずつ受けいられるようになった
自分で抱え込んで、勝手に決めつけて、傷ついて、避けて。
バカみたい。全部、今さら。
でも、好きになったって気づけただけ、ちょっと前に進めた気がする。
葵「ありがと、うちらって最高」
ナチ「うちら最強!」
アリサ「え〜!次は図書室でキヨと何かあったら即報告な?」
ナナ「ちゃんと実況中継してくれなきゃ嫌だから」
葵「実況て笑あたしそんな余裕ないと思うけど」
ナチ「てかキヨの方も絶対葵のこと好きだろ」
アリサ「それなじゃなきゃ手なんか繋がねぇよな」
葵「それは有り得ねぇって笑笑」
4人で笑いあったその瞬間だけ、少しだけ空気が軽くなった。
まだモヤモヤしてるけど、ちょっとだけ前に進めた気がする。
ナチ「でさ、噂がどっから出たんか気になってんけど…あおがキヨと手繋いだの知ってんのって、今うちら以外だと誰?」
葵「麻央ちゃんしかいない」
全員の表情が一瞬だけ、ピリッと強張った。
アリサ「……マジかぁ。あの子か……」
葵「麻央ちゃんのこと知ってんの?」
アリサ「あいつ有名だぞ知らない方が少ないんじゃね?」
ナチ「それは確定なん?」
葵「あの子以外にありえないんだよ」
ナナ「麻央って2年お姫様みたいな子だよな?」
アリサ 「そうめっちゃタチ悪いよあの子」
葵「ほんとめんどくさいことになってんだよな」
ナチ「……でもさ、あの子ってキヨに助けてもらったことあるって話じゃん? なんか、それでめっちゃ依存してるってうち聞いたけど」
ナナ「なんかキヨと付き合ってんじゃね?みたいな噂も去年あったよな」
アリサ「てか、ちょっと前も“先生が他の子と仲良くしてたらヤバくなる”って、誰か言ってたよ。多分あれ、葵のことだったんだよ」
葵「全く知らんかったわ、人間が1番怖ぇ」
アリサ「まぁ2年だし関わらねぇもんな」
怖い。けど、向き合わなきゃって思った。
ナチ「ま、何かあったらすぐ言って?あたしらがついてるから」
葵「ありがとみんなお節介でちょっとうざいけど、まじ感謝してる」
ナチ「は?今“うざい”って言った?聞こえてんぞ」
アリサ「でたツンデレあおちん」
やっと冗談も挟めるようになった
あたしやっぱ友達大好きだわ
先生ともし出会ったら昨日のこと謝ろ
なんかワクワクしてきた!!
あたし単純なんだな
でもそれでいいのかも。
ちゃんと「好き」って気づけたから。
認めた瞬間、苦しかった気持ちがほんの少しだけ軽くなった。
ナチたちのおかげだ。
ナチ「そろそろ一限始まるし戻るか」
ナナ「あ、一限水泳だわアリサ」
アリサ「水着持ってきてねぇ」
ナナ「私もだよ」
葵「さぼるんじゃねぇーぞ」
ナナ「マックいく?」
アリサ「いや今日はうっしーの顔拝んでくるわ」
ナチ「あははかっこいいもんね行ってらっしゃい」
ナナ「じゃあまた昼休みな〜!」
葵「ばいばーい!」
そう言ってあたしとナチは教室に戻った。
教室に入るとまだ視線は痛い
ナチ「言いたいことあるんだったら面と向かって言えよ女々しいヤツらだお前ら」
ナチがクラスの子達に言った
みんなザワザワしてる
1人のクラスの子が「清川と付き合ってんの?」と言った
ここでキッパリあたしから言わないとダメな気がした
「付き合うわけねぇだろそんな噂信じて何になんだよ」
そしてまた他の子が「でも手繋いだの見たって奴がいんだよどう説明すんの?」と言った
「じゃあ証拠あんのかよ?繋いだ証拠だせよ早くおい!」
クラス中が一瞬、シン……と静まり返った。
あたしの声が思った以上に大きくて、みんなが息を呑んだのがわかった。
その静けさの中で、誰かがごにょごにょと口を開く。
「……いや、見たって言ってた奴はいたけど……その、証拠って言われたら……」
「無いんだろ?じゃあ終わりじゃん、その話」
あたしが言い切ると、教室の空気がまた少しザワッと揺れた。
でもさっきまでの「噂で騒ぎたい空気」から、ちょっとだけ「もう引くべきかな」って雰囲気に変わった気がした。
ナチがすかさず被せるように言う。
ナチ「つーか証拠もないくせに人のこと悪く言ってんのマジでダサすぎだろ」
あたしは、深呼吸を一つしてから、もう一度クラスをぐるっと見渡す。
「……勝手に噂して、勝手に怒って、ほんと意味わかんないんだけど。あたし、誰とも付き合ってないし、先生とだって何もないから。勘違いすんなよただの噂で」
少しだけ震えてたけど、それでもあたしの声はちゃんと届いた気がした。
その瞬間、誰かが小さく「……まあ、そうだよな」とつぶやいて、
それを機に、クラスの空気がゆっくりと通常モードに戻っていった。
机に戻るとき、ナチがポンっとあたしの背中を軽く叩いた。
「よく言ったじゃん偉い!」
「ははっありがと」
小声で返したけど、心の中はちょっと誇らしかった。
近くにいた玲斗くんと目が合ってニコッとハニかまれかた
「俺は信じてたよ」みたいな目
このクラスも捨てたもんじゃなくて嬉しく感じた
モヤモヤが全部なくなったわけじゃないけど──
少なくとも、もう“逃げない”って決めたんだ
たぶんそれだけで、十分じゃん?今日のあたしには。
「……ありがと」
呟いた声は、部屋の中で静かに消えてった。
電車の中も、登校中の坂道も、あたしの頭の中はぐるぐると昨日のことばっかり。
“明日から学校行くの嫌だな”って思ってたけど、行かないわけにもいかない。
それに、先生に会いたくないとかよりも、今は麻央ちゃんのことの方が、正直、怖かった。
教室のドアを開けた瞬間、空気が少しだけ揺れたような気がした。
たくさんの視線
それが全部、あたしに向いてる。
「……な、なに?」
知らない。そんな目で見られる理由、なんにもない。
そう思いながら自分の席に向かっていくと、
「ちょ、ちょっと葵!!」
ナチの焦った声が後ろから響いて、振り返るよりも先にナナとアリサも手を引いてきた。
「ちょっと!とりあえず出よ!!教室から!!」
「え!?なに?」
無理やり教室を引きずり出されるみたいにして、廊下の隅っこ。
誰も通らない階段の裏に連れて行かれて、ナチがあたしの両手を握ってこう言った。
ナチ「……葵、先生と手繋いだん?」
あたしの心臓が、ドクンって跳ねた。
「なんでっ?」
なんで知ってんの?
知らないふりなんてできるはずもない。
でも、ナチの目が、本気であたしを見ていて、冗談を言ってる顔じゃなかった。
ナナ「今クラス状況は、葵と先生が手を繋いで帰ってたって噂が流れてる」
アリサ「それでキヨにガチ恋してる子とか泣きだしてさやばかったよね」
葵「はぁ」
来なきゃ良かったわ
こんなことになるなら
ナチ「うちらには話せるでしょ?正直に答えて?」
葵「繋ぎました。」
ナナ「付き合ってはないんだよな?」
葵「さすがにない」
ナチ「じゃあなんで繋いだん?」
葵「なんで…暗くて怖かったからかな」
葵「けど繋いだの隠してた訳じゃなくてっまた今度落ち着いたら言おうと思ってて」
なんであたしこんなに焦ってんの…
アリサ「あおちんはキヨのこと好きなの?」
葵 「好き……じゃない」
ナナ「今の貯め方はそれ好きだよ」
ナチ「葵自身、気持ちの整理まだついてないぽいね」
葵「もうどうしていいかわかんないんだよっ!」
思わず取り乱してしまった
昨日からずっと考えて悩んで結局解決できなくて
それで朝からこんなことになって、どうしたらいいんだよ
葵 「先生を好きになるなんてありえないでしょ、それに放課後に先生と遊んでるのもなんか急に変に感じてっ」
思わず耐えれなくて泣いてしまった
ナチが頭を撫でてくれる。あたしはひとりじゃないんだ、最初からこうやって友達に聞いてもらえば良かったな
アリサ「葵さキヨの話する時とかキヨと遊びに図書室行く時めっちゃ笑顔になるの自分で知ってた?」
葵 「そうなの?」
ナチ「あおは、隠し事下手だから好きなんだろなってうちら気づいてたよ、でもあおは頑なに否定するから自分の気持ちに気づいてないんだろなとか思って」
葵「あたし先生のこと結局好きになっちゃたってこと?」
アリサ「じゃあいつも目で追って、気づいたらその人のこと考えて、触れたらドキドキして、他の人と話してたらムカついたり、苦しくなる?キヨとは」
葵「な、なります。」
これが好きだって気持ちだったんだ
ほんとにあたし先生のこと好きだったんだ
けど認めたくなかった
葵「だけど、おかしいってそんなの…先生だよ?」
ナチ「所詮人間なんだし先生のこと好きになるくらい普通だと思うよ?」
ナナ「それな」
アリサ「誰にも言ってなかったけどうっしーのこと一時期好きだったよ」
ナチ「ええええー!言えよそれ!!超いいじゃん!!」
アリサ「けどさうっしー既婚者だって知って引き下がったんだわ」
ナナ「あれにガチ恋したら抜け出せなくなりそうだな」
アリサ「ほんとそれ」
ナチ「葵、アリサみたいに先生を好きになるのなんて普通のことなんだよ」
認めていいのかな、まだ自信が無い
だけど誰かと付き合ったら、結婚したらすごく嫌
あたしが先生の隣にいたいと少しは思う
はぁなんなんだよ、
ナチ「てかさ、とりあえず噂の件はウチらがなんとかするから安心して?」
ナナ「“繋いでない”ってウチら全力で言い切ったら収まるっしょ!証拠もないし」
アリサ「逆に『そんなことあるわけないじゃん』って笑い飛ばしとくからさ」
葵「……ほんとに、ありがとまじで助かるみんな大好きだよっ!」
ナチ「葵がバカ真面目にそんなこと言ったらなんかキモいな」
葵「おい」
ナチ「まぁ葵がひとりで全部抱えて泣くとか、うちら的にマジ許せんから次からは絶対相談して?」
ナナ「うちら、あんたの味方だからさ」
アリサ「あたしら葵の心の友だろ?」
最初から相談すればよかったんだ
一人で考えた時は受け入れられなかったのに
ナチ達に聞いてもらったら少しずつ受けいられるようになった
自分で抱え込んで、勝手に決めつけて、傷ついて、避けて。
バカみたい。全部、今さら。
でも、好きになったって気づけただけ、ちょっと前に進めた気がする。
葵「ありがと、うちらって最高」
ナチ「うちら最強!」
アリサ「え〜!次は図書室でキヨと何かあったら即報告な?」
ナナ「ちゃんと実況中継してくれなきゃ嫌だから」
葵「実況て笑あたしそんな余裕ないと思うけど」
ナチ「てかキヨの方も絶対葵のこと好きだろ」
アリサ「それなじゃなきゃ手なんか繋がねぇよな」
葵「それは有り得ねぇって笑笑」
4人で笑いあったその瞬間だけ、少しだけ空気が軽くなった。
まだモヤモヤしてるけど、ちょっとだけ前に進めた気がする。
ナチ「でさ、噂がどっから出たんか気になってんけど…あおがキヨと手繋いだの知ってんのって、今うちら以外だと誰?」
葵「麻央ちゃんしかいない」
全員の表情が一瞬だけ、ピリッと強張った。
アリサ「……マジかぁ。あの子か……」
葵「麻央ちゃんのこと知ってんの?」
アリサ「あいつ有名だぞ知らない方が少ないんじゃね?」
ナチ「それは確定なん?」
葵「あの子以外にありえないんだよ」
ナナ「麻央って2年お姫様みたいな子だよな?」
アリサ 「そうめっちゃタチ悪いよあの子」
葵「ほんとめんどくさいことになってんだよな」
ナチ「……でもさ、あの子ってキヨに助けてもらったことあるって話じゃん? なんか、それでめっちゃ依存してるってうち聞いたけど」
ナナ「なんかキヨと付き合ってんじゃね?みたいな噂も去年あったよな」
アリサ「てか、ちょっと前も“先生が他の子と仲良くしてたらヤバくなる”って、誰か言ってたよ。多分あれ、葵のことだったんだよ」
葵「全く知らんかったわ、人間が1番怖ぇ」
アリサ「まぁ2年だし関わらねぇもんな」
怖い。けど、向き合わなきゃって思った。
ナチ「ま、何かあったらすぐ言って?あたしらがついてるから」
葵「ありがとみんなお節介でちょっとうざいけど、まじ感謝してる」
ナチ「は?今“うざい”って言った?聞こえてんぞ」
アリサ「でたツンデレあおちん」
やっと冗談も挟めるようになった
あたしやっぱ友達大好きだわ
先生ともし出会ったら昨日のこと謝ろ
なんかワクワクしてきた!!
あたし単純なんだな
でもそれでいいのかも。
ちゃんと「好き」って気づけたから。
認めた瞬間、苦しかった気持ちがほんの少しだけ軽くなった。
ナチたちのおかげだ。
ナチ「そろそろ一限始まるし戻るか」
ナナ「あ、一限水泳だわアリサ」
アリサ「水着持ってきてねぇ」
ナナ「私もだよ」
葵「さぼるんじゃねぇーぞ」
ナナ「マックいく?」
アリサ「いや今日はうっしーの顔拝んでくるわ」
ナチ「あははかっこいいもんね行ってらっしゃい」
ナナ「じゃあまた昼休みな〜!」
葵「ばいばーい!」
そう言ってあたしとナチは教室に戻った。
教室に入るとまだ視線は痛い
ナチ「言いたいことあるんだったら面と向かって言えよ女々しいヤツらだお前ら」
ナチがクラスの子達に言った
みんなザワザワしてる
1人のクラスの子が「清川と付き合ってんの?」と言った
ここでキッパリあたしから言わないとダメな気がした
「付き合うわけねぇだろそんな噂信じて何になんだよ」
そしてまた他の子が「でも手繋いだの見たって奴がいんだよどう説明すんの?」と言った
「じゃあ証拠あんのかよ?繋いだ証拠だせよ早くおい!」
クラス中が一瞬、シン……と静まり返った。
あたしの声が思った以上に大きくて、みんなが息を呑んだのがわかった。
その静けさの中で、誰かがごにょごにょと口を開く。
「……いや、見たって言ってた奴はいたけど……その、証拠って言われたら……」
「無いんだろ?じゃあ終わりじゃん、その話」
あたしが言い切ると、教室の空気がまた少しザワッと揺れた。
でもさっきまでの「噂で騒ぎたい空気」から、ちょっとだけ「もう引くべきかな」って雰囲気に変わった気がした。
ナチがすかさず被せるように言う。
ナチ「つーか証拠もないくせに人のこと悪く言ってんのマジでダサすぎだろ」
あたしは、深呼吸を一つしてから、もう一度クラスをぐるっと見渡す。
「……勝手に噂して、勝手に怒って、ほんと意味わかんないんだけど。あたし、誰とも付き合ってないし、先生とだって何もないから。勘違いすんなよただの噂で」
少しだけ震えてたけど、それでもあたしの声はちゃんと届いた気がした。
その瞬間、誰かが小さく「……まあ、そうだよな」とつぶやいて、
それを機に、クラスの空気がゆっくりと通常モードに戻っていった。
机に戻るとき、ナチがポンっとあたしの背中を軽く叩いた。
「よく言ったじゃん偉い!」
「ははっありがと」
小声で返したけど、心の中はちょっと誇らしかった。
近くにいた玲斗くんと目が合ってニコッとハニかまれかた
「俺は信じてたよ」みたいな目
このクラスも捨てたもんじゃなくて嬉しく感じた
モヤモヤが全部なくなったわけじゃないけど──
少なくとも、もう“逃げない”って決めたんだ
たぶんそれだけで、十分じゃん?今日のあたしには。



