放課後
終礼が終わってナチ達ともバイバイして図書室に向かった。
最初はあんなに嫌だったのに、今じゃバイトも土日に変えて図書室に行きたいとまで思っている。
怖いね人間って
図書室のドアをそっと開けたら、見慣れた襟足の長い髪と背中が見えた。だけど話し声が聞こえて入るのに戸惑う。
この声、麻央ちゃんだ…
「先生ってば、麻央と全然話せてなくて寂しかったでしょ〜?」
先生は苦笑いしながら、机に肘ついて麻央ちゃんの話を聞いてる。
何だこのイライラは!!
語尾伸ばすなよ!
なんかムカつく話し方すんなぁ!!
「はいはい、そりゃもう毎日枕濡らしてたよ〜」
「も〜先生ってばまた適当言って!」
まるでコントでも見てるみたいに、テンポよくやりとりしてて。
あたしと話してる時より楽しそうじゃん
「ねぇ〜最近LINE全然返してくんないじゃん〜麻央のこと嫌い?」
「あ、まじで?本当だ心で返してたわ〜」
LINE、この子とは交換してるんだ
あたしの時ははぶらかされたのに。
「ねぇ、麻央以外に交換してる人いるの〜?」
「麻央しかいねぇよ」
「そうなの!?いつも一緒にいる子とはもう交換してるのかと思ってたぁ!嬉しい」
あ、あたしのこと?なに?怖いよ
こんな子に目つけられたら普通にいじめられそう
「あいつは………だから」
うわ聞こえなかったくっそ!今1番いいとこだっ
たのに!!
なんでそこだけ声小せぇんだよ
「ふーんそうなんだー」
なんかあからさまに怒ってる?なに?
「先生はいつ麻央のこと好きになってくれるの?ねぇっ」
「いつだろな〜」
「真剣に言ってるんだよっ?先生にとったら麻央なんてただの生徒かもしれないけど麻央はたった1人の大好きな人なのにっ!なんでわかってくんないの!」
見た目によらずヒステリック系か
だいぶめんどくさいな
「落ち着けって俺だって大切な子だって思ってるって」
「思ってたら麻央のこと放置してあの女の子と遊ばないよ!!手も繋がないでしょ!!」
ちょ待って?今なんて?手?繋いだって?なんで知ってんの?なんで知ってんのよ!怖い怖い、えやばいって
「何の話だよそれ」
先生は冷静に話してるつもりだろうけど、結構焦ってる声してる
「とぼけても無駄だよ見ちゃったもん〜付き合ってんの?」
「何を?誰と?ちゃんと言えよ麻央」
「昨日あの子と手繋ぎながら外歩いてんの見たよ〜これ校長に知られたらどうなるかな?」
「それ俺じゃねぇだろ嘘つくなよ」
先生はいつもより低い声でそう言った
「いや絶対先生でしょ?先生こそ嘘つかないでよ」
やばいこれやばいよ
この子なら何しでかすか分からない
「俺はあいつに触れたとこも触れられたこともねぇって」
「ふーん?あたしだけ?特別?」
「あぁ」
「好きだよ先生」
「…」
気まずい
めっちゃ気まずい何この空気
もう帰ろうかな
と、その時先生と目が合った
すごい申し訳なさそうな顔してる
「麻央もう帰れよ図書委員始まるし」
いいぞいいぞ!!帰らせろ!
「なんでぇ?もうちょっと一緒にいたい」
「てか今日は麻央が図書委員するから〜」
そう言って麻央ちゃんは先生の腕にまとわりついた。先生は解きもしないし受け入れてた
普段からこんな感じなんだこの2人
「わがままなやつは俺からモテねぇぞ〜」
「え〜かえりまーす!」
「だから久々にぎゅーして?」
「したことねぇーだろっ!」
そう言って2人は笑いあってる
あたし、今日来なきゃよかったわ
この空気の中、どの面下げて入ってけばいいのよ。
図書委員として?葵として?どっちでもムリ
限界です。
「じゃあ帰るね!先生ばいばーい!帰ったらLINEするねっ!」
「あぁばいばい!」
ちょっと待って来るんだけど!!
あたし、待ってどのに隠れてればいい!?なに?
そう焦っていたら麻央ちゃんとすれ違い目が合った。
強い眼力で
「先生は麻央のだから邪魔しないでバイバイ葵ちゃん」
と言った
要するに「あんたの負けだよ」って言ってるみたい。ものじゃねぇーし
勝ちたくもねぇよ
いやてか待てなんであたしの名前知ってんの!?
怖い恐怖!そこら辺のお化けより怖い
ストーカーとか普通にやってそうだしな
ヤバい奴に好かれてる先生も大変だな
「…………はぁ」
ため息ひとつ、飲み込んでから閉められたドアをゆっくり押す。
「よっ!モテ男さん」
「モテてねぇんだわ」
「怖いねあの子」
「乗り切ったぁぁあいつやべぇだろ」
「ちょ聞いてよ!!」
あたしはさっきの麻央ちゃんとの出来事を話した
「あいつマジでやばいわ、俺も怖ぇもん」
「あと俺葵の名前とか麻央に一言も話してないからな」
「あたし殺されるんかな」
「覚悟は持っといた方がいいかもな」
「物騒すぎんだろ」
「いや冗談も言えねぇくらいあいつ何するかわかんねぇ」
先生が真剣な顔してる
これマジでまずいやつだ
「もし明日、手繋いでたとこ学校の誰かに広まったら知らないフリしろいいな?」
「わかった」
「あいつのことだから写真とか撮ってるかも知んねぇけど」
「マジでごめんあたしのせいだ」
「いや俺が提案したから俺が悪い」
「てかなんで先生はあの子にそんな好かれてるの?」
「んー昔あいついじめられてて、俺がそれを助けたんだよ。ならこうなっちまった」
「そら好きになるかぁ」
分からなくもない。自分がどん底に落ちてる時、興味ない人でもかっこよく見えて好きになるな
「とりあえずマリカすっか」
「もう疲れたし帰りたいんだが」
「反省文3枚追加な」
「うっ覚えてたか」
「よっしゃセーフってな」
「まじでやめて?黒歴史だから」
「てかレトと何話してたん?」
ん?なんで知ってんの?怖いこの先生もあの子も怖いよ
「何嫉妬?笑笑」
茶化すようにあたしがそう言った
だけど
先生の耳が図星ですって言ってるように赤くなる
こいつあたしのこと好きだろ笑笑
「別に?そこ仲良いんだ〜とか思ってさ」
「最近よく喋るなぁ」
「へー別に興味ねぇけど」
「別にってなんだよ」
「いやお前がレトと付き合ったりしたら俺誰とマリカすんだよ」
「しらねぇよ1人でしろよ」
「お前とが、いいんだよっ」
「な、なにそれ…」
この人、いま…なんて?
あたしの心が高鳴った
すごくドキドキする。昨日手を繋いだときみたいに
「……っ、あ、いや、違ぇよ、今のは……その、勢いっていうか、お前が弱いから!!!!!」
「それはそれでだるい」
先生は焦って、目を泳がせながらあたしから視線を逸らす。
あんたがそうなるとこっちも困るっての。
でも、嫌じゃない。
むしろ、ちょっとだけ、嬉しいかもしれない。
あたしは机の端っこに腰をかけながら、なるべく平然を装って口を開く。
「先生ってさ、わりとバレバレだよ」
「何がだよ」
「耳」
「耳?」
「さっきから真っ赤だけど熱でもあんの?」
「それは!お前が変なこと言うから…!」
「え〜?あたしなーんにも言ってませんけど〜?なんならそっちが変なこと言ってますよ〜」
にやにやして言うと、先生があたしの額を叩いて小さく舌打ちした。
「いって!!」
「あー、やっぱ俺、お前苦手だわ」
「それ、今さら?」
あたしが笑うと、先生もつられて少しだけ笑った。
さっきまでの麻央ちゃんとの空気なんか吹き飛んで、ようやく、ふたりらしくなった気がする。
慣れた手つきでテレビにSwitchを繋げた
「連続で10回な」
「は?!それは無しだろハンデつけろよ」
「まぁ正直昨日お前頑張ったからなしでもいいけど」
「無しにしてくださいほんとに土下座でもなんでもするから」
「言ったな?土下座しろよ??」
こいつ今めっちゃ悪い顔してるわ〜
するわけねぇだろ
「お前がしろよ」
「俺生徒にお前とか言われたの初めてだわ先生と思ってんのか?」
「え?思ってませんけどぉ〜?」
あたしがわざとぶりっ子風に言ってみせると
先生は盛大にため息をついた
くだらないこと言い合ってるくせに、あたしの心臓はずっと、さっきの「お前とが、いいんだよ」がリピートしてる。もうそれしか考えられない
だんだんキモくなってきた
有り得ねぇよ普通に
好かれるのも好くのもおかしい
この関係も、なんか急に嫌になってきた
気づけば、コントローラー握ったままぼーっとしてた。
「おい、なにフリーズしてんだよ。勝手に開始すんぞ?」
「帰りたい」
「は?なんで?」
「疲れた」
「おつかれ、けどおれマリカしてぇ」
「あたしら先生と生徒の関係だよな」
「そうだけど?なに?」
「それが放課後マリカしてんのって、おかしくね?」
「何言ってんだよ今更だろ?ほらやるぞ」
「ごめん今日は帰るSwitchも貸すから」
「え、まじで帰んの?ノリわりぃってあおちん」
「ごめんそんな気分になれないわ」
「急にどうしたんだよ?」
「いやちょっと納得いかない」
そう言って立ち上がると、椅子がギィと嫌な音を立てた。
あたしの中にある“普通”とか“正しさ”とか、そういうものが一気に騒ぎ出す。
先生は驚いたような顔をしてこっちを見てた。
あたしの表情を読むみたいに、じっと見つめてる。
「何か、俺がやらかした?」
「ちがう」
「じゃあなんで?」
「わからん」
「葵っ」
そんな悲しい声であたしを呼ばないで
どうしたらいいのよ何が正解なの?
何だこの気持ちは、仲のいい先生と生徒でいいじゃないか。このままでいいのに、普段なら普通にできるのに今のあたしの口は止まらなかった
「昨日手、繋ぐんじゃなかった」
「ごめん俺のせいだな」
「もういいよ」
先生はなにも言わなかった。
机の上のSwitchのコントローラーを握ったまま、指一本動かさない。
あたしの足音だけが、図書室の床に響いてた。
「じゃ、また明日……って言っても、明日は来ないかも」
「俺は待ってる」
「待たなくていい」
「葵なんか今日変だぞ」
「そうかもね」
「行くなよっ」
「じゃあまたね」
そう言ってあたしは図書室を後にした。
「行くな」って言うくせに引き止めには来ないんだな
先生泣きそうな顔してた。
あぁ胸が痛い。
もう何が正解なんだよ。
きっと今のあたしは麻央ちゃんに嫉妬してるんだ。
あたしといる時よりも楽しそうに話してさ。
だけどそうなればあたしは先生のこと、好きだって言ってるみたいでムカつく。
あたし先生のこと好きじゃない……よね?
終礼が終わってナチ達ともバイバイして図書室に向かった。
最初はあんなに嫌だったのに、今じゃバイトも土日に変えて図書室に行きたいとまで思っている。
怖いね人間って
図書室のドアをそっと開けたら、見慣れた襟足の長い髪と背中が見えた。だけど話し声が聞こえて入るのに戸惑う。
この声、麻央ちゃんだ…
「先生ってば、麻央と全然話せてなくて寂しかったでしょ〜?」
先生は苦笑いしながら、机に肘ついて麻央ちゃんの話を聞いてる。
何だこのイライラは!!
語尾伸ばすなよ!
なんかムカつく話し方すんなぁ!!
「はいはい、そりゃもう毎日枕濡らしてたよ〜」
「も〜先生ってばまた適当言って!」
まるでコントでも見てるみたいに、テンポよくやりとりしてて。
あたしと話してる時より楽しそうじゃん
「ねぇ〜最近LINE全然返してくんないじゃん〜麻央のこと嫌い?」
「あ、まじで?本当だ心で返してたわ〜」
LINE、この子とは交換してるんだ
あたしの時ははぶらかされたのに。
「ねぇ、麻央以外に交換してる人いるの〜?」
「麻央しかいねぇよ」
「そうなの!?いつも一緒にいる子とはもう交換してるのかと思ってたぁ!嬉しい」
あ、あたしのこと?なに?怖いよ
こんな子に目つけられたら普通にいじめられそう
「あいつは………だから」
うわ聞こえなかったくっそ!今1番いいとこだっ
たのに!!
なんでそこだけ声小せぇんだよ
「ふーんそうなんだー」
なんかあからさまに怒ってる?なに?
「先生はいつ麻央のこと好きになってくれるの?ねぇっ」
「いつだろな〜」
「真剣に言ってるんだよっ?先生にとったら麻央なんてただの生徒かもしれないけど麻央はたった1人の大好きな人なのにっ!なんでわかってくんないの!」
見た目によらずヒステリック系か
だいぶめんどくさいな
「落ち着けって俺だって大切な子だって思ってるって」
「思ってたら麻央のこと放置してあの女の子と遊ばないよ!!手も繋がないでしょ!!」
ちょ待って?今なんて?手?繋いだって?なんで知ってんの?なんで知ってんのよ!怖い怖い、えやばいって
「何の話だよそれ」
先生は冷静に話してるつもりだろうけど、結構焦ってる声してる
「とぼけても無駄だよ見ちゃったもん〜付き合ってんの?」
「何を?誰と?ちゃんと言えよ麻央」
「昨日あの子と手繋ぎながら外歩いてんの見たよ〜これ校長に知られたらどうなるかな?」
「それ俺じゃねぇだろ嘘つくなよ」
先生はいつもより低い声でそう言った
「いや絶対先生でしょ?先生こそ嘘つかないでよ」
やばいこれやばいよ
この子なら何しでかすか分からない
「俺はあいつに触れたとこも触れられたこともねぇって」
「ふーん?あたしだけ?特別?」
「あぁ」
「好きだよ先生」
「…」
気まずい
めっちゃ気まずい何この空気
もう帰ろうかな
と、その時先生と目が合った
すごい申し訳なさそうな顔してる
「麻央もう帰れよ図書委員始まるし」
いいぞいいぞ!!帰らせろ!
「なんでぇ?もうちょっと一緒にいたい」
「てか今日は麻央が図書委員するから〜」
そう言って麻央ちゃんは先生の腕にまとわりついた。先生は解きもしないし受け入れてた
普段からこんな感じなんだこの2人
「わがままなやつは俺からモテねぇぞ〜」
「え〜かえりまーす!」
「だから久々にぎゅーして?」
「したことねぇーだろっ!」
そう言って2人は笑いあってる
あたし、今日来なきゃよかったわ
この空気の中、どの面下げて入ってけばいいのよ。
図書委員として?葵として?どっちでもムリ
限界です。
「じゃあ帰るね!先生ばいばーい!帰ったらLINEするねっ!」
「あぁばいばい!」
ちょっと待って来るんだけど!!
あたし、待ってどのに隠れてればいい!?なに?
そう焦っていたら麻央ちゃんとすれ違い目が合った。
強い眼力で
「先生は麻央のだから邪魔しないでバイバイ葵ちゃん」
と言った
要するに「あんたの負けだよ」って言ってるみたい。ものじゃねぇーし
勝ちたくもねぇよ
いやてか待てなんであたしの名前知ってんの!?
怖い恐怖!そこら辺のお化けより怖い
ストーカーとか普通にやってそうだしな
ヤバい奴に好かれてる先生も大変だな
「…………はぁ」
ため息ひとつ、飲み込んでから閉められたドアをゆっくり押す。
「よっ!モテ男さん」
「モテてねぇんだわ」
「怖いねあの子」
「乗り切ったぁぁあいつやべぇだろ」
「ちょ聞いてよ!!」
あたしはさっきの麻央ちゃんとの出来事を話した
「あいつマジでやばいわ、俺も怖ぇもん」
「あと俺葵の名前とか麻央に一言も話してないからな」
「あたし殺されるんかな」
「覚悟は持っといた方がいいかもな」
「物騒すぎんだろ」
「いや冗談も言えねぇくらいあいつ何するかわかんねぇ」
先生が真剣な顔してる
これマジでまずいやつだ
「もし明日、手繋いでたとこ学校の誰かに広まったら知らないフリしろいいな?」
「わかった」
「あいつのことだから写真とか撮ってるかも知んねぇけど」
「マジでごめんあたしのせいだ」
「いや俺が提案したから俺が悪い」
「てかなんで先生はあの子にそんな好かれてるの?」
「んー昔あいついじめられてて、俺がそれを助けたんだよ。ならこうなっちまった」
「そら好きになるかぁ」
分からなくもない。自分がどん底に落ちてる時、興味ない人でもかっこよく見えて好きになるな
「とりあえずマリカすっか」
「もう疲れたし帰りたいんだが」
「反省文3枚追加な」
「うっ覚えてたか」
「よっしゃセーフってな」
「まじでやめて?黒歴史だから」
「てかレトと何話してたん?」
ん?なんで知ってんの?怖いこの先生もあの子も怖いよ
「何嫉妬?笑笑」
茶化すようにあたしがそう言った
だけど
先生の耳が図星ですって言ってるように赤くなる
こいつあたしのこと好きだろ笑笑
「別に?そこ仲良いんだ〜とか思ってさ」
「最近よく喋るなぁ」
「へー別に興味ねぇけど」
「別にってなんだよ」
「いやお前がレトと付き合ったりしたら俺誰とマリカすんだよ」
「しらねぇよ1人でしろよ」
「お前とが、いいんだよっ」
「な、なにそれ…」
この人、いま…なんて?
あたしの心が高鳴った
すごくドキドキする。昨日手を繋いだときみたいに
「……っ、あ、いや、違ぇよ、今のは……その、勢いっていうか、お前が弱いから!!!!!」
「それはそれでだるい」
先生は焦って、目を泳がせながらあたしから視線を逸らす。
あんたがそうなるとこっちも困るっての。
でも、嫌じゃない。
むしろ、ちょっとだけ、嬉しいかもしれない。
あたしは机の端っこに腰をかけながら、なるべく平然を装って口を開く。
「先生ってさ、わりとバレバレだよ」
「何がだよ」
「耳」
「耳?」
「さっきから真っ赤だけど熱でもあんの?」
「それは!お前が変なこと言うから…!」
「え〜?あたしなーんにも言ってませんけど〜?なんならそっちが変なこと言ってますよ〜」
にやにやして言うと、先生があたしの額を叩いて小さく舌打ちした。
「いって!!」
「あー、やっぱ俺、お前苦手だわ」
「それ、今さら?」
あたしが笑うと、先生もつられて少しだけ笑った。
さっきまでの麻央ちゃんとの空気なんか吹き飛んで、ようやく、ふたりらしくなった気がする。
慣れた手つきでテレビにSwitchを繋げた
「連続で10回な」
「は?!それは無しだろハンデつけろよ」
「まぁ正直昨日お前頑張ったからなしでもいいけど」
「無しにしてくださいほんとに土下座でもなんでもするから」
「言ったな?土下座しろよ??」
こいつ今めっちゃ悪い顔してるわ〜
するわけねぇだろ
「お前がしろよ」
「俺生徒にお前とか言われたの初めてだわ先生と思ってんのか?」
「え?思ってませんけどぉ〜?」
あたしがわざとぶりっ子風に言ってみせると
先生は盛大にため息をついた
くだらないこと言い合ってるくせに、あたしの心臓はずっと、さっきの「お前とが、いいんだよ」がリピートしてる。もうそれしか考えられない
だんだんキモくなってきた
有り得ねぇよ普通に
好かれるのも好くのもおかしい
この関係も、なんか急に嫌になってきた
気づけば、コントローラー握ったままぼーっとしてた。
「おい、なにフリーズしてんだよ。勝手に開始すんぞ?」
「帰りたい」
「は?なんで?」
「疲れた」
「おつかれ、けどおれマリカしてぇ」
「あたしら先生と生徒の関係だよな」
「そうだけど?なに?」
「それが放課後マリカしてんのって、おかしくね?」
「何言ってんだよ今更だろ?ほらやるぞ」
「ごめん今日は帰るSwitchも貸すから」
「え、まじで帰んの?ノリわりぃってあおちん」
「ごめんそんな気分になれないわ」
「急にどうしたんだよ?」
「いやちょっと納得いかない」
そう言って立ち上がると、椅子がギィと嫌な音を立てた。
あたしの中にある“普通”とか“正しさ”とか、そういうものが一気に騒ぎ出す。
先生は驚いたような顔をしてこっちを見てた。
あたしの表情を読むみたいに、じっと見つめてる。
「何か、俺がやらかした?」
「ちがう」
「じゃあなんで?」
「わからん」
「葵っ」
そんな悲しい声であたしを呼ばないで
どうしたらいいのよ何が正解なの?
何だこの気持ちは、仲のいい先生と生徒でいいじゃないか。このままでいいのに、普段なら普通にできるのに今のあたしの口は止まらなかった
「昨日手、繋ぐんじゃなかった」
「ごめん俺のせいだな」
「もういいよ」
先生はなにも言わなかった。
机の上のSwitchのコントローラーを握ったまま、指一本動かさない。
あたしの足音だけが、図書室の床に響いてた。
「じゃ、また明日……って言っても、明日は来ないかも」
「俺は待ってる」
「待たなくていい」
「葵なんか今日変だぞ」
「そうかもね」
「行くなよっ」
「じゃあまたね」
そう言ってあたしは図書室を後にした。
「行くな」って言うくせに引き止めには来ないんだな
先生泣きそうな顔してた。
あぁ胸が痛い。
もう何が正解なんだよ。
きっと今のあたしは麻央ちゃんに嫉妬してるんだ。
あたしといる時よりも楽しそうに話してさ。
だけどそうなればあたしは先生のこと、好きだって言ってるみたいでムカつく。
あたし先生のこと好きじゃない……よね?



