「嫌でなければ、使ってください」
「え、悪いよ。それに君は」
「私はもう一つあるので大丈夫です!」
もう一つ、あるのか。
傘を渡してきたあげく無理矢理相合傘をさせようとしてくる女子もいたが、そうではないらしい。
「あ……、ありがと」
不思議だ。
今までは欲しいと思わなかったのに、無償にそれが欲しいと思った。
なぜだ?
首を傾げていると、折りたたみ傘を開いて歩きかけた彼女が不意に振り向いて。
「……ふふっ、メリークリスマス、です」
そう、フワリと笑ったんだ。
ああそうか、今日はクリスマスイブだ。
そう思うまでに数秒かかった。
雪の中、そう言った彼女ははっきりと浮き出て見えて。
今までの、俺を道具にするための笑顔、俺に媚びるための笑顔、そんな『偽の笑顔』ではない純粋な微笑みで。
俺は手元のビニール傘についている水色のキーホルダーを愛しげな目で見つめた。
ホワイトクリスマスに出会った彼女──瑠亜は、あの日、俺に最高のプレゼントをくれた──
"初恋"というプレゼントを。
琳斗 side end



